ぼくたちと駐在さんの700日戦争

森田くんは、毎日、恵美ちゃんと同じ方向のバスに乗り、4分後に到着する上りのバスでもどるのが日課になっていました。
厳格な森田家にあっては、このバスの時間が貴重なランデブーだったわけです。

バス停に到着し、恵美ちゃんと一緒に降りる森田くん。

それから2分だけ。橋のたもとまで恵美ちゃんを送ります。

「じゃあ。気をつけて」。
「ウン・・・」。

僕が柳に宣戦布告したため、森田くんにとって、この日の別れ際はいつもとは違いました。
しかし、上りの1本を遅らせると、その後1時間以上待たなくてはならない田舎のバスダイヤ。
森田くんは、バスの窓から、いつまでも恵美ちゃんの姿を見つめていました。

恵美ちゃんがひとりになって、歩き始めてわずか1分後。

すぐ前の脇道に停まっていた車から数人。男が降りてきたかと思うと

「恵美ちゃん？」

「え？」

「ちょっとつきあってくんねぇかなぁ。あ？」

いかにもゴロツキといった風体の3人に、呼び止められた恵美ちゃん。

「なぁーに。時間はくわせねぇって。すぐだよ、すぐ」。
「そうそう。おとなしくついてきてくれればよ」。

「・・・・」。
恵美ちゃんは返事をしません。

「たのむよ～～。恵美ちゃんよ～～～。慣れてんだろ？」

「・・・・」。

「俺たちも手荒なことはしたくねぇし～～～」。

高校生よりは少し年上くらいでしょうか。
背は高く、無精髭に、ポマードベッタリです。

やっと恵美ちゃん。
「手荒な・・・・？こと・・・・？」。

「そうそう。キモチイイ事とどっちがいい？」

「キモチイイこと？」

が。次の瞬間。

　ドスッ！

「気持ちいいことってのは、こういうことかぁ？んあ？ヒョウタン野郎！」

「げ!?」
「な、なんだ!?」

恵美ちゃん。いきなり相手のみぞおちにパンチ！

「もっぺん言ってみろ！うらぁああああああ！」

恵美ちゃん、強いっ！
そのヒョウタン野郎の腕を後ろ手にひねりあげました。

「イテテテテテテテ！」

残りの2人は、恵美ちゃんの強さに唖然として、立ちすくんでいます。

「こ、こいつ！」


この様子を、トレノから見守っていた僕。
「よし！じゃ、みなさんよろしく！」

「おお！まかしときな！」

その3人に対峙するように集まった女子高生3人。

「な、なんだぁ？てめぇら？」

これを確認して
「僕らも行くぞ。村山！」
「おお！」
僕と村山くんも応援にかけつけます。

恵美ちゃん。
「あんたら。あたしの顔を知らないってことは、右京の一派じゃないねぇ？」

「んん？右京ぉお？」
ゴロツキ代表が、奇妙な顔をしました。

「げっ！て、てめぇは！」

そうです。「強い恵美ちゃん」の正体は

「き、北女のお欄！」

実はお欄さん！
が、事のなりゆきが少しへんです。

「な、なんだっててめぇ、女子高生のカッコなんか・・・」。
ゴロツキが驚いています。

「わかった！留年か？」

　ドスッ！

OLになろうが元スケ番は元スケ番。
あいかわらず乱暴です。

「す、すまねぇ・・・お欄・・・」。

恵美ちゃん、あらため、スケ番お欄さん、あらため、OL早苗さん。
「あれぇ？そういうてめぇは。N定のセイジじゃねぇか」。
殴ってから気づくというのも・・・。

「おお。ひさしぶりだなー。お欄」。

　ドスッ！

「今は早苗なんだよ！さ・な・え。わかったか？ああ？セイジ！」

前はそう呼ばれると怒ったくせに。

「お、おお・・・。わ、わかった。スケ番早苗」。

　ドスッ！

「OLな？OL。英語勉強しろよぉ！セイジぃ」。

OLを強要されるってのもめずらしい。

「わ、わかったって。けどお欄・・・早苗よー、なんだってまたセーラーなんぞ着てやがる？」

「あ？ちょっとな。ダチに頼まれてよ」。

そうです。僕はお欄さんに恵美ちゃんの身代わりを依頼していました。
お欄さんなら、停学になることはすでにありませんし、もし相手が右京一派であるなら事前に顔がわかるはず。
まさしく一石二鳥の「盤外の飛車」。

が、お欄さんは、叔父さんの会社にいるとはいえ、すでに社会人。どうしても「恵美ちゃんが襲われる」日時を確定する必要がありました。
そこで僕は、前日にわざわざ柳に宣戦布告をしたのです。
焦った柳は、まんまと恵美ちゃんにしかけてきました。しかも予想通りの、最も短絡的方法で。

僕と一緒の女子高生3人は、実はお欄さんの後輩。
北女のスケ番グループです。
「あれ？姐さん、こいつら、お知り合いで？」

「ああ。こいつはN定のワルでセイジってんだ。ほら、定時制は4年制だからな？あたしと同い年なんだよ」。

定時制の4年生か・・・。
なるほど。高校生以上に見えるわけだ。

セイジさんというヤツ。
「しかしなんだな。初めて見たが、お欄の足って色っぽいのな？」

　ドスッ！ドスッ！ドスッ！

「ぅぅぅぅ・・・・」。

セイジさん。わかってないなぁ。お欄さんは褒められると暴力ふるうってこと。

「ばっ、バッキャローー。あたしだって、好き好んでこんなミニスカ履いてるわけじゃねぇ！」

いや。恵美ちゃんのスカート。ごく普通の膝下ですけど。
そうか・・・お欄さんにとってはミニスカなんだ・・・。
普段長いのばっか履いてたからなぁ。

「で。セイジよー。誰に頼まれたんだ？趣味よくねーぞ。女子高生襲うなんざ」。

「ああ？こっちも後輩によ。ちょっと脅すだけでいいって言われたんだよ。なんもするつもりはねぇ」。

「ケッ。どーだかね」。

後輩？

「後輩って誰だい？」
お欄さんの質問に

「ああ。去年高校受験すべってよ。俺らの学校に入ってたヤツだ」。

そうか！楢崎、定時制に通ってたのか。
普通高校を落ちた中学生が、予備校の代わりに、二次募集のある定時制に入るのはよくあることでした。
親にすれば高校浪人よりはマシ、という感覚があったのです。

「そいつんち土建屋でよ。俺らも日頃の仕事世話してもらってるしよー。頼まれりゃノーとは言えねぇ。仁義ってやつよ」。

なるほど。
そういう関係か。

お欄さん。
「じゃぁその可愛い土建屋の後輩に教えときな。同じようなことしでかしたら、北女のこいつらが黙ってねぇってな」。

3人のスケ番グループが一派を睨みつけます。

「わかったよ、お欄。てめぇにゃかなわねぇよ」。
セイジさんは、仲間に合図して帰ろうとしましたが

「それにしてもお欄」。

「ん？」

「お前、ふくらはぎ可愛いな」。

　ドスッ！ドスッ！ドスッ！ドスッ！ドスッ！

結局ぼこぼこ。


＜※だいぶ復活～～＞

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