ぼくたちと駐在さんの700日戦争

＜ところで盗聴＞
最近大問題になっている盗聴。一般家庭でもある程度は調べることができます。
普通、盗聴はVHF波、UHF波が使われ、VHFでは26MHz～154MHz近辺、UHFでは300MHz～445MHzあたりが使われます。
このうち、柳使用の76MHz～90MHzは、一般家庭のFMラジオでも受信することができます。
また、電波には「スプリアス」と呼ばれる輻射波が出るので、FMラジオを全チャンネルまわすと、そこだけ受信が高くなって見つかることがあります（本当）。
不安なかたは一度試してみましょう。注：パソコンも切らないと反応します。


僕たちが柳にしかけた「女子トイレ盗聴」事件は、一部男子で「色ものの噂」になったものの、まったく表沙汰にはなりませんでした。
学校も隠したいほど「恥ずかしい事件」だったのでしょう。

しかけられたFMトランスミッターは、軽い改造が施されていたため「機械に詳しい人物」がリストアップされていき、当然、僕も捜査線上に上りました。

が。専用ルームに呼び出された回数は、家庭科室に入るよりずっとずっと多かった僕でした。

では始めましょう。幾多の苦難をのりこえた
『実践ママチャリ言い訳講座』。
わかりやすいようにポイントはまとめてあります。試験に出ますよ？

工藤先生。いつもと違って小声です。
「実はな。女子トイレに盗聴器がしかけられてな」。

「へ～～～～～」

＜ポイント1：導入部は必ず他人事＞

「え？僕らじゃありませんよ？」

＜ポイント2：意外表明はにぶいほどよい＞

「うむ。俺もお前らじゃないとは睨んでる。お前らのやることってのは、こー、もっとしょーもなくってギリギリ犯罪にはなってなくって巧妙で悪辣でこにくたらしくて、コンチクショーで死んでしまえで・・・」。

「もういいですから・・・」。

どこかで聞き覚えがあります。
なんにせよ、信頼があるのはなにより？

「でも。ならどうして？」

「お前も機械に詳しいから、一応な。なんだって物理の成績は悪いのかな？」

ほっとけ！

「森田は聴きました？森田のほうが詳しいですよ？」

仲間を売るようですが、このほうが説得力があるのです。

＜ポイント3：仲間を売るのは妙な説得力がある＞

「いや。森田はなぁ。ほら。2年にほら。つきあってる彼女いるだろ？」

さすが生徒指導課。よく生徒のことを知っています。

「ええ。いますけど。じゃ、彼女に聴かせてもらってるとでも？」

「えっ？え～～～～～っと」

「いくら森田に彼女がいるっていっても、さすがにそれはねぇ・・・。いえ、知りませんけどね？」

＜ポイント4：相手が落ち度を見せたらすかさず揚げ足とり＞

「先生は奥さんのを？」

＜ポイント5：攻撃は最大の防御＞

「い、いや～～～～～～～」。

「僕だって、彼女くらいいますが？」

「ああ？お前はアトランダムだろ？」

アット・・・ラン・・・ダム・・・・。英語できやがったか。（受験生向け=atrandom）

「で。先生は奥さんのを聴いたことがあると？」

＜ポイント6：攻撃の手はゆるめるな＞

「えっと・・・。まぁ、結婚して長いからな」。

「ほ～～～。興奮するもんですかね？」

「ばっ、バカ言うな！」

＜ポイント7：客観的立場で評論するのは効果絶大＞

「よし！もうわかった！帰っていいぞ」。

ほらね。

「あ。そうだ。先生。それってFMでした？AMでした？」

「どっちかな。なんでだ？」

「FMなら飛ぶ距離決まってますから。近辺の教室あたればわかりますよ？」

「となりの男子トイレからってこともあるだろうが？」

「あ・・・そうか。そりゃそうですね」。

＜ポイント8：カンペキであってはならない＞

＜まとめ：これでさらに疑われるようなら普段の行いがよほど悪いとあきらめよう＞

まったくよく言うよ。先生だって保健室にブルーフィルム隠してたくせに。

　ん？ブルーフィルム？

　そうだ・・・。なんでブルーフィルムは脅しに入っていないんだろう？



放課後。井上くんのいないバンド練習。

チャーリーズエンジェルも驚いています。
「え？井上先輩が停学ぅ？しんじらんなぁ～～～～い」。

そういう驚きかたがしんじらんなぁ～～～～～い。

「ざんね～～～ん。あたしせっかくコスチューム考えて来たのに～～～～」

「コ、コスチューム？」
「コスチュームだって？」

「じゃじゃ～～～～ん♪」。

と、ルミちゃんが開いたノートには？

「えっと・・・。それを僕たちが？」

「そうですよ？」

そうですよって・・・。

それは、
歌舞伎というか、なんというか・・・。
それ作るだけでも莫大な金がかかりそうだというか。
そもそも、そんなもん絶対着ないぞ、というか。

「え？お金は商店街に出してもらえばいいじゃないですか！CMソングなんだし！」
「そうそう。背中にナショナル。明るいナショナル♪」。

お前らステージ立たないからって好き放題・・・。

「水戸黄門にも合ってるし！」

「そうかもな～～～」
洋次はまんざらでもないようです。
お前「ジーンシモンズにかみしも」だぞ？
さらに七三ヘアーはギャグだってば・・・。

なにがお前を変えた？洋次。
客商売おそるべし。

しかし。そのデザイン画そのものは、なかなかのものだったので

「ルミちゃん。上手だね。ファッション画」。

「えへへ～～～♪先輩に褒められちゃった！」

「あ。そうか。美術部だもんね。君たち」。

「私ファッションデザイナーになるの夢なんです～。もっともっといっぱいあるんですよ？」

「へぇ」。

「けどね～～～」。
「盗まれちゃったのよね～？」
と、チエちゃん。

「盗まれたって？」

「え？先輩知りませんか？ずいぶん前だけど」
「ルミちゃんのクラスの女子のノート集団盗難があったんですよ？」

「集団盗難？ああ・・・そう言えば、そんな噂があったような・・・」。

すでに記憶にさえ薄い話でした。
得たいの知れない事件でしたが、学校にこういう怪事件はつきもの。僕にとってはどうでもいいことだったのです。

「大騒ぎだったよね！」
「うん。腹たつ～～～。結局出て来なかったし。犯人わかんなかったし」。

「それってなんのノート盗まれたの？」

「みんなバラバラ。でも女子全員だったんです」。
「なんていうか、授業以外のノート持って来た子はみんな」。
「気持ちわるかったよネ～～～」。

女子全員？
授業以外のノートって？

「ねぇ。ルミちゃん、夕子ちゃんと同じクラスだったよねぇ？」

「ええ・・・。そうですけど？」

「夕子ちゃんも、その、なんか盗まれたのかな？ノート」。

「さぁ・・・。夕子ちゃんは被害届出さなかったような覚えが・・・」。


井上くんのいない練習は、いまいちで、その日僕たちは、早々に練習を切り上げました。

帰り道。
いっしょに下校している森田くんと恵美ちゃんを発見。

「森田。今、帰りか？」

「あれ。今日は早いんだね？」

「うん。恵美ちゃんこんちは！」
「こんいちはー。ママパパさん」。

こんなとこにまで波及してやがる・・・。
しかもそこだけはっきり発音できるんだね・・・。恵美ちゃん・・・。

「森田、今日、VIPルーム呼び出された？」

「ああ。でもどってことなかったよ。僕はほら。恵美がいるから」。

え？やっぱ聴かせてもらってんのか!?

「僕でさえ和美のなんか聴いたことないぞ？」

「はぁ？」

　いや。そうじゃなくって。
　話したいのはそれじゃなくって。

「あ、いや・・・。なぁ。森田。僕だったらだよ？もし脅しに使うならブルーフィルムをつっつくんだけどなぁ。どう思う？」

「ああ。そうだね。あれは学校ダイレクトだし。脅しとしては強烈だな」。

「だろ？けど、井上にはジェットストリームで仕掛けてきたのに、関連のブルーフィルムはカケラも出てないんだ」。

「学校側にとっても弱みだからじゃない？」

「いや。ちがう」。

ちがう。

僕はこのとき、情報のリークしている可能性のある一人の人が浮かんでいました。

　夕子ちゃん。

なぜなら。
夕子ちゃんは、数ある僕たちが起こした事件の中で、ブルーフィルム事件だけを知り得ないからです。
最初のブルーフィルムは井上家の「夕子ちゃん成長記録」＝『美少女遊戯』でした。
これをグレート井上くんが話せるはずもなく・・・。

　会わなきゃ。
　井上に。



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