ぼくたちと駐在さんの700日戦争

＜本日2話連続アップです。←第33話からどうぞ＞

優等生グレート井上くんの停学。
このニュースは、少なからずショッキングでした。

「な、なんだって井上が停学？」

「無許可のアルバイトだって・・・」。

「ひょっとして・・・夏の・・・ジェットストリームのか？」

「ああ。たぶん」。

「チクられたのか？」
「ああ・・・」。

「キショーーー！」
「けど、それにしたって井上ってことはないだろ？」

そうです。あれは僕が首謀者。
しかし、実際に行っていたのはグレート井上くんでした。
それも「美奈子さんに会わせる」という、僕の企画のせいです。

　これで・・・
　僕と井上は決定的決裂ってわけか。
　美奈子さんから始まって・・・
　さすがに詰めに入っているだけあって打つ手が早い・・・。

容赦ない不安がみんなを襲います。

「地蔵泥棒も、もうやばいんじゃないか？」
「首根っこ押さえられて打つ手なしかよ～～～～！」
「あああ。あと2ミリバールあればなぁ・・・」。

まさしく。なにか事を起こせば、誰かが退学。
ひと駒も動かせません。

「どっから過去の情報漏れてんだ？」

そうです。問題はそこ。

「おい。久保」。

「ん？なんだ？」

「情報、リークしたの、お前だろ？」

「んな！なんだとぉ？」

「ジェットストリームは外部で知ってるヤツはいない。地蔵泥棒も、夜桜壊滅もな」。

「だ、だからってなんだって俺だ？」

「お前。和美のことずっと好きだったんだもんな。実は今も好きで、それで組んだな？」

「て、て、てめーーーーーーーーー!!!!言わせておけば！」

千葉くんと西条くんがあわててひきとめますが、久保くんの怒りは治まりません。
まわりじゅうの机という机が倒れ、この物音に階下の教室から、見物が訪れるほどの騒動となりました。

→ → → → →

「あったか？森田」。

「シッ！」

「あ・・・ゴメン・・・」。

「コンセント付近かな？」

「いや。DC電源だろ？あるいは電池か」。

森田くんは、自作の機械をそこらじゅうに向けながら、聞き耳をたてています。

やがてその機械から

　フオーーーーーン

ハウリング音。

「あ、あった！あったぞ！」

「やっぱり」。

それは吊り下げ式蛍光灯の上にありました。

FMトランスミッターです。

＜FMトランスミッター=FMラジオに電波を飛ばす機械。ワイヤレスマイクはこの一種で76MHz～79MHz帯が使われる。9章では森田くんが使ったこともある＞

森田くんは、それをそっと降ろすと裏蓋を開きました。

「うわ。凝ってるなー」。

「シッ！」

僕はその裏蓋の裏側に、マジックペンで名前を書き入れました。

「じゃ。ジェミーたのむ」。

「はい～～～～～～♪」
待機していたセーラー服ジェミー。
そのFMトランスミッターを持って廊下を疾走。


「ふ～～～～。やっとしゃべれる。しかしなぁ。盗聴かよ？」。
という森田くんに

「僕らもそうだろ？悪戯は結果を知るときが一番楽しい」。

「確かに」。

「なのにあいつらは今回、あれだけの騒ぎ起こしたのに現場に来なかった。だから、どっかで聴いてると思ったんだ。超常現象研究会の部屋ってこの真下だから」。

「ああ。FMトランスミッターでじゅうぶんに飛ぶな」。

「うん。それに・・・」。

　井上に対する動きが早すぎる。

　つまりは。
　いつでもチクれるぞってことだろ？柳。

「けど、過去のは盗聴じゃないぞ？情報が古い」
「うん。それはどっからリークしたか調べないと」。

「久保？」
「あははは。あれは柳へのサービスだよ」。

ジェミーがむかった先は、学校で唯一、僕たちも柳も入れない場所。

そう。「女子トイレ」。です。

女装したジェミーは、女子トイレに盗聴装置を仕掛けてきたのです。
仕掛ける、というよりは、目立つ事この上ないところ。
見つかるのは時間の問題で、裏蓋の裏側には柳のフルネーム入り！

2階階段下に集まった僕たち。

「そんなんで柳が疑われるか？」
もっともな質問は西条くん。

「さぁ？けど名前書いてあるんだから、一応、呼び出しはうけるだろ？」

「ははは。そらそうだ」。

「それだけでもじゅうぶんだ。きっと大問題になるだろうから」。

「だろうなぁ。女子トイレ盗聴だもんなぁ・・・」。
「うらやましい・・・」。
「なんでもっと早く思いつかなかったんだろ？」

いや。そう言う問題じゃなくって・・・。

「無線の知識がないと盗聴はむずかしいからね。一応、重要参考人にはなるだろうな」。

「うん。それは間違いない」。
と、森田くんの太鼓判。

「これで簡単には動けなくなるだろ？それに。しばらくはチクることもできなくなる」。

「おおお、諸葛孔明だな！ママパパ！」

が、自分の術中に自分が陥るのが得意な僕たちですので、

「なぁ。FMラジオ聴いてダメ？」
さっそく西条くん。

「ダメだって・・・」。

「いや。今日のリクエストアワー聴きたいだけだって。俺、『赤い衝撃』リクエストしてんだよ」。
「俺、『揺れる眼差し』」。
「俺、『I LOVE YOU OK』」。
「俺、『恋のシーソーゲーム』」
「俺、『北酒場』」

「お前ら・・・。ずいぶんリクエストしてんだな？いつからFMファンになった？」

「そう。今週はどうしても『赤いトラクター』聴きたくて」。

さっきは『赤い衝撃』って言ってたぞ？

「女子トイレにリクエストか？」

「う・・・」「う・・・」「う・・・」「う・・・」「う・・・」

図星。

「忘れるなよ？あと1グラムしか残ってないんだろ？退学まで」。

「それは西条！俺は1センチ！」
「俺は1ミリバール」。
「俺1斤」。
「俺1カサブタ」。

「みんな、よくわかってんじゃん」。

「うう・・・。ギリギリってつらい・・・人生ってなんなんだ」。

人生かけるなよ。女子トイレに。




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