ぼくたちと駐在さんの700日戦争

＜おことわり＞本日2話連続アップです。←第31話からどうぞ。

「駐在さん！駐在さん！開けて！」

だめだ・・・。

僕は住居側の入口にまわりました。

「なんだ・・・ママチャリ。こんな時間に」。

「駐在さん。これ！これ！」

「あああ？ケロちゃん？それは落ち武者の生首には見えないぞ。そんなもんで脅したつもりか？」

「ち、ちがう・・・」。

「今日俺は機嫌が悪い。明日来い」。

「いや・・・。機嫌で変わる駐在所ってないでしょう？」

すると後ろから奥さん。

「ダメよ？ママチャリくん。今日だと主人に殺されるかも・・・？」

「え？」

ようやく駐在所を開けてもらい、中へと入った僕でしたが
駐在さん。確かに機嫌がめちゃくちゃ悪い。

「えっと・・・。僕は盗難物を届けに・・・」。

奥さんがお茶を出しながら
「うふふ。あなた。聴いてあげなさいよ。わざわざ来てくれたのよ？」

「あああ？ママチャリの言うことをかああああ？」

すさまじく不機嫌です。

「あの・・・なんだってそんなに機嫌悪いんですか？」

これに応えたのは奥さんでした。
「今日ね。愛ちゃんがふたつめの言葉をしゃべったのよ」。

「え？そうなんですか？よかったじゃないですか」。

「それが・・・ねぇ・・・」。
「よくない」。

「なんでです？」

「こないだまではママしかしゃべれなかった」。

「はい・・・。それは知ってますけど」。

　次がパパじゃなかったということかな？

すると奥さんが愛ちゃんを抱いて再びやって来ました。

愛ちゃん。
「ちゃ～～～～、ちゃ～～～～～」。

「え？」

別に言葉じゃないようですが。

「ママ～～～ちゃ～～～」。

「あ！」

「これなのよ～～～」。
と、苦笑いの奥さん。

「”ママチャリ”に聴こえんこともない」。
ぶぜんと、駐在さん。

そんな無茶な・・・。

ところが愛ちゃん。さかんに僕を指差して
「ママ～～～。チャ～～～～」。

「みろ！よりによりによりによってふたつめがお前だぞ？」

「いや・・・それは・・・」。

「こんなことなら、濡れ衣着せて絞首刑にしとくんだった・・・」。

いや。そういう反省する警察官っているんでしょうか？

とうとう盗難届はどこへやら。愛ちゃん論争で30分。

ようやく
「でも、すごいですね？1歳にならないんでしょ？天才なんじゃ・・・」

「え？そうか？」

駐在さんのまわりがパァ～～～～～～してます。

「そうかそうか！やっぱ俺に似たのかなぁ」。

「いや。それは美奈子さんに似たんじゃ？」

パァ～～～～がシオシオしてます。
表情豊かだなぁ。駐在さん。

しかしこれで機嫌の直った駐在さん。

ようやく
「で？なにしに来たんだっけ？」

全国一手間のかかる駐在所です。


それでも僕は。
愛ちゃんの声と、このひとときに、
ずいぶんと安堵させられたのでした。




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