ぼくたちと駐在さんの700日戦争

柳の情報は、森田くんによってもたらされました。

「IQ140？」
「て、天才じゃん！」

「ああ。その部類だね。IQだけは」。

「のぶはどうだったんだろ？」
「あ。のぶくんもそれくらいじゃない？たしか140近かったような・・・」

「え～～～、のぶ並みかよ～～～」。
「西条、小学生でビビってるんじゃないよ」。

＜IQ=ご存知知能指数。年齢と知能とのバランスで標準を100として計算される。「精神年齢 ÷ 生活年齢 × 100」なお、現代のDIQと、当時行われたIQテストは計算方法が異なる＞

「まぁ、いちがいにIQだけじゃ語れないけどね。めやすでしかないから」。
この中では、1番IQの高いであろうグレート井上くんの解説。
それだけに説得力があります。

「IQの最高値は160くらいだけど。過去のノーベル賞受賞者で140に達してる人はいないんだ」。

「え？そうなのか？」

「ああ。だからIQの高さそのものが頭のよさ、ってわけじゃない。年齢によっても違うしね」。

「ふうん」。
「よかったな。西条」。
「いや、西条はまんまだと思うけど」。

井上・・・。

「っていうか、130を大幅に上回ったりすると弊害のほうが多いんだ。社会性とか人間性が失われたりね。あと、罪悪感が欠如してたりする」。

罪悪感の欠如・・・か。まさしく。
そう考えると、柳が少し哀れにも思えてきます。

「一般にIQが20違ってしまうと会話が成り立たないって言われてる」。

「じゃ、西条と井上は会話なりたたないじゃん？」

なにもそこまで・・・。

なのに、
「ああ。成り立たない。成り立ったことないだろ？」
言い切るグレート井上くんに

「そうかー。だから井上は、夕子ちゃんのパンツの価値がわかんねぇんだな？」

まるで自分が上とでもいうような口ぶりの西条くん。
しかもテーマは夕子ちゃんパンツ。

「だから、どこに妹の下着に価値をつける兄がいる!?」

「ふふ・・・哀しいな。井上」。

「哀しいのはお前だっーーーー！」

もめるなよ・・・。

「ったく。スケベ度とIQを混同するな！」

すると西条くん。

「神童タカさんは、どうなんだろうな？」

「え？母ちゃん？」

話題を僕の母にふってきました。

「だって神童だぞ？かるく、マグニチュード8はいってるよな」。

「シンドウがちがう・・・」。

「その子供のお前はどうなんだ？マグニチュードで」。

だからマグニチュードじゃないってのに・・・。



しかし興味のある話でした。
その日、家にもどると

「母ちゃん。母ちゃんってさぁ、IQどれくらいなの？」
さっそくたずねる僕です。

「え？なにを唐突に」。

「いや。今日、学校で話題になってさ」。

「突然そんなこと聴かれたって、照れるよ」。

「なにが？？？」

「・・・そうねぇ。ウチは食費の率がかなり高いからねぇ・・・」。

「そりゃエンゲル係数だろ？？？」

たいして高くない、ということはわかりました。
おまけでビンボーということも。

「いや。母ちゃん、小さい頃に神童ってよばれてたって言うじゃない？」

「言われてたよ。まぁ、自分で言ってたわけじゃないけど」。

自分で言ってたらバカだ。

「そうねぇ・・・しんどう・・・。マグニチュード8くらい？」

西条なみ!?

かなりショックかも・・・。


なのに母。
「じしん過剰かしら？おほほほ」。

うまいこと言ったつもりか？



その日の夜。

「みどりちゃん、あらため、和美ちゃんから電話よ～～～」。

あらためてねーよ！
あらためるのは母ちゃんだろ？

例によって不機嫌に受話器を受け取る僕です。
女性からかかってきた電話で、ゴキゲンで取れたためしがありません。

まったくおそろしいやつ。マグニチュード8。


「今、だいじょうぶ？」

「ああ」。

「学校じゃ話せないんだけど。あの、例のフィアンセの件なんだけどね？」

「ああ。美奈子さんの。うん。どうだったの？」

学校じゃ話せない？

「それがね。そんな事実はないらしいんだけどね」。

「うん。よかったじゃない？井上にとっては」。

「けど・・・。大学ではその話、かなりひろまってるらしいの」。

「ふうん・・・大学で、ねぇ」。

渚さんも同じ大学。
噂話に蓋はできませんから、あっても不思議な話ではありません。

「美奈子さんも困ってるらしいんだけど。それでね。問題なのは・・・」。

「問題？」

「そのフィアンセっていうか・・・恋人っていうのがね？」

「うん。具体的名前も出てるんだ？ずいぶんリアルな噂だな」。

が・・・。

「君なの」。

「はぁ？」

聴き取れなかったのではありません。
脳が受け付けなかったのです。

「・・・え・・・」。

僕は和美ちゃんが、なにを言っているのか、にわかには理解できませんでした。

「奥さんも不思議がってた。どうしてそんなウワサが大学でたつのか、って」。

僕の名前はありふれたものではありません。
どうしてそんなことが？
しかも美奈子さんは、普段、東京です。

　ありえない・・・。

「どういうこと？」。

「あたしが聴きたいわよ！」

和美ちゃんは、吐き捨てるように言うと。
電話を切りました。

　どういう？

　ことだ？




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