ぼくたちと駐在さんの700日戦争

自転車に駆け寄ろうとした僕は、ふと考えました。

　もし、この悪戯を自分がしかけていたとしたら？

みなさんもよ～くご存知かと思いますが、悪戯の醍醐味は、発覚した時の相手の驚きにあります。

　と、すれば・・・・だ。

どこかでこの様子を見ている、はず。

　うん。それなら・・・。

僕は自転車には寄らず、コミニュティセンターのロビーにもどりました。

ロビーには黄色電話がひとつ設置されていましたが、そこを覗くためには、ロビー前のガラスドアまで来なくてななりません。

受話器をとり、さっそく電話。

かけたのは駐在所。


でしたが・・・。
電話に出たのは奥さんでした。

「あら。ママチャリくん？」
「あ・・・は・・・はい」。

受話器を握った手が脈打っているのがわかります。

　落ち着け・・・。

「ウフフ。あんまり和美ちゃん、泣かせちゃダメよ？」

「ああ・・・はい・・・すいません」。

なにあやまってんだ・・・。

それは。僕にとっては「失恋宣言」でもあるわけで。
もっとも、横恋慕。望みなどカケラもないわけですが、ダイレクトはさすがに堪えます。

気をとりなおして
「あ。そうだ。駐在さんはいらっしゃいますか？」

「ちょっと待ってね。今、お風呂はいってるから。呼んでくるわ」。

10円玉がひとつ落ちる間、僕は、チラチラとロビーのガラス窓をうかがいます。
見える範囲は決まっているんだから・・・。
覗くとすれば・・・？

　いた！
　複数？

中の方が明るいために、反射で外がよく見えません。
が、4人くらいでしょうか。

僕はとりあえず無視しました。

電話の向こうから
「ママチャリ～～～！なんだって風呂入ってるときに電話よこす？」

無茶言ってもらっては困ります。
駐在さんが風呂入ってるなんて、わかるわけはないのであって。

とりあえず時間かせぎに、からかうことにしました。
「あ？奥さんといっしょだったんですかぁ？」

「ば、ば、ば、ばばばば、バカ言うな！」

照れてる。

「想像するなよ！想像するんじゃないぞ！ママチャリぃ！」
「はいはい・・・」。

「今は、あいあい、あいあい・・・」。

「おサルさん？」

「あい・・愛ちゃんと入ってたんだっ！」

「愛人と？」。

「あいちゃんだーーー。あ・い・ちゃん！」

おもしろい。期待を裏切らない人だ。

「はいはい。愛ちゃんですね？」
「あ！それも想像するな！」

「しませんってば・・・」。

とんだ子煩悩です。0歳でこのありさま。こんなんで嫁に出せるんだろうか？

「それより、駐在さん。警察にはあんまり友達っていないんでしょうね？」

「なんだ。やぶからぼうに」。

「いや。駐在さんくらい乱暴だと、友達少ないんだろうなぁ、って」。

「なんだとぉぉぉおおお？ケンカ売るのに電話したのか？あのなぁ、俺が一声かければなぁ、道場だけでも県内中の警察官が・・・」

「じゃ、時間外で動かせる同僚っていらっしゃいます？」

「あ？」

「ちがうんですよ。実は赤色灯が・・・」。

「赤色灯？」

「ええ。見つかったんですけど。それでお願いが・・・」。


それから30分後。

僕の自転車のまわりには、来るわ来るわのパトカー4台。白バイ2台。うち1台は言うまでもなく五十嵐さん。
コミニュティセンター前は『Gメン75』のような大騒ぎです。

自転車を囲むように「立ち入り禁止」のロープがはられ（当時は黄色と黒のロープに札。現在は『立ち入り禁止』の帯）
鑑識らしき人も姿を現して、僕の自転車のまわりを、チョークで囲んでいます。
もう～～～さながら殺人事件。

僕は「通報者」として、呆然と立ち尽くしたフリ。

「いや～～～。ママチャリ～。お前の考えることは想像を絶するおもしろさだ」。

駐在さんは、任務を忘れておおよろこび。
これだから駐在さん、大好きです。

「駐在さん。今、野次馬集まってるでしょ？」

これだけパトカーが集まれば、当然まわりは人だかり。

「そん中から高校生見つけておいてください。そいつが犯人ですから」。

野次馬が集まれば、仕掛けた犯人は、かならずその中にまぎれて現場をうかがいます。
僕が仕掛けていれば、間違いなくそうするので、その心理は手にとるようにわかります。

「なるほどな・・・」。

「おそらく制服着てますから。すぐわかりますよ」。

「制服？学生服か？」

「ええ。たぶん。高校生とかは、制服着てれば大衆に紛れられるって心理働くんです。普段、学校じゃそうですからね」。

「ん～～～～～。さすがダテに首謀者やってないなー」。

そういう褒め言葉ってあるんでしょうか？

「お前、刑事にでもなったらどうだ？足あらって！」。

足あらう、だけ余計でしょ？

僕もさりげなく野次馬を見回します。

そこに不審な動きの2名。

僕は五十嵐さんに近寄ると耳打ちしました。

「五十嵐さん、今、逃げました！追っかけて！」

「ああ？」

「フォーメーション・ナンバーセブンですよ！」

「フォーメーション？7番ってなんだっけ？」

やっぱ根拠なかったのか・・・。
情けないぞ。県警。

まぬけな県警の「フォーメーション」のおかげで、犯人はとりにがしましたが、しかしそれは僕の望んだかたちでもありました。

犯人はおそらく同じ学校の生徒。
警察沙汰、それも窃盗で捕まれば、ただではすみません。
そのとばっちりは、僕たちにおよぶ可能性も絶大でした。

僕とすれば、とりあえず、自分たちの起こした「事の重大さ」に気づいてもらえればよかったのです。

「とにかくこれで警察機関を狙ったりはしなくなりますよ。駐在さん」。

「そうかな。だといいが」。

「ええ。絶対に。警察ねらわれちゃ困ります」。

「お！少しは大人になったな！ママチャリ？」

「だって僕らが仕掛けられなくなるでしょ？」

「足あらえよ・・・」。


さっき逃げていたひとりは楢崎だ・・・。背の大きさでわかる。
だとすればもうひとりは柳？さらにもうひとりは？

僕の自転車は「証拠物品」として県警のあずかるところとなりました。


　とりあえず、もうちょっと脅しておくか・・・。

もし僕が楢崎たちであったなら・・・

翌日の僕の登校は気になるはずです。
どんな表情か。自転車はどうなったのか。


そこで


「で？自転車がないから学校に送ってけと・・・」。

「はい。ダメですかね？」

「ダメじゃあねぇが・・・。なんだって ”普通の登校”にヤクザの幹部使うかなぁ、と・・・」。

「すいません。早乙女さん」。

「あのなぁ。極悪坊主。俺らの商売ってのは夜が華なんだ。早朝ってのは苦手なんだが・・・」。

「学校は8時半までなんですよ」。

「いや・・・。俺の話聴いてるか？」


翌朝。僕はなんとキャデラックで登校。
早乙女さんも車を降りたので、登校中の生徒全員がビビりまくり！

「ありがとうございました！早乙女さん」。

「てめーの親に免許とるよう言っとけっ！」

「あー。はい。言っておきます」。

「あとな。極悪坊主」。
「はい？」

「世の中にはバスってもんがあるの、知ってるか？」

「知りません」。

「そ・・・か・・・。でっかくってみんなを乗せて走る自動車だ。覚えておくと便利だぞ」。

「はい。覚えておきます」。

さてと・・・。どこかに・・・。楢崎か柳・・・柳・・・。

　いた。

　やはり・・・。



※こっちも戦等継続中～～～

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