ぼくたちと駐在さんの700日戦争

それにしても。

「ぷっ！」

「あははははははははは！」

爆笑しているみんなに対し、ひとり不機嫌なのは洋次。

「わ、笑うんじゃねー！」

「いや～～～。わり～～～。けどなぁ。洋次。ジーンのメイクにそのヘアスタイルって」。
「合わね～～～～。あははははは」。

なんと洋次。髪型はキッチリ七三分けなのに、メイクだけはジーン・シモンズ！

「あ、あ、ありえね～～～～。あははははは」。

「え～～？本物が勝手に七三にするから悪いんだろーが？」

そうです。
本物チャーリーは、女子が寄って来るのに気を良くして、床屋で突然「七三分け」に。
おかげでニセモノである洋次も、同じ髪型にしなくてはならない羽目に陥ったのですが。
メイクしないわけにいかないので「七三にジーン」という、えらく不釣り合いな容姿となってしまったのでした。

「わりぃ。洋次・・・」。
詫びる本物チャーリーですが

「それにしてもなー！あはははは」。
自分が原因にもかかわらず大爆笑！
まぁ、それほどのインパクトがあります。七三ジーン。

「いや～～～。元暴走族が泣くな！あはははははは！」

「それは言わねぇ約束だろ？」

「ああ。わりぃわりぃ」。

しかし。この外見。世の中の「おもしろい顔」ベスト3に入ること間違いなし。

「は～～～～。それにしても。おかしい！」

と、みんながひととおり笑い倒したところで
ジェミー。
「ところで、井上先輩が泡ふいてますけど。どうします～？」

「あーーーっ！ほんとだーーーっ！」
「井上ぇーーー！井上ぇーーー！しっかりしろーーー！」

「血圧50の80！」
「血液型とクロスマッチを4単位！」
「300だ！」「離れて！」
「だめか・・・」。
（→『ER』より。わかんない人にはわからない）

というほどの騒ぎだったのでした。



僕たちは結局、野次馬を避けるために、コミニュティセンターの映写室に練習場所を移していました。
音楽室は、これも伝統的に3年生のバンドに優先権があったのですが、ギャラリーが多すぎて、すでに学校から苦言も入っていたのです。

それでも洋次とチャーリーの入れ替えには苦労していましたが、午後9時まで使えるコミニュティセンターは、僕たちにとって実にありがたい練習場でした。


その日の帰り道。

駅への道。前を2人の男子生徒が歩いています。

「あれ？まだ帰ってない生徒いるんだ？」

「おかしいわね。学校は8時で閉じてるはずなのに・・・」。

やがて街灯の明かりに2人が映り
「あ。あいつ、昨日の・・・楢崎とかってやつだ。もうひとりは・・・」。

「あの子・・・。新入生との顔合わせ会で代表挨拶した子じゃない？」

「ほんとだ・・・。たしかKJ館をけって僕らの学校に入ったっていう変わり種」。

「え？そうなの？」

「ああ。けど、入試の成績は井上んとこの夕子ちゃんに負けてたって話だけどね」。
と、ここまで言って。
僕は夕子ちゃんの名前を口にしたことを少し悔やみました。

「入学式の新入生代表は夕子ちゃんだったものね・・・」。

「うん・・・」。

話。変えなきゃ・・・。

すると和美ちゃんが先に
「なんか。昔の西条くんと君みたいね。ああして並んでると」。

「え？そうか？」

「うん。すっごく似てる。仲の良さとか」。

そうかなぁ・・・。
僕には2人がそれほど仲がいいようには見えませんでした。
どこかに無理があるような。そんな感じがしたのです。

「なんてったっけな・・。あいつ・・・」。

が、この会話が聴こえたのか、その本人が僕たちに気づき、わざわざかけよってきました。

「先輩！」

「あ・・・？」

「先輩！今、帰りですか？」

「ああ。うん。君は確か・・・懇親会のときの・・・」。

「え？覚えててくれたんですか？光栄だなぁ。柳って言います」。

「ああ。柳くんね。うん。覚えてたよ。たしかKJ館けってうちにきたとかいう・・・有名だからな」。

「あははは。それを言われるとやだなぁ。僕、先輩がいるからここ受けたんですよ？」

「え？？？」

「ぼく、先輩を尊敬してるんです！」

「僕を？」

「はい！ぼくの目標です！」

「バンドでもやってるの？」

僕は、こと音楽については「コンテスト荒らし」として有名でした。
ラジオやらテレビも出ていましたので、知っている生徒がいても、少しも不思議ではなかったのです。
てっきりそのことかと思ったら

「んーーー。バンドもやってますが、それ以外のことでも！」

「それ・・・以外？」

「暴走族壊滅させたとか。有名じゃないですか」。

「有名・・・？」

「はい！今後ともよろしくおねがいします！先輩！」

柳くんの態度は、理想的な後輩像で、悪い気はしませんでした。
が、彼の言った暴走族壊滅の話だけは、心にひっかかりました。

　なんで夜桜連合壊滅を知ってるんだろ・・・？
　有名？

しかし、一応とりつくろって
「うん。よろしくな」。

おあいそをうつ僕です。

さらに柳くん。
「和美先輩ですよね？つきあってるってホントなんですね」。

「あ・・・。うん」。
和美ちゃんは、後輩の前ではにかみます。

「いいなぁ。恋人がいて。ぼくもがんばらないと」。

「はは。そうだな。がんばれよ。後輩」。

この会話の間、楢崎は無視して前を歩き続け、とりたてて媚を売ってくるわけでもありませんでした。
チャーリーズエンジェルのことを、まだ怨んでいるのかも知れません。

「じゃ！」

さわやかに走り去って行く柳くんを見送りながら

「おかしいな・・・」。

僕は少し首をかしげていました。

「なにが？」

「ん。まぁ、別にいいんだけど」。
と、ごまかすと
和美ちゃん。
「やっぱり君と西条くんとはちがうね」。

「そう？」

「うん。ちがう」。

「そか・・・」。
和美ちゃんがなにを違うと言ったのか。僕は探求しませんでした。

「それよりさー。和美。頼みあるんだけどさ」。

「なぁに？」

僕はずっと言いにくくていたことを、頼んでみることにしたのです。

「ほら。その・・・今、奥さんと親しいんだろ？」

「え・・・？ええ・・・」。

「聴いてもらいたいことがあるんだ」。
「・・・・なに？」

「いや。美奈子さんのことなんだけど」。

すると和美ちゃん
「えーーーーーーー！奥さんの妹さんも好きなわけ？？？」
突如夜空にとどく大声。

「いや、そうじゃなくって」。
という僕の言葉も聴かず

「は～～～～～。なんで君ってそうなわけ？」

「ちがうってば。美奈子さんのフィアンセのことで・・・」。

「やっぱり気になってるんじゃない！んもーーー、サイテーね！ほんっと見境ないんだから！」

「ちがうって・・・」。

なんで女ってのは聞く耳持ってないんでしょう？
2つもついてるってのに。
教えてください。女子ケライのみなさん。


※引き続き緊急事態継続。血圧40-60くらいです。300！離れて！

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