ぼくたちと駐在さんの700日戦争

それが誰の入れ知恵であるのか。
和美ちゃんの行動は速攻でした。

「あたしをマネージャーにして！」

「え・・・・」。

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ふれあい祭りから2日後の音楽室。
僕とジェミーは、他のバンドメンバーと、文化祭の第一回ミーティングを行っていました。

「去年みたいな商店街CMソングはなしだぜ？」

「ああ。わかってるって」。
いやいや答える僕です。
なにしろ去年は、のぶくんの食費を捻出するために、「おぼろ月夜」を除いて、オールCMソング。
客にはともかく、無関係であったバンドメンバーにはまったくウケが悪かったのです。

思えば、あの日の文化祭。駐在さんは、ハンディスピーカーを持って妨害。
そう考えれば、今回の警察祭りもチャラくらいな騒ぎでした。

思い出し笑いしている僕に

「ほんとにわかってんのか？おかげで去年はさっぱりモテなかったんだからよぉ」。

「あ？まぁまぁ。お前ら、音楽が好きだからバンドやってんだろ？」

「え・・・き、きまってんだろ？俺は亡きジミ・ヘンドリックスの崇高な意志を継ぐために・・・」

「福島ぁ。お前、キーボードでジミヘンはへんだろ？」

＜ジミ・ヘンドリックス＝ロック史上最高と言われる黒人ロックギタリスト。1970年に27歳の若さでこの世を去った。ギター1本でベトナムの空襲爆撃から逃げ惑う人々までを再現した『星条旗よ永遠なれ』はあまりに有名＞
見たいかたはこちら。※注意：うるさいです。
http://jp.youtube.com/watch?v=LVGbiCOaJjA


と、そこへやってきたのが。

和美ちゃんでした。

「あの。あたしをこのバンドのマネージャーにして！」

「え・・・・」。
驚きの僕。
と、それ以外のメンバー。
「はぁ？かずみがぁ？」
「そんなのダメに決まってんじゃん！」

ジェミーと僕はともかく、ベースの安達くんと、キーボードの福島くんはブーフーウーです。

「あら。どうして？」

「どうしてって・・・。お前、彼氏いるじゃん！しかもここに！」
隠し立てをしない和美ちゃんの性格のおかげで、僕たちのつきあいは羞恥の沙汰・・・いえ。周知の沙汰です。

「それがどうしてダメなの？」

「えっと・・・それはですねぇ・・・・」。

彼らは言いにくそうにしていますが、理由は簡単。
今まで、文化祭に出るバンドには、人気に応じて1、2年生の女子の有志がマネージャーにつく、というのが、ひとつの習わしのようになっていました。
誰が決めた、というわけでもないのですが、バンドのマネージャー志望は意外に多く、彼らはそれを3年間の楽しみにしていたわけです。

そこに突如現れた和美ちゃんは、彼らにとって邪魔ものでしかありません。

「か、和美・・・。本気か？」
と、僕。

「本気よ？ライバルと相談して決めたんだもん」。

「ラ、ライバルって？」

「ナイショ」。

「う～～～～～ん」
「う～～～～～ん」。
福島くんと安達くんは不満を隠しきれません。

が。和美ファンであるジェミーだけは
「和美先輩のマネージャー、大大歓迎です～～～～～～」。


「えええええ？ジェミー？おまえ・・・・うらぎんのか？」

ジェミーに聞く耳というのはありませんので
「よろしくおねがいします～～～！和美先輩っ！」

「こちらこそよろしくね！ジェミーくんっ！」

と、ジェミーのひとことで、和美ちゃんのマネージャー決定。

「ぶー・・・」


バンドマネージャーの仕事は、文化祭へ向けた宣伝活動や、場所と時間の確保。また、他校との出演交渉などが表向きのものでしたが、ようは「練習中、女子が聴いていてくれるとやる気が出る」というのが実態でした。
このため、ひとつのバンドには複数の「聴き手」としてのマネージャーがつくのですが、それは受験を控えていない1、2年の女子、というのが通例だったのです。

ところが。

どうもその入れ知恵が強力で、和美ちゃん、他のマネージャーがつくことを断固拒否！

「なんで？なんで俺たちだけWeWeじゃないわけ？」

「失礼ねー。あたしまだ17よ？」

「かずみよー。既婚者は含まれねーんだよ。WeWeには」。

既婚者＝つまり彼氏がいるということ。言うまでもなく僕のことですが。

「そうそう。それに高校においては、3年はババァだから」。

「なんですってぇ？」

「だって最年長だろ？」

「ん～～～～～！しっけいな！」

「まぁまぁ・・・・」。
僕は気の落ち着きどころがありません。
昨年に続き、今年もか・・・。

しかし「敏腕マネージャー和美」の本領が発揮されたのは、翌日の本練習からでした。

各バンドは、文化祭までの間、運動部の活動の終える時間から武道館、体育館を借り切って練習することが許されます。
部活が終わってからのことなので、当然それは夜になってしまうために、人気バンドには、たくさんの「女子によるさしいれ」がありました。
これは競争するほどに価値のあるものであったわけですが、

なのに。僕たちのバンドは、なんと。
和美ちゃん。夜食を全員分つくってきて、初日からすべての女子の差し入れを拒否！

僕とジェミーは、和美ちゃんの手料理が食べられるのは、悪くありませんでしたが

「ばっかやろ～～～～～～！」
「やってられっか！」

安達くんと福島くんは、不満タラタラです。

「あら。差し入れ目当てでバンドやってたの？」

「え～～～っと。ち、ちがう・・・。俺は亡きヘンドリックスの・・・」。
「そ、そうそう。音楽をきわめようと・・・」。

と、そこにまた差し入れの女子たちが扉を少し開けて覗いています。

「あ～～～～。いらっしゃいませ～～～～」。
「どうぞどうぞ～～～。こちらへ～～～～」。

ジミヘンが泣いてるぞ。

が。ここでも和美ちゃんが
つかつかと入口まで行くと

「あなたたち差し入れ？」

「あ・・先輩～～～。えっと～～～。いいえ～～～～」。

和美ちゃんの形相と勢いに帰ってしまいました・・・。

「ば・・・ば・・・ばか・・・かずみってば・・・・」。
「せ、せっかくWeWeの1年の女子の皆様が・・・・」

「崇高なんでしょ？」

「お・・・おう・・・」。
「ジミ・ヘンドリックスは永遠だ・・・」。

当然ながら僕の立場は悪化の一途。


僕と和美ちゃんは、バンド練習の間、駅まではジェミーと一緒に帰って、そこから二人だけで下校するようになりました。

「じゃあね～。ジェミーくんまた明日～」
「は～～～い。がんばります～～～～」。

とにかくジェミー。にこやかです。


「どういうつもりなんだ？和美」。
僕がたずねました。

「どういうって？」

「マネージャーなんか・・・」。

「だって。あたし、もう部活もないし・・・。大学も決まってるから」。
そう言ってから

「イヤ？？」
僕に尋ねます。

「ううん。僕はいいけどさ・・・」。

若干2名が・・・どうかなぁ・・・。

和美ちゃんは。
「っていうのはウソ」。

「え？」

「ウソなの。私ね。ライバルと一緒に決めたの」。

「ライバルって？」
まさか・・・奥さんのこと？

「あたしね。もう君のことでヤキモキしたり、ひとりで泣いたりするのはイヤ」。

「・・・」。

「だからね。自分でせいいっぱいやりたいの。だって・・・」。

「ん？」

「だって。あたし恋人だもん！君の」。

「あ？」

「ちがう・・・の？」

ちがわない・・・。
すこしも・・・。
なのに僕は。

「あたし。この前、君が追っかけて来てくれたの・・・。ホントはものすごっくうれしかったの・・・」。

僕はやっぱりそんな和美ちゃんが愛おしくて。愛おしくて。
その肩に手をまわしていました。
和美ちゃんは拒みませんでした。

そして同時に。
その「入れ知恵をしているライバル」が
奥さんであることを察知したのです。


しかし大波乱は翌日、起きました。


※あまりにつながらないことが多くて、落ちてます。緊急事態でヨロ。泣けてくる・・・

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