ぼくたちと駐在さんの700日戦争

ズルズルとグレート井上くんをひきずるジェミー。

「井上せんぱい～～～ん、もっと暗がりいきましょ！暗がり！」

「な、なに考えてんだ！よ、よせ！ジェミーッ！」

「またまた～～～ん。そんな他人行儀じゃなくって！ジェミーって呼んで？」

「呼んでるだろっ!?」

「あ。そうだった」。

こらこら。地声で答えるな！

しかし唖然とする猫ドロボーとの距離は確実に離れて行っています。
いいぞ！ジェミー！

ほどなく美奈子さんの望遠鏡のところまで来ましたが

なんとそこにいたのは、美奈子さんではなく、男子学生？？

「あれぇ？」

「は、離せ！ジェミー！」

「井上先輩。そういう趣味だったんですかぁ～？」

「お前に言われたくないっ！」

もっともだ。

ジェミーが僕に尋ねます。
「先輩～。美奈子さん、男になっちゃってます～」。

その考え方は不自然だろ。

よく見ると、美奈子さんは、まだ東屋で無線で話しているようでした。

「東屋だ！東屋」。

「はい！」

さらに引きずるジェミーに、グレート井上くん怒り心頭。

「お、お前までいっしょになって！どういうつもりだ！」
僕に向かって苦情を言います。

「いいから、行けよ。井上」。

僕は、そこにいる男子学生に悟られないよう、指で合図を送りました。

「あああ？なんで・・・・」。

グレート井上くんも、美奈子さん発見。

「よ、余計なことするな！」

しかし僕たちが宿泊できるのは、土曜の夜の今宵だけ。
朝方には、美奈子さんたちは宿泊先へともどっていきます。
多少強引ながら仕方ありません。

「いいから行けよ」。
僕は再び同じ台詞を言いました。

「わ・・・わかったよ・・・」。

まだ半分怒りながらも、東屋に足を向けるグレート井上くんです。


「ねぇ。君ぃ～～～」。
と、望遠鏡のところにいる男子学生さん。

「はい？僕ですか？」

「ああ。君、6×7わかるんだって？よかったら僕にも教えてくれないかなぁ」。

「ああ。6×7ですか？巻き取って裏蓋開けて舐めてペタっと貼るだけです」。

え？
美奈子さんのときとぜんぜん違う？
いやいや。気のせいでしょう。
きちんと、同じこと教えてます。
懇切丁寧に。

「あれ？新しいのはどうやって入れるの？」

「はぁ？はめればいいでしょ？」

懇切丁寧に。


それにしても。
この男子学生、
暗がりで、見たからですが、森田くんにそっくり！
さっきの距離からだと見間違うくらいです。

メガネをかけて。
見るからにまじめで。
聡明な話し方で。

　んん？

僕はこの時になって初めて気づきました。
メガネこそかけていませんが、
グレート井上くんも同類であることに。

そうか・・・。美奈子さんのまわりは、みんなこうなんだ・・・。

突如体全体になまあたたかいぬくもり。

「せ、せ、せ、先輩～～～～～～」。

「う、うわ！ジェミー！なに抱きついてくるんだ？」

「さ、さ、さ、寒いです～～～～～」。

「わかった。わかったから。着替えてきていいぞ」。

「いっそこのまま～～～～～」。

「離れろよ！」

「子づくりしましょうか？」

「いらねーよっ！」

「あ～～～っ！それは和美先輩のブラに失礼ってもんですよ？」

「ああ、悪かった悪かった」。
投げやりに謝る僕です。ブラに。

「右の和美先輩にも・・・」。

「さっさと着替えてこいっ！」


僕は、美奈子さんのいる東屋へと行ったグレート井上くんが気にはなりましたが、
さすがに会話を盗み聞きするわけにもいかず。
そっとその場を離れることにしました。

ところが振り返ったそこに

「あ・・・・」。

なんと渚さん！
いつの間に？

じっと東屋の方を見つめています。

「はは～～～ん。そういうことね？彼」。

僕は、渚さんに向かってなにか言おうと考えましたが、言葉が見つかりませんでした。

すると渚さん。
「ムリムリ。美奈子先輩はムリだってば」。

「え・・・？」

「よ～し！あたし、がんばっちゃおうかな～～～？」

それは独り言でもあるようでしたが、
あきらかに僕に聴こえるように言ったものでした。

　ムリって・・・どういうこと？

確かに一年前、明確にフラれているグレート井上くんではありますが。

僕は、反論するでもなく、ただ黙っていました。

東屋からは、時おり、井上くんと美奈子さんの笑い声が漏れてきて。
会話こそわかりませんが、そのシルエットは
微笑ましい恋人同士に見えないこともありません。

遠くアンドロメダから
250万年前の光が、2人に注いでいました。




※今日のキャラは～～～
　特別出演でイタコさん！なんかおっかない・・・

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