ぼくたちと駐在さんの700日戦争

家にもどって新聞を確認してみました。

「あ、あった！」

ローカル欄の、ほんとのほんとの隅っこに載ってます。県警ふれあい祭り。

「ウソ！これ、トップニュースだろーが！」

思わず声に出てしまう僕です。

「ロッキード事件～～～？いつまでやってんだよ！警察祭りよりたいしたことないだろー！」

高校生の感覚なんてこんなもんです。
田中角栄 ＜ 県警 です。

とにかくプログラムだけでも入手しないとお話になりません。

「う～ん。いつもは千葉つかってるからなぁ・・・」。


翌朝、さっそく県警に電話。
こういう目的で警察に電話するってのも、規模の差こそあれテロリストの気分？

「ええ。県警祭りのプログラムってもらえるんですか？はい。そうそう。ふれあい・・・」。

ふれあいたくってしかたありません。


午後になるとキャンプの準備であわただしくなりました。
僕は研究会では、炊事班を担当しているので休むわけにいきません。

食料の分配を手伝いながら母
「またオバケ見にいくの？」

「ああ。そうだよ」。

「飽きないねぇ。今度はどんなオバケ？」

「女子大生ってオバケ」。

「女子大生？？？」

「そう」。
かつてないほど強力だ。



道すがら、駐在さんのところと別の交番を見ると、しっかり「県警ふれあい祭り」のビラが貼られていました。

「くそ～～～。駐在のやつ～～～。隠してやがったな！」

とは言うものの、僕らのせいでポスターが貼れない交番ってのもいかがなもんかとは思いましたが。

まてよ？ポプラには貼られてた・・・。隅っこだけど。
じゃ、商店街は知ってたのでは？

案の定でした。

途中立ち寄ったレコード屋さん。
「あ～。駐在さんから固く固く口止めされててねぇ。君らが来ると別の意味でおもしろいけど・・・」。

「やっぱり～～～～」。

本屋さん。
「し、知らん！私は知らないぞ！誰がなんと言おうと知らん！」

立ち位置を変えて貼紙が見えないように工夫までしています。
なにもそこまで・・・。

肉屋さん。
「それより受験運を上げるトンカツいらない？カツだよ。勝つ」。

こいつは・・・。

思ったより結束固いぞ。商店街。


姫沼は、天体観測ができる、というほどのところですから、灯りがほとんどありません。
その割合に道路がよく整備されていて、夜中に走ってもあまり恐怖感がありませんでした。

　だいぶ遅れたなぁ・・・。

広場からは、たぶん仲間達であろう騒ぎが聴こえてきました。

ようやく到着。と、同時に

「よ～～。遅かったな～～～」。
「メシ、持って来たろうな？」。

大きなキャンプファイアーに集まっている仲間たちが見えました。

「お前らが早すぎるんだよ」。

しかし。
どうやってとりいったのか

「マジョール班に、男子ほとんどとられてどうしようかと思ってたの～。君たちが美奈子の知り合いで助かったわ～～～」。

「いえいえ～～～。なんでも言ってください～～～～」。
「ほんと偶然とは言え、よかったです～～～」。
「偶然ですね～～～～」。

すでに女子大生のみなさんと合コン状態！
し、信じられない・・・・。

が、この疑問はすぐ後に解けることになります。

「井上は？」

「ああ。あっちで観測してる」。

グレート井上くんは、去年とはまったく別の場所で、観測をしていました。
去年は沼のすぐそばでしたが、さすがに秋では寒いとみえて、だいぶ水辺から離れていました。
そのまわりにうっすらと美奈子さんらしき姿と、他にも数人。
ウルサミノール班は、見た所、13、4名といったところです。

実際、グレート井上くんは、美奈子さんと出会ってから、かなりの天文好きになっていました。
それは大学で専門に学んでいる人たちにも、けして引けを取るものではありません。

近づくと、美奈子さんとの会話が聴こえて来て、僕は、腕まで上げておきながら、声をかけるのをためらいました。

「あれがアンドロメダね。アルフェラッツ、確認できて？」

「はい」。

＜アルフェラッツ=アンドロメダ座で最も明るい星。アンドロメダ銀河よりはかなり近くにある＞

「あ！渦状、確認できました。すごいな・・・この望遠鏡」。

「それはそうよ。ビクセンの特注品ですもの。あ、中央にきたらシャッター押して」。

「はい」。

かなりゆっくりとしたカメラのモータードライブ音が夜空に響きます。

「何光年離れてるかわかる？アンドロメダ銀河」

「250万年ですよね？」

「さすがねぇ。井上くん。今ね。毎秒300キロずつ、地球に近づいてるの」。

「ええ・・・」。

悪くありません。
悪くありませんが、去年とちがうようにも思えません。

「井上」。
僕がようやく声をかけると

「あら。ママチャリくん。君も来たのね？」
先に返事をしたのは美奈子さんでした。

「ええ。僕、炊事班なんで」。

「ふうん。けど、ほんとにここ、幽霊出るの？」

「はぁあ？」

「え。さっき西条くんが。ここの沼に出る幽霊撮影しに来たって。おかげでみんなビビっちゃって」。

「はぁ・・・沼から・・・・」。

そうか。幽霊の話をしたから女子大生がまわりに来てたのかぁ・・・。
謎がとけました。

「けど、おもしろいのよ？なんか沼に斧を投げ込むと出て来るとか・・・」。

西条・・・。金の斧かよ・・・。
それにビビる女子大生も女子大生ですが。

グレート井上くんは、よほどアンドロメダに熱中しているのか、おあいそ程度の返事を返すと、またモータードライブのシャッターを押していました。

「ママチャリくんも観る？アンドロメダ」。

「あ。僕は井上のが終わってからでいいです」。

美奈子さんは、だいぶ僕に気を使っているようです。

「アンドロメダの伝説は知ってる？」

「いえ・・・」。

「アンドロメダはね。お姫様なの」。

「お姫様？」

「そう。アンドロメダ姫。エチオピアのカシオペア王妃の娘」。

美奈子さんが続けます。
「カシオペア王妃がね。あんまりアンドロメダ姫の美しさを自慢したものだから・・」

と、美奈子さんが言ったところで、突如として井上くん。
「神々がそれに怒ってバケモノ鯨の生け贄にしようとした。それをペガサスに乗って通りかかったペルセウスが助けるんだ」。

「ふうん・・・」。

「そ。で、左上がそのペルセウス座。ずっと下にあるのが石にされた鯨座よ」。

「へぇ・・・・」。

グレート井上くん。
「アンドロメダ姫は、やがてペルセウスと結婚するんだ・・・」。

それはたぶん。去年、美奈子さんを救ったグレート井上くんの。
密かな願望を言ったのかも知れません。

美奈子さんは黙っていました。

と、そこに
「井上くんって言ったっけ？アンドロメダ、撮影できた？」

さっきまでとなりでなにか作業をしていた女子大生が近づいて来ました。

「あ。はい。成功してると思います」。

「そ？助かるわ。こっち、メカに強い子少なくって」。

誰？

「ねね!?井上くんって彼女いるの？」

それはどこにでもありふれている質問でしたが、なにしろ美奈子さんの目前。僕はその積極性に少し面食らいました。
それはグレート井上くんも。いえ、おそらく美奈子さんも。

「ンもー、渚ったら！」
美奈子さんが叱りつけます。渚さんっていうんだ・・・？

「え？先輩。いいじゃないですかぁ。健全な男子高校生だもん。それに井上くん、ハンサムだし！」
まったくくったくのない渚さん。

グレート井上くんは、チラッと美奈子さんを確認しましたが

「いえ・・・僕には・・・」。
弱々しく答えました。

「え。ホント？だったらあたし、立候補しちゃおうかなー」。

うそ・・・。



※昨日の業績がふるわず、ケーキ屋ケンちゃん、リターンマッチです

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