ぼくたちと駐在さんの700日戦争

それにしても気になることがあります。

そう。駐在さんが、なぜわざわざグレート井上くんに美奈子さんのことを教えたのか？
僕たちと駐在さんは、けっして仲が悪いわけでもありませんでしたが、表だっては敵同士(?)。
それは一方的な思い込みではありません。

「ポプラのマスターの話だと、駐在さん、美奈子さんに惚れたんだよな」。
「え！そうなのか？」

「うん。加奈子さんと間違えて。バカだよねぇ」。

「うん。俺らも間違えたけどな」。

忘れてた。同レベルだった・・・。

しかし僕には、そのことと、駐在さんの今回の進言が無関係には思えませんでした。


じゃぁ、ってんで、姉である奥さんに直接聞こう、ということになりまして
奥さんの夕食の買い物時間を狙ってスーパーへ。

「西条！下着売り場から離れろよっ！」

「え？普通ここだろ？ライトのポジションは」。

そこがライト？
誰が決めた？

奥さんは僕たちの予定より、かなり遅れて店内に。
おかげで高校生集団は、ただでさえ不審でしたが、奥さんが来て隠れたのでさらに不審者。

「こら！お前らなにやってる！」
声をかけてきたのはスーパーの店長さんです。

「ライト守ってます」。

ちがうだろ？西条。

しかし、西条くんのこのくっだらねぇ回答のために、延々と店長さんの尋問が続き・・・
やっとのこと店長さんから解放されると、奥さんの姿はすでに店内にありませんでした・・・。

やばい！見失った？

大慌てで店外へと出ると、どっかのおばさんと立ち話をしている奥さん発見！

「やった！」
「いた～～～～～！」

人妻見つけて、高校生集団がこの喜びよう。


僕たちは、オバさんとの立ち話が終わるのを待ちました。

「そうなのよ～。それでさ。聞いてくれる？お隣の家に来たお嫁さんの弟っていうのがね？」

待ちました。

待ちました。

待ちました。

待ちました。

待ちました。が

なげ～～～～～～～～～～～～！
話なげーよ！オバさん！

「それでねぇ？うちの旦那の妹の嫁いだ家の姑の姉っていうのがね～～～」。

「うわぁ。あの調子だと日本全国民について話すつもりだぞ。あのおばちゃん！」
「1億人だとひとり1秒でも1億秒だ・・・」。

1億秒も待っていたのでは人生そのものが終わってしまいますので
そこで対策をうちました。

題して『謎のタイムサービス作戦』。


いったん店にもどった千葉くんと西条くんが叫びます。

「お～～～い！タイムサービスでサンマ1匹10円だってよーーー」
「早く来ないとなくなるぞーーーー！」

「え？ほんとか？」
「そりゃ安いっ！」

残りメンバーがわざとくさく店内めがけて走ります！

オバさん。主婦ですから、こういうのに敏感！

「え？サンマ10円なの？急がなくっちゃ！」

引き離し作戦成功！
チャンス到来です！

「あのー。奥さん・・・・」

と、思ったら

「あ？ママチャリくん？どいて！」

「はぁ？」

「サンマ10円ですってよ？買いにいかなくっちゃ！」

忘れてました。奥さんも主婦でした・・・。だから「奥さん」なわけですが・・・。


「あ・・・いや。サンマはジェミーにでも買いにやらせますから。ちょっと話聴きたいんですよ」。

引き止めにかかる僕です。

「え・・・でもサンマ・・・」。

すごいこだわりです。
無理もないか・・・1匹10円。

しかたがないので
「ああ。はいはい。今、ジェミーに買ってこらせますから」。

僕はジェミーに目配せします。
どうせ駐在さんと2人だけ。生ものですから多くて4匹。

「わかりましたっ！」
と、ジェミー。

「奥さん～～。何匹ですか～～～？」

「え？悪いわね・・・じゃ・・・10匹？」

「え！そんなに食うんですか？駐在さんと2人なのに！」

「あー。今日、美奈子が友達連れて来るのよ。ちょうどよかったわ。サンマ」。

なんでよりによってこんな日に（涙）。

しかし駐在所で聞くわけにはいかない話です。
僕は奥さんを、オバさんがもどって来てもわからない所まで誘導。

「ど、どうしたの？ママチャリくん、深刻な顔して」。

「今日、美奈子さん、いらっしゃるんですか？」

「ええ。大学のゼミの合宿のついでで・・・・。どうして？」

「いえ。その美奈子さんについてうかがいたいことあって・・・」。

「え？美奈子のこと？なぁに？」

「えっと・・・・ヘンな質問なんですけど。美奈子さんに、なんかありました？ここんとこ」。
あのオバさんのおかげで時間がありません。
いきなり核心です。

「美奈子に？んーーー・・・そうねぇ・・・・・」。
指を頬にあてる仕草も可愛い奥さん。

「あ！そうそう。あったわ！」

「な、なんですか？」

「美奈子、こないだ車ぶっつけたわ」。

「いや。それは・・・・美奈子さんはいつもでしょ？」

「あはは。そうね」。

「そういう日常茶飯事じゃなくって。なんか最近変わったこと？」

「変わったこと・・・そうねぇ・・・・」。

また考え込みます。

「あ！」

「なんです!?」

「丹下くん。サンマ買えたかしら？」

え～～～い！頭はサンマか!?

「必ず買えてますから！それより美奈子さんのこと教えてくださいよ～～～」。

すでに泣きが入る僕です。

「あ。そうそう！美奈子ね・・・」。

「はいっ！」

「あ！そうだ！」

「なんでしょう!?」

「あの子ね」

「はいっ！」

「前は椎茸キライだったんだけど、食べれるようになったって」。

「はぁ・・・椎茸・・・・」。

「なんかね。学食のカレーに入ってるんですって。おもしろいわよねぇ」。

「はぁ・・・椎茸が・・・。カレーに・・・」。

そこにジェミーがサンマを買ってもどって来ました。

　バカ！まだもどってくるな！

目で怒る僕でしたが、ジェミーに通じるはずもなく

「奥さん～～～。サンマ買ってきました～～～」。

「あら。悪いわね？じゃ、10匹で100円。ね」。

100円玉を受け取るジェミー。
「はい～～～。まいどあり～～～～～♪」。

まいどありじゃねぇよ・・・。
まいどあってたまるか・・・。
なんだって駐在さんとこのオカズを僕たちが・・・

「じゃ、ママチャリくん。またね～～～～～。丹下くん。アリガト！」

え！お、奥さん・・・・。


タイムサービスに参加していた仲間が僕を取り囲みます。

「どうだった？」

「いや。たいした情報は・・・」。

たいしたことないどころか・・・。


しかしその前にジェミーが
「先輩～～～。サンマ代、精算してください～～～～」。

くそ・・・それがあった。大損です。

「うん。いくらだった？」

「1匹160円で1600円」。

「ええええええええええええええええええ！」

全員、驚くどころか腰が抜けそうです。

「サ、サンマが？」

「はい～～～♪なんか不漁続きなんだそうで。すっげー値上がりしてるんだそうです！サンマ」。

なんで不漁続きがうれしいんだ？こいつは？？？

「うそだろ？こないだは確か30円・・・（サンマ作戦時）。な、なんだってそんな・・・」

「知りませんよ。気仙沼の漁師に言ってください」。

＜宮城県気仙沼市＝サンマ水揚げ高日本一＞

それなら2匹くらいで「お一人様2匹まででした」とか
いろいろありそうなものを・・・。

1600円を徴収するジェミーは、腹がたつほどにこやかです・・・。

結局

1.美奈子さんがまた車をぶつけた
2.学食のカレーは椎茸入り

という、なんの役にもたたない情報に1500円。

　高っ！

すでにグレートマジンガーの徴収をされていたみんなに、これは堪えました。

働けよっ！気仙沼漁師っ！



「で？どうだったんだよ！」
「1500円も払ったんだからな！それなりの情報とれたんだろうな？」

「えっと～～～～～」。

言葉につまります。

「えっと～～～・・・み、美奈子さんがぁ・・・・」。

「美奈子さんが？」

みんな目を輝かせています。

これに対してまさか

車ぶつけたとも言えないし・・・
椎茸喰えるようになったとも言えません・・・。

困り果てた僕は

「美奈子さんが、け、結婚申し込まれてるらしい」。

「えええええええええええええええ！」


ああ・・・やっちゃったよ・・・。



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