ぼくたちと駐在さんの700日戦争

「ちわ～～～！獅子舞はいかがっすか～～～」。
「いらねーよ」。
「まぁまぁそう言わず」。
獅子をはずすと

「あ！君はSMAPの草くん!?」
「え？どうして知ってるの？」

「っていうか、君こそなんでこの時代にいるの？」
「いや・・・K村くんの親のイヤガラセがしつこくて・・・」。

「それで時代をこえて・・・でもどうやって・・・？」。
と、横をふと見ると

「コンニチワ～。ボク、ドラえもん～～～」。

「そうか・・・!!君の仕業だったんだね・・・」。

「ははは。私の作戦です。まんまと騙されましたね？」

「しょ、諸葛亮孔明！な、なんで・・・なんで日本語？」

ばかやろ～～～～～～～～！


→ → → → →

2日。
正月を仲間と過ごした僕は、和美ちゃんと初デートです。

出掛けに母。
「今日、お前、デートなんでしょ？」

「うん。まぁ・・・。って、なんで知ってんだ？」
「いやぁ。壁に耳アリ、電話に耳アリってね」。

「電話盗み聴きかよ！」

「あらやだ。なんでわかったの？」

わかるでしょ？？？？？？？

なのに
「お前、母ちゃんに似てするどいね！」

「いや・・・そのことわざで・・・だいたいは・・・」。

「で？今日はどこ行くの？」

「そんなこといちいち親に言う必要ないだろ？」

「八幡様に初詣だっけ？で、午後は食事のあとで初売りに？」

「知ってんなら聞くなよ！って、しかもおもいっきり具体的じゃん！」

ハンパな盗み聞きじゃないな！あぶねーあぶねー。
油断もスキもありません。

「あ。お前。和美ちゃんにお餅とか迫るんじゃないわよ？」

なんだ・・・？その「餅を迫る」って聴いた事のない熟語は。

母には、すっかりストーリーができあがっているらしく
「和美ちゃん、そっちの端から食べてね～～。ぼくはこっち端から～～。わ～～よくのびるな～～～。納豆餅は」。

「なんで納豆餅でそんなことする？」

「いや。母ちゃんが思うに、ロマンスってそんなもんかなぁ、と」。

ロマンス・・・。納豆餅で・・・。

「せめてポッキーでやるよ・・・。そんなネバネバしたロマンスあるか！」

「ごめん・・・母ちゃんの青春時代はね。戦争あったから、そういうのって憧れだけで・・・」。
また母の「戦争哀れみ作戦」です。まったく戦争出せば許されると思いやがって。
納豆餅に憧れてたのか？
むしろ叶わなかったことに感謝すべきだと思いますが。

なのに玄関を出る間際
「いってらっしゃい。餅。喉につまらせるんじゃないよ？」

「だから餅なんか喰わねーよ！」

「あ！」

「なんだよ！」

「和美ちゃんが喉につまらせたら、吸い出すのはアリかも知んない」。

母のロマンスは納豆餅から離れないようです。


待ち合わせのバス停に行くには、駐在所前を通ります。
というか、大通りに出るためには、必ず通るわけですが。

と、そこで

”ママチャリく～～～～ん、ママチャリく～～～～ん”

呼び出しているのは

　巨大雪だるま。

まだスピーカー、入ったまんま？

僕は身構えました。なにしろ駐在所。どういう仕返しがあるかわかりません。
そういう駐在所って全国に何軒くらいあるんでしょう？

しかし。事情は少し違いました。

「いや。のぶがな。またツヨシと遊びたいって言うんだ」。
と、駐在さん。

「ツヨシって・・・ああ。駐在さんの・・・」。

「妾の子じゃないぞ？」
「はいはい。それで？」

「俺は今日も警らだしな。家内も愛がいるんで、お前らにたのもうかなぁ、と」。

「あ・・・のぶくんを・・・。でも、ツヨシくんの家ってどこなんです？」

「ん。義姉の家はな・・・」。

それはS市。S市は、市と名はついていますが、ずいぶんと不便なところにありました。

「遠いですね・・・・」。

「だからな。河野か村山でも呼んで、車でつれてってやってくれないか。義姉には連絡しとくから」。

僕は和美ちゃんとのデートのことを考えましたが

「たのむ。のぶのことはお前ら以外には頼めないしな」。

ん。

僕はのぶくんの表情をうかがって
「あー。はい。わかりました。行こ。のぶくん」。

「うん！」

のぶくんの、この返事にはかないません。


バス停に降りて来た和美ちゃんは、当然驚いています。

「あら・・・？この子・・・・」。

「知ってるだろ？のぶくん・・・」。

「うん・・・。話は・・・。こんにちは！のぶくん！」

「こんにちは～。カズミお姉ちゃん」。

「え？どうして名前知ってるの？」

「えっと・・・。西条兄ちゃんたちの話聞いてて・・・」。

さすが天才児。グレート井上くんをも上回る洞察力と推理力です。


「それで・・・その・・・和美。今日だけどさ・・・・」。

「あ・・・また・・・ダメ？」

「いや。そうじゃなくって。のぶくん連れてのデートになるんだけど・・・・」。

和美ちゃんはちょっとだけ考えましたが
「うん。いいよ。のぶくん、一緒に行こ」。

和美・・・。

和美ちゃんの吐く息が、冷たい空気に白く凍ります。
僕はその全部を。吸い込みたい衝動にかられます。


「だめだ。河野、仕事だって」。
電話ボックスから出る僕。

「でしょうね。食堂、かき入れ時だもの」。
「うん。ぬかってた。村山もいないし」。

「無理よ。今日、初売りだもの。みんな街に出てるわ」。

「あ・・・そうかぁ。初売りかぁ。どうしよ？兄ちゃんは大学のゼミの集まりとかでいないし・・・」。

僕たちは、S市までの交通手段をすでに失っていました。

「しかたないもの。バスで行きましょ？」
「うーん。バスだとターミナルで乗り継ぎまである。S市だと、どれだけかかるかわかんないぞ・・・」。

と、言いかけて

「あ！いる！初売りの関係ない人が！」

思い立ったが吉日。電話ボックスへと舞いもどる僕です。



「で？そのツヨシくんの家へ行きたい・・・と」。

「そうです。やっぱダメですかね？」

「いや・・・・ダメじゃねぇが・・・なんだってツヨシくんち行くのにヤクザの幹部を使うのか不思議でな・・・」。

「すいません。他に交通機関思いつかなくって」。

「いや・・・ヤクザってのは交通機関じゃない、というのが俺の考えなんだが・・・ちがうかな・・・」。

「すいません。早乙女さん」。

「ほんとにお前、すまないと思ってんのか？」



のぶくん。見た事もないデカい車（キャデラック）におおはしゃぎです！

「すごいなーーー。この車ーーーー。おじちゃんのなんですか？」

「ああ・・・。おじちゃんのだ。おじちゃんのだけど、騒がないでくれる？」

不機嫌な早乙女さんでしたが、
のぶくん。
「でもこれってアメリカの車でしょ？」

「え・・・わかんのか？ボーズ」。

「うん。たぶん・・・キャデラック？カッコいいよね！」

「え？かっこいいか？」

「うん！こんなすっごい車、初めて乗った！」

早乙女さん、これがまんざらでもなかったと見え、突然ゴキゲン。
助手席にのぶくんを乗せると

「ほら。これがカーステレオってんだ。な？わかるか？」

「はい！音楽聴けるんですよね？」

「そーそー。おりこーだなー、お前！野口五郎、聴く？」

で。8トラックテープ挿入。流れてきたのは

　♪かいさっつぐっちで～～～　きみのっこと～～～～

ありゃ？

「って、これ唄ってんの早乙女さんじゃ・・・」。

「ああ。そうだが、なんか文句あっか？」

「いえ・・・ありません・・・」。

ちょっと酔いそうなだけです・・・。


ツヨシくんの家は、駐在さんの説明通り、表通りの、とてもわかりやすい場所にありました。
僕と和美ちゃんは、ヤクザの早乙女さんに深々と頭を下げて見送り、ツヨシくんの家のチャイムを鳴らしました。

飛び出すように玄関を開けるツヨシくん。
「のぶくん！よくきたね！」

そしてその後ろで、駐在さんのお義姉さん。

「あらあら。ご苦労さまね。あら、こちらのお嬢さんも？」
和美ちゃんを見て言いました。

「ええ。一緒に」。

「すみません。突然おじゃますることになりまして・・・」。
と、詫びる和美ちゃんに

「いいのいいの。賑やかで楽しいわ。まだお昼食べてないでしょ？ご一緒にどうぞ」。
中へと招きます。

「あ・・・すいません・・・」。

「いいのよ～。実はね～。納豆餅つくりすぎちゃって」。

え・・・・。納豆餅？

「納豆餅。好きでしょ？」

「ええ・・・・まぁ・・・・」。

ロマンスはネバネバ・・・。



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