ぼくたちと駐在さんの700日戦争

 

  
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バルセロナ行きの船が寄港したのは、それから半月あまり経った日のことでした。
スペインまでの期間は27日間。けして短くはありません。

その日。馬事協会が手配してくれた車が、クィーンが運ばれて来た日と同じように、我が家へとやって来ました。

母は
「ドドンゴ。いなくなっちゃうんだねぇ。なんか寂しいよ。ドドンゴいなくなると」。

最後までドドンゴか。

父は、黙ったまま、クィーンが車に無事に乗せられるかを見守っていました。

しかし

クィーンは、車に乗せられそうになった時に。
初めて人間に逆らって暴れました。

「ブルルルルルン!」

「どー、どー」。
「やばい。しっかり押さえろ!」

係の人たちが押さえようとしますが、なかなかうまくいきません。
と、わずかな隙を見つけて、クィーンが離れたかと思うと、

クィーンは、なんと父の元へともどり、
顔を父にすりつけました。


彼女は。

クィーンは、誰が一番よく自分の面倒をみてくれていたのか。わかっていたのです。

「よしよし・・・」。

父がいつものように、クィーンの首をなでました。
あのやさしいクィーンの目が、哀しそうに見えたのは、僕だけではありません。

「クィーン・・・・」。

そうです。西条くんも。みんなも。

やがて、クィーンが車に積み込まれた時。そこに父の姿はありませんでした。


「誰か助手席に乗るかい?」

トラックの運転手さんが気をつかって、ひとつ席をつめてくれました。

「じゃ、お前。乗れよ。俺らはトレノで後ろついてくからさ」。
今度はみんなが僕に気を使ってくれました。

「よし!出発!」

出発してわずか。

「ヒヒヒヒーーーーー」

後ろの荷台でクィーンが騒ぎました。

なんだろう?と、バックミラーをのぞくと。
そこに小さく小さく。

父の姿が映っていました。



港のあるM県までの通り道には、峠がふたつあります。

ひとつめの峠に、誰のものかはわかりませんが、奇麗な牧草地がありました。

僕はふと思いついて
「すいません。クィーン。そこで降ろせませんか?」

「ええええええ?」

「彼女は僕の家にきて治療している間。一度も草原に出たことがないんですよ」。

そうです。クィーンは、吊るされている間も、その後も、わずかな歩行訓練しかしていません。

「うーん。むずかしい注文だねぇ」。

しかし、僕があまりに必死だったために、運転手さんが折れました。

「まぁ。ちょっとだけな」。

「はい!」


青い空に輝くような草原。

どっかで見た・・・。どこだったっけ?

みんなでクィーンをおろし、ハーネスをつけようとしたその時。

クィーンが逃げました。

「あーーーーーー!」
「に、逃げた!」

クィーンがどこに向かいたかったのか。
それはわかりません。

けれど、クィーンは、間違いなく自分の足で、大地を蹴っていました。



 ギャロップ・・・・・・。



クィーンの駆け抜けた道筋。

それは真っすぐに真っすぐに続いて。


西条くんが言いました。

「風が、見えるな・・・」。

「ああ・・・見える・・・」。


しかし、長い間ろくに歩いたことさえないクィーンに、ギャロップは無謀でした。

 ヒヒヒヒヒン

100mほども走ったところで、クィーンが倒れてしまったのです。

「クィーンーーーーーーーーーーー!!!!」

慌てて駆け寄る僕たち。

クィーンは、そこからヨロヨロと立ち上がり、僕たちを安堵させましたが、

それから2度と。走ろうとはしませんでした。

クィーンは、ずっと見守っていた僕たちに、自分の勇姿を見せたかったのかも知れません。

あるいは方角的には、父の元へともどろうとしたようにも思えました。


いずれにしても、

クィーンは、僕たちみんなが夢見ていたことを
一瞬であっても叶えてくれました。


そうです。僕たちは、この日。


風を見たのです。

確かに、風を。


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コメント

私にもみえました
クィーンのギャロップと
風が・・・

もう、涙がとまりません・・・
2007/12/30(日) 09:05:37 | URL | りんごあめ #WFVto/b6[ 編集]

ばんざーいっ!
2007/12/30(日) 09:06:00 | URL | マアカ #-[ 編集]

M県!?
Mけんってまさか・・
私の住んでるところ?
銀色の少女ってばななちゃんのことでしょうか?
2007/12/30(日) 09:11:52 | URL | 伊賀忍者 #-[ 編集]

やった!復活!!
2007/12/30(日) 09:12:56 | URL | みいすけ@久保くん命中学生 #s8GdlNGM[ 編集]

クイーン、よかったね!
よかった……
2007/12/30(日) 09:19:05 | URL | やすっぺ #PooosTlY[ 編集]

クイーンの、ギャロプサイコ-でした。
2007/12/30(日) 09:21:25 | URL | jyapann #-[ 編集]

風を見た日って、このことだったんですね
もう、涙が、、、、
2007/12/30(日) 09:23:41 | URL | テラsan #oyCfJ0mM[ 編集]

(TДT)…何も見えない…。

早く最終話を読みたいような、読みたくないような。複雑な心境です(T.T)
2007/12/30(日) 09:34:02 | URL | みけらん #-[ 編集]

やったあ、ついにギャロップ!!!
目から汗が...
2007/12/30(日) 09:37:14 | URL | なん #MGYH0.uc[ 編集]

 クィーンが風になった瞬間、私も見えたような気がします。
 そしてママチャリ父さまの優しさに包まれてクィーンは癒やされたんですね。
 父さまの姿に涙がでそうでした。
2007/12/30(日) 09:46:12 | URL | しょうごいん #-[ 編集]

同行されなかったお父様。
どのような気持ちで見送られたのか…

その場にいなくても、クィーンによる風、きっと感じてくれたと信じます。

あれ?花粉症かな?
(/_;)
2007/12/30(日) 09:55:48 | URL | かばねやみ #3un.pJ2M[ 編集]

だめだ~。
もう、涙腺がウルウルしてきた。

父ちゃん、寡黙な父ちゃん。
世話してきた分、別れも辛いでしょうね。
大人だって寂しさはある。
2007/12/30(日) 11:02:31 | URL | 兵庫のわきやん #mkLksyTY[ 編集]

女王様が駆けるシーンは、父様にこそ見てもらいたかった・・・。
2007/12/30(日) 11:17:00 | URL | 迷い仔猫 #-[ 編集]

動物って自分の世話してくれてる人のこと分かるんですよね
ママチャリお父さんの姿思うと切ない

クイーン ギャロップ出来てよかったな
2007/12/30(日) 13:21:09 | URL | JANOME #b2.I9V5E[ 編集]

クィーン…


父サマとの別れ…
クィーンも辛かったんだね…



仔猫を里親に出した時のコト、思い出しちゃった…。


言葉は判んないけど…判るんだよねぇ、そういう時って。




風になった瞬間
父サマにも見せたかっただろうに…


あーもぉだめだぁ…

涙腺ユルユルです(´;ω;`)
2007/12/30(日) 14:35:47 | URL | るみちょ #-[ 編集]

クイーン、、、その勇士はきっと皆の、そして私の心の中にずっと残る事でしょう!

お父様も、きっと、、、
2007/12/30(日) 14:44:11 | URL | なぞつま #sjaVDaMI[ 編集]

クイーンが倒れた?ドキッとしました。
でも立ち上がった所で、チョット涙してます。
2007/12/30(日) 15:19:05 | URL | kuwa #-[ 編集]
登校205日目の3
ついにクィーンのギャロップが見れたんですか!
ママチャリ父さんが一番見たかったんでしょうに・・・・・。
みんなの想いを乗せて『ギャロップ!』
2007/12/30(日) 15:23:58 | URL | まっつん #-[ 編集]

…クィーン……………。
クィーンとお父様との絆に感動です。


…タカさん。
ドドンゴは立派に走りましたよ……。
2007/12/30(日) 15:44:29 | URL | Reina #HpAWVuzw[ 編集]

クィーンとお父様の別れ…… 辛いです~(T^T)
風? 見えましたともっ!!
2007/12/30(日) 17:51:07 | URL | くまこ #sCdCES4I[ 編集]

「風を見た日」ってクイーンのギャロップして走り抜けた姿だったんですね。
ママチャリ君のお父さんが一番見たかった姿のような気もします。
ママチャリ君のお父さん口数は少ないけど背中で男の生き様をママチャリ君に教えてくれているような気がします。
2007/12/30(日) 17:54:53 | URL | じん #FfzYm696[ 編集]

思えば、風になった西条や孝明や千葉君や………
風を見せた、クイーン

ママチャリ軍団 最高だぁ(≧▽≦)
2007/12/30(日) 19:24:17 | URL | 名有り #-[ 編集]

タカさん、ドドンゴって、スライド攻撃の一種?

クイーンがママチャリパパにすりすりするとことか、
別れを惜しむところ、
みんなの前で勇士を見せるところも、
お別れだからかな、
その行動の一つ一つがとても切なく感じます。

でも、最後にギャロップが見れて良かった。
みんなの気持ちをわかってくれて、ありがとう、クイーン。
2007/12/30(日) 20:26:03 | URL | いちご@実家から #U0MUbGyw[ 編集]

とうとうクィーンいっちゃうんだね。

でもクィーンもちゃんとわかってるんだね。
ママチャリ父が一番面倒を見てくれてたことや、みんながクィーンが走る姿を見たがってたこと。

ちゃんとわかってたんだぁ。
2007/12/30(日) 22:27:12 | URL | きょうこ #-[ 編集]

クイーン、ママチャリくんのお父さんと
離れたくなかったんだね(ノ_・。)
そしてお父さんも・・・。

草原を走ってくれたのは
みんなへのお礼だったのかな?
2007/12/30(日) 23:15:25 | URL | ひなた #-[ 編集]

言葉はありません。
このシーンをずっと待ってました。

有難う。


今「目から汗が」と 子供たちに苦しい言い訳してる最中です(マジ汗
2007/12/31(月) 02:11:32 | URL | 浮雲 #JalddpaA[ 編集]

クィーン!
脚は?
脚は大丈夫!?


風を見て、あとはママチャリが・・・で夢が実現(爆)
2007/12/31(月) 02:11:50 | URL | ジンジャ~ #EZn8MeN2[ 編集]
管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2008/05/24(土) 11:15:04 | | #[ 編集]

「よし!出発!」
出発してわずか。
「ヒヒヒヒーーーーー」
後ろの荷台でクィーンが騒ぎました。
なんだろう?と、バックミラーをのぞくと。
そこに小さく小さく。
父の姿が映っていました。
このシーンがぼくちゅうの中で1番好きです。何回読んでも感動して、目から汗が流れてきます。
2010/01/18(月) 16:13:18 | URL | ハゲタカ #-[ 編集]
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