ぼくたちと駐在さんの700日戦争

＜おことわり＞本日、3話連続アップで、フィナーレ前のシリアスモードです

「孝昭と西条がやるってよ！」
「ウソだろ？」
「どっち強いんだ？実際んとこは」。

この一騎打ちに興味があるのは、仲間内だけではありませんでした。

「やばい。野次馬集まるとやっかいだ・・・」。

これにはチャーリーも
「ああ。先生にチクられたら終わりだな」。

「なんとかしないと」。

するとチャーリー。
「俺にまかせろ！お前は西条たちがどうにかなりそうだったら止めてくれ」。

「どうにか？」

「あの2人だ。どっちかが入院騒ぎでも退学避けらんねぇからな。たのむぜ！」

確かに・・・。
そしてまじめにやりあえば、どちらかの怪我も避けられない。あるいは両方？

「ああ。わかった」。

チャーリーは、僕の返事を確認するかしないかのうちに、いずこかへ走り去りました。
おそらく武闘派の応援を呼びにいったのでしょう。

　しかし。彼らで野次馬まで止めることができるか？

ともするともう一つの波乱がおきそうな予感さえします。


西条くんたちは、決戦の場を武道館横の小さな空地にしました。
そこが校内では、最も人の目につきにくい場所だったからです。
僕はその横、少し小高くなった土手の裏で彼らを見守ることにしました。

孝昭くんが、なにやらポケットから取り出しています。

それはバンダナでした。
彼がバンダナをかぶるときは、かなり「本気」という証拠です。
彼は自分の髪が弱点になる、ということを幾多の戦歴で知り尽くしているのです。

孝昭くん。バンダナをかぶり、後ろで結ぶと
「さぁ。やろうぜぇ。西条」。

「ああ」。

2人は、とりたてて構えるでもなく、お互いを睨んでいました。
たぶん間合いを計っているのでしょう。

「なぁ。西条。入学した時のこと覚えてっか？」。

「ん？お前がつっかかってきたときのことか？」

「ああ。そのとおり・・・」

言い終える前に、孝昭くんが足元の小石を泥ごと蹴り上げました！

孝昭くんのケンカは、必ず飛び道具での不意打ちで始まります。
以前、孝昭くんに聴いたところによると、そうすることによって「相手は離れるたびに飛び道具にも神経を払わなくてはならない」からだそうで、より相手の注意力を分散させる心理作戦でもあるのです。

しかし西条くん。孝昭くんの攻撃は知り尽くしていました。

これを左手だけでかわし、孝昭くんの右へと回り込みます。

接近戦では、柔道有段者である西条くんが圧倒的に有利、とみている孝昭くんは、これを避けるために同じ方向に螺旋状に動きました。

「せいっ！」

めずらしく西条くんから蹴りを仕掛けました。

孝昭くんも、西条くんが蹴りによる関節攻めをしてくるのは百も承知。
身を少し低くして、これを関節以外で受け止め、なんとそのまま足を押さえ込みました。
西条くんの蹴りが押さえられたのを、僕は初めて見ました。

さすが孝昭、と、思ったらなんと西条くん、そのまま押さえられた足を踏み台のようにかけあがり、もう一方の足で孝昭くんのアゴへキックを喰らわします。

　すごい・・・

孝昭くん、これをギリギリでかわそうとしましたが、頬あたりにキックが当たったようでした。

孝昭くんは、西条くんが地面に降りたところを狙って膝蹴り！
西条くんの太ももあたりに命中しました。

続けざまにパンチを放ちましたが、西条くんは当然ガード。
左手でボディを打ち付け、これも命中。

とたんに離れる孝昭くん。

「おらぁーーーーー！」

孝昭くんが無防備に襲いかかります！

西条くんは、わずかに右にステップすると、さらにキックを放ちますが、孝昭くん、これをまた押さえつけると

「同じ手にのるかよ！」

突然体をひねって、自分が倒れるかのようにして西条くんを地面に落としました。
そのまま急所狙いの膝蹴りをくらわせようとする孝昭くん。
これをもう一方の足ではねのける西条くん。
孝昭くんは、少しオーバーに後ろへと吹き飛び、このショックを吸収します。

が、相手が転んでいるのを見過ごす西条くんではありません。

即、押さえ込みにかかろうとする西条くん！
孝昭くんがこれに足払いをかけ、瞬時に立ち上がります。
両者一歩も譲りません。

また睨み合いが始まります。


と、この時

「おー。やっぱこっちだ！」
「見もの！見もの！」
「はやくこい！終わっちまうぞー」

思ったよりずっと早く、恐れていた野次馬たちがドヤドヤとやって来てしまいました。

　・・・チャーリー！なにやってんだ？



西条くんたちは、かまわず一進一退の争いを続けています。

　これは止めるしかない・・・。
　けど、本当にやめるだろうか？

「西条！孝昭ぃ・・・」。

と、僕が声をかけようとしたちょうどその時です。

「やべ・・・」。
「もどろうぜ・・」。
「ああ・・・・」。

押し掛けてきていた野次馬たちがいっせいにもどる気配。

　？？？

チャーリーがすぐそこに立っていました。

「チャーリー。遅かったじゃないか・・・いったい・・・・」。

と、さらに後ろを振り返ると

野次馬たちがいっせいにもどった理由がわかりました。
一本しかない通路の真ん中に

「駐在さんんんんんん？」

「ほら。野次馬来なかったろ？」
チャーリーは得意げです。

「うん・・・野次馬は来ないけど・・・」。

警察官が来てますが。

「お前の手段ってこれ？」

「おお。喜んで来てくれたぞ。駐在」。

喜んで。ね・・・。
チャーリーってば。警察を呼ぶベテランになってしまいました。

「先公よりゃましだろ？」

そりゃ確かに・・・。


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