ぼくたちと駐在さんの700日戦争

＜おことわり＞本日作戦全容まじめモードです。笑えませんが許してね


その男が、いかにも不審そうな目で僕を睨み返しました。

「ほんとに出るのか？」

「ええ。だって埋めたんですもん」。

「ふむ・・・」。
ソファに深く沈みましたが、再び身を乗り出すと

「ほんとにお前ら以外知らないんだな？」
念を入れます。

「ええ。誰も」。

「ふむ・・・そうか・・・」。


30分前。
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「俺たちもついていこうか？」
西条くんが心配そうに言いますが

「いいよ。森田だけで」。

僕は最後の交渉の相棒に森田くんを選びました。
当の森田くんは、徹底して拒みましたが、仏教に詳しいですし、なにより、彼でなくてはならない理由があったのです。

「そいじゃ・・・たのむぜ」
と、孝昭くん。

「ああ。コオロギ村が世界を救う！」

「だからバナナだけ救ってくれよ」。

「あ～。わかったわかった。じゃ、森田、行こう」。

「ああ・・・わかったよ・・・」。

最後まで気が重い森田くんです。

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豪華な応接間に目を泳がせている森田くんを、僕が肘でつつきます。
飾られている装飾品は豪華ですが、どれも趣味はよくありません。
よく見る獣の敷物や、鹿の頭などがないのがせめてもの救いでした。

「もうすぐ採掘騒ぎが始まるでしょうから、発掘されるのは時間の問題です」。

僕の言葉に
「うーむ。あまり時間的余裕がないな・・・」。

「はい。予言は今週中にお願いします」。

「ふむ・・・。そう言われても急にはな」。

カマかけてきたか・・・。

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地蔵泥棒前日の作戦会議。

「虹色家族にぃぃぃぃ？」

僕のシナリオに、みんなが一斉に声をあげました。

「うん。だってあんなに土地にこだわる宗教団体ないもの。しかも金もある」。

「いや・・・そりゃそうだけど・・・」。

みんな当惑気味でした。無理もありません。つい夏までは敵。

「二代目は先代と違ってなんの霊力もない。予言の話を持ち込んだら絶対に受けるよ」。

「地蔵菩薩出現かぁ」。

一度虹色家族の洗礼を受けた僕には確信がありました。

「そう。そうしたらあそこは聖地になるわけだから。絶対土地ごと欲しがる。ただでさえ土地の亡者だからな」。

「なるほど」。

「逆に埋設物の所有権ってのはややこしいから、予言が必要なんだよ」。

「ふんふん。そういうもんなんだ？」

「いくら西条たちが強いってったって相手はプロだ。高校生が出る幕じゃないって。駐在さんも言ってたし。プロにはプロだよ」。

「虹色家族で東京の組合に勝てるか？」

「バナナちゃんの事件のとき、ヤツらはモーリスの飼い主である”毛利組”の名でひるんでたろ？虹色家族のガードは？」

「毛利組だ！」

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「じゃぁ。この話は忘れてくださいますか？」

カマにはカマが、交渉ごとのセオリーです。

この言葉に、教祖は早乙女さんになにやら耳打ちしていましたが、

「そこで少し待ってろ」。
そう言って奥の部屋へと入って行く2人。

森田くんは、よほどの緊張なのか、出されたコーヒーにも手をつけていません。

「うまくいくかな？」
交渉なれしていない、のっぽさん部隊の森田くん。まだ不安そうです。
僕が森田くんを相棒に選んだのは、彼の交渉力に期待してではありません。彼なら新興宗教に「絶対勧誘されない立場だから」です。
僕は手振りだけで、森田くんに安心するよう伝えました。

15分ほどして二代目と早乙女さんが応接間に戻って来ました。

また深々とソファに沈むと

「間違いなく地蔵菩薩が出るんだな？」
再度確認する教祖。

「はい。ここにそれぞれの埋まった場所が書いてありますから。教祖様はその通り予言してください」。

「ううむぅ」。

「これが埋設した時の写真です」。

「写真まで撮ってたのか？」
これには紹介者である早乙女さんも驚きました。
それはいざと言うときの切り札でもあるわけですが。それにはふれず

「予言は的中します。そしたら教団は・・・・」。

「ふむぅ。それでその条件というのが？借地権の保証だけか？」

「はい。永久保証。それだけです」

ここで早乙女さんが助け船を出してくれました。
「これは悪い話じゃありやせんぜ」。

「ああ。お前が持って来た話にしてはおもしろい」。
と、早乙女さんに言ってから

「うん。実におもしろいな・・・・」。
聴こえないように言ったつもりが、思わず本音が声に出ていてあわてる教祖。

それをごまかすように
「いずれにせよ借地権ってやつは承諾なしにははずせないんだ」。

さすがに土地亡者。詳しい。

「お前たち。なにが狙いだ？」

「僕たちは・・・・」。


1時間後。

僕は早乙女さんに深々と頭を下げました。
「早乙女さん。ありがとうございました。早乙女さんの助言がなかったら・・・」。

と言いかけた僕の言葉を遮り
「おい。悪辣坊主」。

「はい？」

「お前って。極道だなあーーーーー」。

例によってヤクザにさえ、さげすまれる僕です。

それどころか
「どうだ？ウチにこねぇか？就職まだだろ？」

「え・・・・」。

「これからはほら。ヤクザもインテリアの時代だし」。

インテリアヤクザ。新しい内装業？


そこからはるかに離れた市営グランドの駐車場で、みんなはいらいらしながら待っていました。
到着するよりも早く
「どうだった？」
「大丈夫か？あんなインチキ宗教家に頼んで」。

「バッチリだ。ま。多少の抗争はあるだろうけど、あれは教祖が勝つよ」。

「なんでそう思う？」

「東京のやつらにとってはもはや金利だけを食うマイナスの土地だ。けど教祖にとっては予言の聖地だからな。どんな手でも使うだろうさ」。

「借地権、守ると思うか？」

「守る。もし守らなきゃ、あの地蔵は僕たちが埋めましたって白状しちゃえばいい。証拠写真もあるし。それにあの地蔵を運んだ証拠としてケロちゃんたちがいるじゃん」。

そうです。ケロちゃん、サトちゃん、ピョンちゃんは虹色家族も知らない「人為的である」重要な証人です。

「白状すんの？」。
「実もふたもないじゃん」。

「馬鹿だな。僕らが地蔵を埋める理由なんてない。僕らがどう騒ごうと、普通に考えれば教祖が高校生のバイトにでもやらせたって思うって。そうなりゃ教団存亡の危機だ」。

「ははは。そりゃそうだ」。

教祖は自ら足かせを履いてくれました。「偉大なる予言者」の名と引き換えに。

「土器も教祖が土地欲しさにやった、って世間は思うよ」。

これで捏造容疑からもサヨナラです。

「逆に借地権さえ残しておけば延々と金を産む土地だからね。絶対なにもしないよ。あれだけの教団運営してるんだ。教祖もバカじゃない。あとは・・・」。

「あとは？」

「ケロちゃんにでも祈ろう」。
「俺はピョンちゃんがいいな」。「俺、サトちゃん」。

→ → → → →

バナナちゃんのところの土地から縄文土器が発掘された、というニュースが走ったのはそれから数日後のことでした。
発掘に来る者は後をたたず、ともすると近隣住民のリクリエーションにすらなりました。学会は僕たちの予定していた通り、立ち入り禁止の処置をとりましたが、元々数に限りがありましたから、すでに後の祭りでした。
しかし、あのイヤガラセ工事と中傷ビラもぴたりと停まったことは言うまでもありません。

その後、土器発掘をしていた人によって地蔵が掘り出され、これはありがたいこととしてさらに大きな話題になりましたが、土地はすでに「菩薩出現」を予言していた虹色家族に渡っていて、地蔵の所有権も同時に虹色家族が持ちました。
そこには豪華な祠が建てられ、バラバラに割れていた地蔵菩薩は、奇麗に修復されて、そこが虹色家族の聖地となったのです。

← ← ← ← ←

「お前って・・・」。
「やっぱ歴史に残るイヤガラセ男だなぁ」。

「何言ってんの。歴史はさぁ」

「あ？」

「僕たちがつくるんだよ」。

そう。世界中の子供達が。
歴史をつくるんだ。


「行こ！ミスマスカット。始まっちゃうぞ」。


※もうすぐフィナーレ！ランクリよろしくー。

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