ぼくたちと駐在さんの700日戦争

母は、僕が大ケガをしてボロ雑巾のようになって帰って来ても驚きこそすれ、咎めもせず、怒ることもしませんでした。
また子細について問いつめる事もしませんでした。

しかし。

「うあっちーーーーーーーーーっ！」

僕はたまらず叫びました。

「喰えないんですけど・・・」。

なんてったって晩のご飯が

湯豆腐とマーボ豆腐と豆腐グラタン。

「え？和・洋・中で贅沢でしょ？」

「国籍の問題じゃないの！僕は口の中ズタズタに切ってんの！な？なんでこんなアッチーのばっかなんだ!?」

「あらぁ。だって外は寒いし。ハフハフするものがいいと思って～～～」

絶対にウソだ。

「外は寒いけど口の中は大火事なんだよ！ったく。それになんだ？このマーボ豆腐。唐すぎっ！」

「おいしいのに・・・」。

「味わう前に喰えねぇよ！っていうか拷問だぞ。これ」。

「じゃ、しょうがない。あんただけ特別に・・・」。

「ん」。

「鍋焼きにする？」

「あっちーよっ！」

しかし母。

「あのねぇ。断りも無く大ケガしてくるヤツが悪い！」

断って大けがするやつっているのか？

「不満なら和美ちゃんにでもつくってもらえばぁ？」
なげやりに言う母に

「え・・・和美・・・？」

あろうことか照れてしまった僕。

「なにニヤけてんの！この子は！」

しかし
「しかたないわねぇ・・・」。

あ。母。なんとなく理解してくれたようです。

と、思いきや

「んべ～～～～～～～～～～」

「うわ！グラタン口から出すな！」

「あら。赤ちゃんの頃はこうやって喜んで食べてたよ。お前」。

「2度とよろこばねーから！」

ぐぢゃぐぢゃ・・・。
あ～～～。悪いもん見た。
しばらくグラタン食べなくっていいや・・・。

「お前。そうは言うけどね」。

「なんだよ！」

「これが和美ちゃんなら食べるんでしょ？」

「えっ！」

そういうことダイレクトに聴く母親っているのか？

「和美ちゃ～～～ん。ハフハフちて～～～～って」。

「う、うるさい！」

「アハハハ。親離れよねぇ」。

いやぁ。ぐぢゃぐぢゃグラタンは親離れとかいう問題じゃないぞ。

僕が不満げな顔をしていると母。
「お前・・・母より嫁をとるんだね？」

「嫁になってねーよ！」

なに姑女ごっこしてる？

「いびってやるぅーーーーー！」

とか言ってるし・・・。

母。障子のサンに指をあて、すぅーっとなでたかと思うと指を見せつけました。

真っ黒！

「なんですか？この埃は！」

「母ちゃんが掃除してないからだろ？」

「あ！そうか！アハハハハ。今んとこ嫁は私だぁ」。

この母は・・・。なにをやりたいんだ？

「だってめんどくさくって・・・」。

自分に言い訳してるし・・・。

「とにかく冷めてから食うからもういいよ」。

「そのときは暖っため直してやるぅ！」

実の息子もいびることがわかりました・・・。

「とにかくね。親に心配かけてるうちは献立に文句言うな！」

しかしとどのつまり
方法はともかく、これは母なりの僕への叱り方なわけで。
それはまぎれもなく母の愛情でもあるわけで。

「かずみちゃ～～～ん、ハフハフちて～～～～～～～。アハハハ」。

そうでもないかも知れない・・・。

　RiRiRiRiRi RiRiRiRiRi

この時電話がなって、受話器をとる母。
「あ～はいはい。いつもお世話になりまして～～。ちょっとお待ちくださいね」。

「あれ？僕？」

「そ。お待ちかねの、は～ふは～ふちゃんよ！」

「え！う、うるさいっつってんだろ？」

うろたえながらも、母から奪い取るようにして受話器を持つと

「あ。和美ぃ？ごめん。心配してた？」

受話器の向こうからは

”かずみせんぱいじゃありません～～～”

「え！ジェミー？？？？」

僕は母を睨みつけました。

「ハーフハーフちゃんって言ったでしょ？」
そっちのハーフか？
勝ち誇った顔の母。

くそ～～～～～～！
覚えてろよ～～～～！

”なんですかぁ？ハーフハーフって？"

「ああ。いいから。用件言えよ」。

”あ。今日はありがとうございました～～～”

「ああ。いいから。気にすんな」。

”じゃ。気にしません～～～～♪”

こいつは・・・。
そうは言っても気にしろよ。

「で？」

”明日、先輩と僕、生活指導あるみたいです～”

「またか・・・」。

”ひょっとすると停学ですかね？”

まてよ。ジェミーは回数的に余裕があるけど。
僕は？

そうです。数えただけで、今年3度目の停学。
入学から数えると5度め。すでに限界値でした。

「まいったな・・・・」。

”いいじゃないですかぁ。先輩。退学なったらウチの店ででも働けば”

「ああ。じゃぁ、退学なったら頼むかな」。

”ええ！母も喜びますよ。ぜひ先輩雇いたいもんだ、って言ってましたから”

「ほんとに？」

”ええ。あれほどオスカルが似合う子はめずらしいって”

やっぱイヤかも・・・。

”それにしても先輩～～～”

「ん？」

”もう少しギャラクティかマグナム、練習したほうがいいですね”

ほっとけっ！


とにかくこうしちゃいられない。

僕は受話器をおくとすぐにグレート井上くんに電話しました。

「ああ。井上？そっちどうだ？」

返答はオッケーです。
まぁ、グレート井上くんが、首尾をしくじったことはないのですが。

「よし。じゃぁ明日から決行だ！」



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