ぼくたちと駐在さんの700日戦争

「ん～～～。じゃ、今日は風呂、先にするか」。

「誰がいつそんなこと聴いた!?」

「いや。雰囲気的に・・・」。
シャツを脱ぎながら西条くん。

「あたしはシャツ脱いで乾かせって言っただけ！」

「あー。はいはい。たくケチなんだから。イチゴは」。

「ばーーーなーーーな！」

「あ。バナナって認めた」。
「ほんとだ。あんなに呼ばれるのイヤがってたのに」。

まんまとのせられているのは、実はバナナちゃんのほう？

バナナちゃんのすすめで全員がシャツを脱いでいます。

「お前も脱げよ。イチゴ」。

「脱ぐかーーーーーーーーーっ！」

もっともだ。
しかもあだ名変わっちゃってるし。
ブラの柄で呼ぶな。

「そりゃ不公平ってもんだろ？」
「そうだそうだ！」
「そうだ！」

「だったら風邪ひいて死ねっ！」

「くそ～～～～～」。

「あんたたち。そういうの全部本人の前で言うわけ？」

「んーーー。裏でコソコソも言うぞ」。

自慢すんな。そんなこと。

「けど、俺たちは堂々なスケベでいたいんだ！」

いや。「俺たち」って。一緒にしないでくれ・・・。頼むから。
なんなんだ。堂々なスケベ。

「あんたらモーリス以下ねぇ」。

「え？犬以下ってことか？」
これには西条くんたちも、ちょっと憤慨？

「あ・・・言い過ぎた・・・。ゴメ・・・・・」。

気まずいバナナちゃんでしたが

「失敬だな。チンチンはできる！」
「も～～～できるなんてもんじゃない！」
「最初っからある！」
「チンチンだけチンチンもできる！」
「わはははは」。

「やっぱり死ねっ！」

しかしおかげで場はずいぶんと和みました。
バナナちゃんも、さっきのビラについて、僕たちを意識する必要がなくなった分、気楽に見えます。
僕には、西条くんがあえてそうしていることを、長年のつきあいからわかっていました。

「あ。そう言えばBJ先生は？」

「往診よ。いつも帰りは遅いのよ。クイーンの治療のときもかなりな時間になるでしょ？」

そうです。クイーンは馬ということもありますが、治療が始まると終わるのは午後9時とか10時とかになることはザラでした。
病院にもどるとすれば夜中。

「あと。ほら、お前の美人姉ちゃんたちは？」
「そうだ！」
「美人姉ちゃん！」

それは彼らの重要な目的のひとつでもあったわけですが、診療所にも、家屋のほうにも他の人の気配がありません。

「姉たちは・・・。兄貴が別に住まわせてるの」。

「別に？」

「ほら。さっきみたいに・・・。このあたりで次から次に未遂事件が発生してるの」。

「え？女性が襲われてるってこと？」

「そう。狙いはね。たぶんウチなんだ・・・」。

やはりなにか裏がありそうです。

「それで。姉達のこと、家から離したの。あたしはほら。まだ学校あるから・・・」。

「そうだったのか・・・」。

「だからね。診療にあたしがくっついてってるのは助手じゃないの。あぶないからって兄貴が」。

　　なるほど・・・。それで往診のたびについて来てたのか。

高校生としてはへんだと思っていましたが、謎が一つ解けました。

西条くんもこれには神妙な顔をしています。
「と・・・するとだ・・・・」。

「ん？」

「あそこに干してあるのは、全部バナナの下着なんだな？」

「えっーーーーー!!!!」

バナナちゃん。大不覚。
なんと診療所の窓のすみっこからからサンルームが見えて
そこには洗濯物が干してあったのです。

「バカ！西条！なんだってお前はすぐ口に出すんだ？」
「黙って観賞しろって言ったろーが！」

「いや・・・堂々とスケベ・・・」。

「てめーだけ堂々としてろ！」
「そーだ！俺らは裏でコソコソでいいんだよ！」
「ああ・・・せっかくのメインディッシュが・・・」。


実は全員気づいてたのか・・・。

バナナちゃんは大慌てでサンルームへ飛んでいき、洗濯物をとりこんでいます。

「しかし思った通りだったな」。

「ん？イヤガラセのことか？」

「いや・・・」。

西条くんにも西条くんなりの考えがあるようです。

「ブラにイチゴ柄があれば、必ずパンティもあると踏んでいたが・・・」。

そこかよ・・・。
踏むなよ・・・。

「わたしの推理は正しかった！」

「すとろ～べり～～～～♪」
「すとろ～べり～～～～♪」

はいはい・・・。

「俺って井上なみ？」

井上が聴いたら怒るぞ・・・。

会話が聴こえていたのか、バナナちゃん。ホッペを真っ赤にしてもどって来ました。

「んも～～～。あんたたちったらもぉ！」。

うーん。照れ具合がかわゆい。
あらためてミスマスカット候補だけあります。

久保くん。
「ところでイチゴちゃん」。

「バーーナーーナっ！なぁに？ミッチェルくん」。

「クーーボっ！」

会話が成立していない。

「奴ら、また来る可能性あるからさ。しばらくモーリスの散歩手伝ってたらどうだ？」
「ああ。それがいいな。俺たちも助かるし」。

「どう？イチゴちゃん」。

「バーナーナっ！ありがと。ミッチェルくん」。

「クーボっ！」

この2人の会話は・・・・。

「気持ちはうれしいけど。診療所の受け付けもあるしね。受験勉強も・・・」。

「なるほどなぁ」。

それぞれ事情はあるものです。

「たいへんだな。高校も3年生になると」。

お前もだよ。

孝昭くん。
「それとさぁ。話ってのは、ミスマスカットなんだけどな・・・」。

「ミスマスカット？ああ・・・あれダメになったの・・・」。

「うん。それでな・・・」。

僕たちはようやく本論にたどりつきました。
なにしろイチゴ騒動が長過ぎて。
バナナちゃんの出場停止は、やはり学校への通報が原因でした。
おそらく今回のイヤガラセの一貫なのでしょう。そこまで徹底するのはなぜ？

「あたしが？和美ちゃんの名前でぇ？真面目？」

「うん。和美は出ねーから。どう？ブドウちゃん」

またフルーツ変わってるぞ。

僕たちはジェミー母のことも含めて、さらに詳しく説明しました。
経済的なことなのか、バナナちゃんは、これに意外なほど喜びました。

「うん！いいのなら・・・すごく助かる！やる！」

「よかった！応援するよ！ バナナちゃん！」
「ああ。優勝しろよ！イチゴちゃん！」
「がんばれよ！ブドウちゃん！」

ばらばら・・・。


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