ぼくたちと駐在さんの700日戦争

あまく見ていました。
駐在さんとのドライブの、なんてま～つらいこと！

ただでさえ制服警察官の後部座席に乗ってるだけで、まわりから奇異な目で見られると言うのに、中はさらに地獄絵図。

「あの・・・雨・・・降んなくってよかったですね！駐在さん」

僕が盛り上げようとするのですが

「あ？あー。そうだな」。
運転しながら駐在さん。

「こないだ雨降ったときは、お前ら商店街の買い物の自転車全部つっこみやがったっけな～～～」

「え」。

「雨天臨時駐輪場とか看板出したっけな！」

「いや・・・あれは・・・ほら・・・。買い物中の自転車濡れると・・・ねぇ・・・」。

「うん。買い物客は喜んだな。おかげで俺は執務できなかったけどな」。

「はぁ・・・そうでしたか・・・」。

「うん。駐在所ん中、自転車だらけだったから。だいたいにおいて中に入れなかったな」。

「すいません・・・・」。

なにを見ても

「あ！駐在さん。稲穂が～～～。今年は豊作ですかねぇ」。

「ん。去年お前ら、パトカーの上に米俵積みやがってなーーー」。

「え・・・」。

「おかげで本署の会議には遅れそうになるわ、パトカー屋根はへこむわ」。

「すいませんでした・・・」。

この調子です。

「あの赤とんぼ・・・・」。

「うん。思い出すな～～～。去年西条のやつが虫取りで取締中の俺の頭・・・」。

「あ。もういいです。駐在さん」。

こんな旅おもしろくもなんともない。
というか、話題をふるたびに謝ってます。僕たち。

　くそ～～～～～。

馬主さんのいる町までは3時間以上かかります。
ずっとこの調子か？

西条くんも孝昭くんもさすがに静か。
なにしろ一言話すと、運転している駐在さんも熱くなってしまうようで、話題が白バイに及ぶと、五十嵐さんも不機嫌になります。
最初の休憩場所のドライブインについたときには、本当にホッとしました。

僕はこの時には、奥さんが言った「気をつけて」は、すっかり頭から抜けていました。

「あ。ここで愛ちゃんに葡萄買ってく」。
と、駐在さん。

「先輩。帰りのほうがよくないですか？」
これは五十嵐さん。

「ダメなんだ。帰りはここ大渋滞だからな。見ろ。今でもあの混みようだ」。

見ると、葡萄産直売り場は人だかり。
レジを待つだけでもたいへんそうでしたが、それ以前に葡萄を見ることができるかどうかもあやしいほどです。

「ほんとだー」。
「だろ？ここは観光バスが停まるからすごいんだ。帰りはもっとひどい」。

「へぇ。詳しいですね」。
と、僕。

「まぁな。職業柄県内で知らないところはない」。

おおおお。

「でも、今買うのもしんどそうですよ？」
「うん。あんな人ごみじゃ選ぶのも一苦労ですね。先輩」。
五十嵐さんも同調しますが

「だいじょうぶだ」。

何の根拠があってか駐在さん。自信たっぷり。

「五十嵐。お前も買ってくか？」

「ええ。じゃ、僕も・・・でももう少し空いてからじゃないとやだなぁ」。

「ん。大丈夫っつってるだろ」。

そう言うと駐在さんは、トランクからウィンドブレーカーと紐を1本取り出しました。

「？」「？」「？」

「ママチャリ。ちょっと来い」。

「はい？」

と、駐在さん、いきなり僕の両手をつかむとウィンドブレーカーでがんじがらめに結びつけました。

「な、なにするんですか！」

「大人しくしろ！」

この状況下で大人しくするやつはいません。

が、駐在さんなんとそれをヒモでつなぎ、自分の腰に結びつけました。

「なななな、なにするんですか！」

「わはは～～～。ちょっとの間辛抱してろ」。

と言うと、いやがる僕をひきずるように葡萄売り場へ。

「はいはい。ごめんなさいよ。はい。ごめんなさいね」。

人ごみに押し入って行きます。

　げ！

駐在さんは制服ですので、それはどう見ても犯人護送中。
つまり僕は犯人？

どんな人だかりもさすがにこれはどきます。
みんなおそるおそる道を開けるので、駐在さんは余裕しゃくしゃく。

「はい。ごめんなさいね。はい。すいません。そこちょっと通してもらえますか？」

次から次。誰もがささっと身を引くように場所を開けて行きます。
まるで映画『十戒』ですが、こっちはたまりません。

「ちゅ、駐在さん！」

「ん？お前のぶんも買うか？」

「そういう問題じゃなくって！」

やがてレジ。並んでいたレジも、みんながどいてしまい、駐在さんしかいなくなりました。

「これを」。

「は、は、は、はい」。

レジのおばさんだってビビります。

しかもこのおばさんがいい人だった。
「あの・・・・」。

「え？」

「なにやったか知らないけど。きっと改心してもどってくんだよ？」
と、僕用に葡萄を一房くれる始末。

図に乗る駐在さん。
「ありがとうございます。こら！お前からも礼言わんか！」

「・・・あ・・・ありがとう・・・おばさん・・・改心・・します・・・」。

こうしてまったく労なく葡萄を入手した駐在さん。

「わはははは。軽い軽い」。

さっきとうってかわってご機嫌です。

「ひでーーーー！」

誰でしょう？この男に警察官の免状与えたやつは。


しかし駐在さん。これではすみませんでした。

「ここのミソ田楽うまいんだよな」。

「ああ。名物ですからねー」。

「お前らも食うか？」

「ええ！ぜひに！」
不機嫌に答える僕。

しかしミソ田楽も長蛇の列。そりゃ名物ってくらいですから、葡萄の比ではありません。

「また護送なんてやですよ！僕は！」

「あ？そんな手使うか。ばか」。

使ってたろ？ついさっき！
なんちゅうヤツだ！

駐在さんは、五十嵐さんに耳打ちします。
うなづく五十嵐さん。

「お、いたいた」。

駐在さんが発見したのは、トイレから出て来た西条くんたち。

と、なにを考えたか、駐在さん、猛烈にダッシュ！

「西条ーーーーー！見つけたぞーーーーー！」

「え？」
「あ？」
「なんだ？」

きょとんと驚く西条くんたちでしたが。

ご存知のように、僕たちは駐在さんが追っかけてくると

「逃げろーーーー！」
「おお！」

意味もなく逃げる習性があります。

これを猛烈な勢いで
「待てーーーーー！」

追いかける駐在さんと

「つかまるかーーー！」

習性だけで逃げる西条くんたち。

まわりの観光客には、突然おきた大捕り物。
そりゃビックリもいいとこです。

しかし逃げ回れるところなど、そんなにありませんので

「西条！かんねんしろ！」

「ちっくしょーーーーーっ！」

とうとう西条くん。捕まっちゃいました。
誤認逮捕とか言うレベルの問題ではありません。

これになにごとかと集まる黒山の人だかり。
当たり前です。

そこには当然、ミソ田楽の列の人もいるわけで、行列はバラバラになるどころか、ひとっこひとりいません。

五十嵐さん。このスキに堂々と一番前に出ると

「ミソ田楽9本ね」。

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