携帯用カウンター 
←第16話 サイジョーの約束(4)へ|第18話 解散宣言(1)へ→
←4章を終えましてへ
▼携帯用いきなりコメント欄
第17話 サイジョーの約束(5)
プールからもどった僕たちは再び病院の中庭に集合しました。
夕子ちゃんは先に帰しましたが、主要メンバーである兄のグレート井上くんは残りました。
思えば西条くんが夕子ちゃんを誘ったのは、たぶんみんなの不満をやわらげる策だったのでしょう。
その効果は絶大と言わざるをえません。
夕子ちゃんがいなくなったとたん、案の定、孝昭くんを始めとする夕子ちゃんファンが騒ぎ出しました。
「お、おれ夕子ちゃんの隣で水のんじゃったぜ!」
「へへ。俺なんか後ろの水のんだぜ!1リッターくらい飲んだな」
「な、なんだと!俺なんか2リッター飲んだぞ!」
まったく螺旋ループな言い合いが好きな連中です。プールで水を飲んでしまうのは「恥」というのが一般論ですが、彼らはまったく逆のようです。
僕ですか?僕も飲みましたが、わざとじゃありません。水泳が未熟なものですから。まぁ、偶然にして夕子ちゃんの側でしたが。そうですねぇ。3リッターくらい飲みましたかねぇ。
「ふふふ。お前ら素人だな。プールの水なんかで歓びやがって。これを見ろ!」
それはかき氷のスプーン。素人だなって、なにの玄人なのでしょうか?こいつ。
「そ、それは!」
「そうさ!夕子ちゃんがくわえたスプーンだ!」
「く、くそぉぉ!その手があったか・・・」
が。これはグレート井上くんがあえなく没収。
当然です。
実の兄のいる前でする自慢話ではありません。
西条くんが僕たちを集合させた理由は、午後にあきらかにされました。
僕たちは、すっかりミカちゃんに情がうつっておりましたので、悪く言えば、西条くんの策にまんまとのせられた、とも言えます。
「お前ら。今日はすまなかったなぁ。ミカの母さんもすっげー喜んでたぞ」
「いやいや。けっこう楽しかったよ。夕子ちゃんのプールの水飲めたし」
夕子ちゃんのプール・・・か?
西条くん。
「やっぱ持つべきものは、いい家来だよなぁー」
「あ!そうだ!いつ俺らがお前の家来になった!?こんちくしょー!」
「そうだそうだ。俺なんかずっとケライ9号とか呼ばれてたんだぞ!6歳児に!」
「まだましじゃん。俺なんか17号だぞ!バカ野郎がぁ」
みんなは思い出したように、ケガ人である西条くんをぼこぼこに蹴りつけました。
「な、なんだよ、ともだちと家来って同意語じゃん。家に来るんだからさ」
「ん?そうかなぁ・・」
「家に来る・・・ねぇ」
「ンなわけねーだろーがぁ!ボケェ!」
「うまいこと言ったつもりか?ぁあ?このスットンキョウがぁ!」
再びけが人をぼこぼこに蹴り始める「家来」たち。
僕たちがひととおりウップンをはらすと西条くん。
「いてて・・・そ、それでな。今日のメインな相談なんだけどな・・・」
ポツポツと、その「作戦」を話し始めました。
「は、花火を~〜〜?」
「ぬ、盗めだぁ~〜〜?」
僕たちはいっせいに声を上げました。
「西条!お前、正気か?」
「ああ」
まぁ、もっともこいつに限って言えば、正気なときとそうでないときとの区別はつきにくいのですが。
「は、花火って・・・あのドカンっていうでかいやつ?店で売ってるやつじゃなくて?」
「ああ。店で売ってるヤツは買えるだろ?」
「ウソだろ?」
「たのむよ。お前らしか頼める相手がいないんだ」
「じょ、じょうだんじゃねぇぞ、俺ら犯罪だけはまだやってないんだぞ!」
と、孝昭くん。
が、みんなが
「うん。お前の暴力事件を除いてな」
「うん。お前の軽犯罪法違反を除いてな」
「うん。それから道路交通法違反を除いてな」
「うん。それから公務執行妨害を除いてな」
「うん。それから迷惑条例違反を除いてな」
「うん。それからお前のわいせつ物陳列・・・」
「うん。それから郵便物・・・」
「も、もういいから・・・俺がまちがってました・・・はい。やってます。犯罪・・。」
「でも、西条。窃盗はヤバイよ。それはできないぜ。さすがに」
「うん・・・よくわかってるさ・・・わかってるんだけどな」
「ミカにはさ。ひとつ下の弟がいるんだ。リョウ君って言うんだけどさ。リョウが入院してるからあいつも病院にいるわけなんだが・・」
西条くんの説明をかいつまみますと
ミカちゃんの弟「リョウくん」は、昨年のちょうど今頃、突如発病して入院されたのだそうです。
なんの病気かは(西条くんが暗記できないので)わかりませんが、その後も入退院を繰り返し、現在はすでに動かせる状態にありません。
ここに入院される直前、リョウ君、つまりミカちゃんの一家は、Y市で開催される花火大会に行く事になっていたのだそうで、直前の入院でそれがかなわなくなってしまいました。
ミカちゃんは、幼いながらこれに胸をいためていて「リョウくんに一度おっきい花火を見せたい」と、サイジョーに頼んだ、というのです。
「うーん。気持ちはわかるけどなぁ・・・」
「だからってなぁ・・・」
「来年もあるだろ?Y市の花火大会。来年見せればいいじゃん」
「それがな・・。来年は・・ないんだよ・・・」
「え?あるだろ?毎年恒例だぜ?」
「ああ。花火大会は来年もあるし、俺らにも来年はある。けど、あの姉弟には・・・来年・・ないんだ」
僕たちは意味を察しました。
「来年どころか・・・来月でも怪しいらしいんだよな・・・」
「ほんとか?」
「担当の看護婦さんが言ってた。間違いない・・」
「・・・・・・・・・」
「本人を一時運び出すってのは?」
首を振る西条くん。
「・・・・・・・・・・」
「だからさぁ。だから。1発でいいんだ。俺約束したんだよ、ミカと・・・リョウに。でっかい花火、見せてやるって・・・」
西条くんの町も、僕たちの町も、大きな花火大会はありません。
当時、大きな花火大会のある都市は本当に限られていたのです。
「あいつさぁ。俺をスーパーマンかなんかかと思ってるフシあるんだよなぁ・・・。俺・・・・・ことわれなくって・・さぁ」
声のとぎれる西条くん。
「それにしたって盗むって・・・」
「買えないのか?花火って」
「俺。花火大会でバイトしたことあるんだよ。駐車場整理だったんだけどな。でも少し花火屋さんの準備も手伝わせられたから、ちょっとはわかるんだ」
西条くんの話によると、玉は意外に安く2000円もしないで買える(当時)のですが、打ち上げ火薬がないと当然上げることはできず、危険物であるため、単体売りはしないのだそうです。わかりやすく言えば職人ごと買わなくてはならないものなのです。
「じゃぁ、職人さんごと頼めば?みんなで出し合えば1発2発なんとかなるだろ?」
「あの人たちはな。夏の予定、めいっぱいなんだよ。一応問い合わせもしたんだぜ。俺」
「うーん。そもそも1、2発で、わざわざ来ないよな。普通」
「それにな。花火打ち上げるには、消防署と警察署の許可がいるんだ。とれると思うか?俺らで」
「井上のオヤジに頼めばなんとかなるんじゃないか?」
グレート井上くん。
「言ってみてもいいけど・・・・。でも、あまり期待しないでくれ。だいたい役所、休みじゃないか?」
「警察はやってるだろ?駐在に頼みこんでなんとかならないかな」
「でも職人がいなきゃもともこもない話だよなぁ・・・」
頭をかかえる僕たち。この相談は、本当に八方ふさがりの難問でした。
「俺だっていろいろ考えたし、いろいろあたったよ。でもな。結論は・・・」
結論は
「盗んで自分たちで打ち上げるしかない」
「・・・・」
「スターマインみたいな連発物にはな、不発のための予備玉がある。こいつを拝借するんだ」
「窃盗だぞ、いずれにしたって」
「大丈夫だ。昔から言うだろ?花火盗人は罪にならない、ってな」
そりゃ花盗人(はなぬすびと)だろ・・・。
←第16話 サイジョーの約束(4)へ|第18話 解散宣言(1)へ→
←4章を終えましてへ
←第16話 サイジョーの約束(4)へ|第18話 解散宣言(1)へ→
←4章を終えましてへ
▼携帯用いきなりコメント欄
第17話 サイジョーの約束(5)
プールからもどった僕たちは再び病院の中庭に集合しました。
夕子ちゃんは先に帰しましたが、主要メンバーである兄のグレート井上くんは残りました。
思えば西条くんが夕子ちゃんを誘ったのは、たぶんみんなの不満をやわらげる策だったのでしょう。
その効果は絶大と言わざるをえません。
夕子ちゃんがいなくなったとたん、案の定、孝昭くんを始めとする夕子ちゃんファンが騒ぎ出しました。
「お、おれ夕子ちゃんの隣で水のんじゃったぜ!」
「へへ。俺なんか後ろの水のんだぜ!1リッターくらい飲んだな」
「な、なんだと!俺なんか2リッター飲んだぞ!」
まったく螺旋ループな言い合いが好きな連中です。プールで水を飲んでしまうのは「恥」というのが一般論ですが、彼らはまったく逆のようです。
僕ですか?僕も飲みましたが、わざとじゃありません。水泳が未熟なものですから。まぁ、偶然にして夕子ちゃんの側でしたが。そうですねぇ。3リッターくらい飲みましたかねぇ。
「ふふふ。お前ら素人だな。プールの水なんかで歓びやがって。これを見ろ!」
それはかき氷のスプーン。素人だなって、なにの玄人なのでしょうか?こいつ。
「そ、それは!」
「そうさ!夕子ちゃんがくわえたスプーンだ!」
「く、くそぉぉ!その手があったか・・・」
が。これはグレート井上くんがあえなく没収。
当然です。
実の兄のいる前でする自慢話ではありません。
西条くんが僕たちを集合させた理由は、午後にあきらかにされました。
僕たちは、すっかりミカちゃんに情がうつっておりましたので、悪く言えば、西条くんの策にまんまとのせられた、とも言えます。
「お前ら。今日はすまなかったなぁ。ミカの母さんもすっげー喜んでたぞ」
「いやいや。けっこう楽しかったよ。夕子ちゃんのプールの水飲めたし」
夕子ちゃんのプール・・・か?
西条くん。
「やっぱ持つべきものは、いい家来だよなぁー」
「あ!そうだ!いつ俺らがお前の家来になった!?こんちくしょー!」
「そうだそうだ。俺なんかずっとケライ9号とか呼ばれてたんだぞ!6歳児に!」
「まだましじゃん。俺なんか17号だぞ!バカ野郎がぁ」
みんなは思い出したように、ケガ人である西条くんをぼこぼこに蹴りつけました。
「な、なんだよ、ともだちと家来って同意語じゃん。家に来るんだからさ」
「ん?そうかなぁ・・」
「家に来る・・・ねぇ」
「ンなわけねーだろーがぁ!ボケェ!」
「うまいこと言ったつもりか?ぁあ?このスットンキョウがぁ!」
再びけが人をぼこぼこに蹴り始める「家来」たち。
僕たちがひととおりウップンをはらすと西条くん。
「いてて・・・そ、それでな。今日のメインな相談なんだけどな・・・」
ポツポツと、その「作戦」を話し始めました。
「は、花火を~〜〜?」
「ぬ、盗めだぁ~〜〜?」
僕たちはいっせいに声を上げました。
「西条!お前、正気か?」
「ああ」
まぁ、もっともこいつに限って言えば、正気なときとそうでないときとの区別はつきにくいのですが。
「は、花火って・・・あのドカンっていうでかいやつ?店で売ってるやつじゃなくて?」
「ああ。店で売ってるヤツは買えるだろ?」
「ウソだろ?」
「たのむよ。お前らしか頼める相手がいないんだ」
「じょ、じょうだんじゃねぇぞ、俺ら犯罪だけはまだやってないんだぞ!」
と、孝昭くん。
が、みんなが
「うん。お前の暴力事件を除いてな」
「うん。お前の軽犯罪法違反を除いてな」
「うん。それから道路交通法違反を除いてな」
「うん。それから公務執行妨害を除いてな」
「うん。それから迷惑条例違反を除いてな」
「うん。それからお前のわいせつ物陳列・・・」
「うん。それから郵便物・・・」
「も、もういいから・・・俺がまちがってました・・・はい。やってます。犯罪・・。」
「でも、西条。窃盗はヤバイよ。それはできないぜ。さすがに」
「うん・・・よくわかってるさ・・・わかってるんだけどな」
「ミカにはさ。ひとつ下の弟がいるんだ。リョウ君って言うんだけどさ。リョウが入院してるからあいつも病院にいるわけなんだが・・」
西条くんの説明をかいつまみますと
ミカちゃんの弟「リョウくん」は、昨年のちょうど今頃、突如発病して入院されたのだそうです。
なんの病気かは(西条くんが暗記できないので)わかりませんが、その後も入退院を繰り返し、現在はすでに動かせる状態にありません。
ここに入院される直前、リョウ君、つまりミカちゃんの一家は、Y市で開催される花火大会に行く事になっていたのだそうで、直前の入院でそれがかなわなくなってしまいました。
ミカちゃんは、幼いながらこれに胸をいためていて「リョウくんに一度おっきい花火を見せたい」と、サイジョーに頼んだ、というのです。
「うーん。気持ちはわかるけどなぁ・・・」
「だからってなぁ・・・」
「来年もあるだろ?Y市の花火大会。来年見せればいいじゃん」
「それがな・・。来年は・・ないんだよ・・・」
「え?あるだろ?毎年恒例だぜ?」
「ああ。花火大会は来年もあるし、俺らにも来年はある。けど、あの姉弟には・・・来年・・ないんだ」
僕たちは意味を察しました。
「来年どころか・・・来月でも怪しいらしいんだよな・・・」
「ほんとか?」
「担当の看護婦さんが言ってた。間違いない・・」
「・・・・・・・・・」
「本人を一時運び出すってのは?」
首を振る西条くん。
「・・・・・・・・・・」
「だからさぁ。だから。1発でいいんだ。俺約束したんだよ、ミカと・・・リョウに。でっかい花火、見せてやるって・・・」
西条くんの町も、僕たちの町も、大きな花火大会はありません。
当時、大きな花火大会のある都市は本当に限られていたのです。
「あいつさぁ。俺をスーパーマンかなんかかと思ってるフシあるんだよなぁ・・・。俺・・・・・ことわれなくって・・さぁ」
声のとぎれる西条くん。
「それにしたって盗むって・・・」
「買えないのか?花火って」
「俺。花火大会でバイトしたことあるんだよ。駐車場整理だったんだけどな。でも少し花火屋さんの準備も手伝わせられたから、ちょっとはわかるんだ」
西条くんの話によると、玉は意外に安く2000円もしないで買える(当時)のですが、打ち上げ火薬がないと当然上げることはできず、危険物であるため、単体売りはしないのだそうです。わかりやすく言えば職人ごと買わなくてはならないものなのです。
「じゃぁ、職人さんごと頼めば?みんなで出し合えば1発2発なんとかなるだろ?」
「あの人たちはな。夏の予定、めいっぱいなんだよ。一応問い合わせもしたんだぜ。俺」
「うーん。そもそも1、2発で、わざわざ来ないよな。普通」
「それにな。花火打ち上げるには、消防署と警察署の許可がいるんだ。とれると思うか?俺らで」
「井上のオヤジに頼めばなんとかなるんじゃないか?」
グレート井上くん。
「言ってみてもいいけど・・・・。でも、あまり期待しないでくれ。だいたい役所、休みじゃないか?」
「警察はやってるだろ?駐在に頼みこんでなんとかならないかな」
「でも職人がいなきゃもともこもない話だよなぁ・・・」
頭をかかえる僕たち。この相談は、本当に八方ふさがりの難問でした。
「俺だっていろいろ考えたし、いろいろあたったよ。でもな。結論は・・・」
結論は
「盗んで自分たちで打ち上げるしかない」
「・・・・」
「スターマインみたいな連発物にはな、不発のための予備玉がある。こいつを拝借するんだ」
「窃盗だぞ、いずれにしたって」
「大丈夫だ。昔から言うだろ?花火盗人は罪にならない、ってな」
そりゃ花盗人(はなぬすびと)だろ・・・。
←第16話 サイジョーの約束(4)へ|第18話 解散宣言(1)へ→
←4章を終えましてへ
- 関連記事
-
- 5章:第18話 解散宣言(1)
- 5章:第17話 サイジョーの約束(5)
- 5章:第16話 サイジョーの約束(4)
この辺からの物語について、
学校に提出する読書感想文を書かせてもらいます。
大丈夫ですよね?ネット小説でも、そもそも、書籍化しましたし。
よろしくお願いします。頑張りま~す。
あ!!それいいねぇ~!!
やればよかってなぁぁ・・・。
いいなぁ~~~。みんな。
僕の学校は読書感想文の課題図書を決めてるので、ぼくちゅうネタかけないんですよ。
西条君の突飛なお願い・・・
不可能を可能にするママチャリ・・・
すごくいいコンビですね。
ぼくちゅうネタおれもそれにしよっ