ぼくたちと駐在さんの700日戦争

「わははは。よくやったよくやった」。
駐在さん。シビックパトカーの後部座席に僕たちを乗せて上機嫌です。

「あの、"悪いトラック"の　うわ～～～って倒れるとこ、抜群だったぞ！」

何言ってやがる！
おもいっきりどつけば段ボールかぶってんだから、そりゃ倒れるって。

が、上機嫌が続く駐在さんは
「♪あなた～～かわりは～～～ないですか～～～」。

都はるみなど唄ったりしています。


＜北の宿から=1975年、都はるみの代表曲にして大ヒット曲＞


しかしその上機嫌もそんなに長くは続きませんでした。

なぜなら

駐在所に人だかり。

「んあ？なんだ？」
と、駐在さん。

「さぁ・・・・」。
と、僕たち。

駐在さんは、パトカーを停めると、僕たちより先に飛び出していきましたが

「あああああ！」

駐在所の外側には、僕たちの「象印賞受賞作品」が丁寧にラッピングされて所せましとかざられていたのです。

西条くんが僕に耳打ちします。
「孝昭たちだな」。
「うん。間違いない」。

また細工のよさから、チャーリーたちのっぽさん部隊が加わっているのは間違いありませんでした。


「西条！ママチャリぃ！またお前らだな？」

「いえいえ。僕たちは悪いトラックです」。
「そ。悪いトラック」。

「くっそーーー！いいからとっととはがせ！」

「いや。駐在さん、無理です」。

「あ？」

「期限書いてあるし」。

そうです。一番上にはご丁重にも

『交通安全コンクール 特別ギャラリー 今月末日まで！』

「あーーーっ！」

「じゃ、駐在さん。そういうことで」。

僕たちは駐在所前から堂々と2人乗り。

「あ！こら！お前ら！誰が2人乗りしていいって言った！」

「いえいえ。僕たち自転車じゃありません」。
「そそそ。悪いトラック」。

→ → → → →

しばらく走ってから、自転車の後ろで西条くん。

「ところでよ。ミス・マスカットって知ってるか？」
唐突に言い出しました。

「ああ。お前の町で毎年やるやつ？」

西条くんの市は県下最大のブドウの産地で、この時期になると「ぶどう狩り」で賑わいます。
すでに観光名産になっていて、毎年、「ミスマスカット」が選ばれるのです。

「それがどうかしたか？」

「うん。今日、チラシ入って来たんだけどさ」。
「うん」。

「和美なんかどうかな？」

「はぁ？無理無理。和美、美人ってわけじゃないもん」。

「でも和美、胸おっきいじゃん」。

「いや・・・胸で選ぶわけじゃないだろ・・・・」。

「そっかぁ。たわわに実ってんのにな」。

なんだ・・・たわわって・・・。

「豊作って感じするじゃん？」

「おまえなぁ・・・・」。

とここまで言って、僕は

「あ！わかった！」
「ななな、なんだ？」

「お前、和美の水着姿見たいだけだろ！」

そうです。
審査は水着姿で行われます。
毎度思いますが、なんてミスコンってあさましいんでしょう。

「いや。そんなことないぞ！お前、俺を誤解してるな!?」
西条くん、猛反発！

「え？そうか？」

「ああ」。

西条くんの語気の強さに、僕もつい

「そっか。悪かったな・・・」。

すなおに詫びました。

「そうだ。俺はなぁ」。

「うん」。

「スクール水着でもじゅうぶんなんだぞ！」

なにいばってやがるぅーーーー！
このド変態がぁーーーーーー！

僕たちが家につくと、あいかわらず小屋からは、クイーンが櫓を蹴りつける音がしていました。
ただ、父がその部分に古布団をまいたため、音は以前より大きくはありません。

「まだ不満あんのかぁ～。クイーン」。

「うん。一度も外出してないもん」。

「どれくらいで足、くっつくって？」

「んーー。今日聞いてみる。ボッキリってわけじゃないらしいんだ」。

西条くんは

「あー。クイーンの走る姿、も一度見たいなぁ・・・こうよ、優雅なもんなんだぜ？」

しみじみと言いました。

「うん・・・だろうな」。

僕もクイーンが野を駆ける姿を想像しましたが、なにぶんにもテレビでしか見たことがありません。
それはおそらく、西条くんの思い描いているものとは、歴然とした差があるのでしょう。


そこにめずらしく母がやってきました。

「おかえり」。
「ただいま。母ちゃん」。

「あ。お母さん、こんちわ！」
会釈する西条くん。

ここ数日というもの、家よりも先に小屋に直行していたものですから、母もこちらに来たほうが早いと考えたのでしょう。

「こいつ食うね～～～～」。
と、突然母。

「そう？」

「馬なみだね！」

「いや。馬だよ。母ちゃん」。

「えっ!?」

えっ・・・って、なにが意外なんだ？

「あ。それでねぇ。さっきお前に電話あって」。

どうやらそっちが本件のようです。

「うん。誰？」

「馬じゃないわよ？」

「うん。馬電話してきたらびっくしだから。誰？」

「えっと。五十嵐さんって人」。

「い、五十嵐さん？電話番号聞いた？」

「いや・・・なんか怪しそうな人だったから」。

「いや。母ちゃん。その人警官だから」。

「えーーーー！そうなの？」

かなり驚いています。

「あら・・まさか警察官とは思わなかったから・・・」。

「あ。なんか失礼したんだな？」

「え？まさか。警官ってことはあの駐在の仲間でしょ？」

「そそ」。

それを確認すると母。

「しまったーーー！もっと失敬な言葉、使うんだったーーーー」。

どういう反省だよ・・・母ちゃん。

「敬語使っちゃったよー。どうしましょ？」

どうしましょって・・・。
っていうか、警察、敵か？

「敬語じゃダメージないわよねぇ・・・」。

まだ言ってる・・・。
いつも相手のダメージ考えて電話してんのか・・・。

しかし五十嵐さんが電話をよこしたということは、十中八九駐在所からに違いありませんでした。

　この状況下で駐在所に電話か・・・・。
　かなり勇気いるなぁ・・・。

なにしろ別れ際が別れ際です。

しかしクイーンの引き取り手の話となれば、背に腹は替えられません。

「えっと・・・も、もしもし？駐在さん？」

「あ～～～。その声は～・・・悪いトラック！」

きた・・・・！

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