ぼくたちと駐在さんの700日戦争

「あっちだ！」

「あっち？」
「ああ。川の方へ向かえ！」

僕たちは再び動き始めました。

そして・・・。

「見ろ！川！」

「うわ！」

その川にはおびただしい数のスイートピーが流れていました。
それは一筋の道のようでさえありました。

「やっぱり・・・五十嵐さん・・・・」。

そうか。捨てにきたのか・・・。


僕たちは、スイートピーに染まった川を呆然とながめていましたが

和美ちゃんが
「なにやってんの？ひろって！」

「え？」「あ？」「んあ？」

「ひろうの！ぜんぶ！」

「え？流れてっぞ？」「川だぞ？」「ぜんぶ？」

「ひろうのーーーーーーーー！」

やがて孝昭くんが
「そうだ！拾え！ぜんぶ拾え！」

駆け出しました。

「え～～～～～～～」。

「いいからさっさと拾えっ！ひとつも残すな！」

自らジャブジャブと川に入って行き、かたっぱしから流れてくるスイートピーを拾い出したのです。

「よし！」「わかった！」「ああ」「しかたねぇなぁ」。

僕たちも一斉に川へと入っていきました。

「冷めて～～～！」

「チャーリー！お前、泳ぎ苦手だろ？いいから、上流行って五十嵐さん見つけて来い！」
「あ・・・うん。わかった！いなかったら？」

「駐在さんに連絡しろ！」
「よし！わかった！」

上流へと去っていくチャーリー。

「和美は、受け取ったスイートピー、乾かしてくれ」。

「うん！がんばってね！」

「ああ」。

とにかく、とどまることなく流れてくるスイートピー。
その数は膨大で、時おり深いところにも流れていってしまいます。

「くそーーーー。千葉いればなーーーーー！」

水泳部の千葉くんは、この日、大会があっていませんでした。

「俺が行く！」
深みへとクロールし始めたのは、西条くんと孝昭くんでした。

小さな川ではありません。
流れはそれなりに急で、一歩間違えば命にかかわりそうでしたが。
西条くんも孝昭くんも必死でした。

どれくらいの時間が過ぎたでしょう？
とにかく無限かと思えるほどのスイートピーの流れ。

そしてようやく拾い終えるかと言う時に、

下流の橋のほうからサイレンの音。

「ん？パトカーか？」
「そうみたいだな。いいから残り拾え！」
「おお！」

が。どんどんサイレンの音は増え続け、しかもこっちに向かって来ている気がします。

「あれ？」
「なんかこのパターン・・・」。
「あれぇ？」

「さっき駐在所に連絡しろって言ってなかったか？」

「言った」。

チャーリー・・・・。

「まさか・・・」。

やがてパトカーから放送。

"そこの高校生ーーーー。ここは遊泳禁止河川だぞーーーー！すぐあがりなさいーーー"

やっぱり110番かぁ・・・・・。
チャーリー・・・・ってば。

こうして自ら呼んだパトカーに補導される僕たち・・・。

あほか・・・。

「和美。悪いけど、乾かしといて。すぐもどるから」。

「うん。でも・・・」。
「ん？」

「もう水吸ってるから・・・元の花束にできるかどうか・・・」。


結局、僕たちは、駐在所にて本署の人たちから延々と説教。
なにしろ110番騒ぎは3度目。
いいかげん本署の人たちだっていやになります。

しかし、なにが幸いするかわかりません。
なんとその中に、五十嵐さんの同期がいて、五十嵐さんが連絡用の無線機を携帯していると教えてくれたのです。

「駐在さん！なにやってんだ！さっさと五十嵐さんに無線して！」
「はやくっ！」
「さっさとしろよ！駐在ぃ！」

「あ？お・・・おおーーーー」。





→ → → → → →

陽が落ちかけた畑のあぜ道に。
孝昭くんがポツンと立っていました。

そこへ

「お前、姉をこんな畑に呼び出すたぁ、どういう了見だい？」

「ん・・・・なぁ。姉ちゃん」。

「ああん？」

「ここの畑。おぼえてっか？」

「ああ。だってこっから豆盗んだんだからな」。

「はは・・・やっぱり。父ちゃんの枝豆とかうまいこと言って」。

「うん。お前にジンダン喰わせたくってさぁ。けど豆って一晩で悪くなっちゃうから。毎晩盗みに来たっけ」。

「よく捕まんなかったな」。

「ん？いや・・・ここのオジちゃん。知ってたんだよ。知ってたけど、わざと捕まえなかったのさ。毎晩1列ずつ豆減れば、そりゃわかるよね。ははは」。

「ん・・・。そう言ってた」。

「あ？言ってたぁ？。オジさんが？」

「ここの豆さぁ。もうすぐ、花つけるの知ってるか？」

「ああ。知ってるよ。白い小ちゃい花」。

「ん。そうじゃない。ここの畑の豆はな。スイートピー咲かせるんだぜ？」

「バカ言うんじゃないよ。お前、枝豆の花はね。もっとちっちゃくって・・・・」。

しかし。
孝昭くんに手を引かれていった先には

色とりどりのスイートピーが。

畑のあぜ道に沿って、ずっとずっと続いていました。

「あれ・・・なんで・・・これ・・・なんだ？」

「五十嵐さんがさ。姉ちゃんへの誕生日プレゼントにって」。

「この・・・・道を？す・・・すご・・・・」。

「スイートピーに沿ってよ。ずっと歩いてけ。姉ちゃん」。

「ん・・・」。

「その先になぁ。姉ちゃん・・・」。

孝昭くんは、ここで説明をやめました。
いいえ。孝昭くんはここでしゃべれなくなったのです。


はるかスイートピーロードの向こうには

「いがらし・・・さん・・・・」。

五十嵐さん。早苗さんを見つけるなり




「スケバンおらーーーーーーーーーーん！」




「逮捕するーーーーーーーーーーーー！！」






→ → → → → →

これでスイートピーロードの話はおしまいです。

この2年後に、凶悪な恋泥棒「スケ番お欄」は、
白馬ではなく、ちょっとピンクがかった白バイに乗った王子様に、永久逮捕されました。

早苗さん22歳の夏のことです。


多くの祝福につつまれながら、

最後に投げられたブーケトスには

早苗さんのリボンフラワーが使われて

それをみごとに受け取ったのは、

なんと、弟の孝昭くんでした。



　　--- 特別編：スイートピー・ロード　完結 ---


※おつかれさまでした～～～


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