ぼくたちと駐在さんの700日戦争

そしてそれは最悪の形で現れました。

僕はその日、和美ちゃんと一緒に文化祭に行く事にしていました。

”そこの高校生～～～！出頭しろ～～～～！"

駐在所前。いきなりの出頭放送。
普通の町なら極めて珍しい「高校生への出頭命令」も、僕たちの町ではすでにお馴染み。
誰も振り返らない、というのもどうかしています。

「駐在さん～～～。たいがいにしてよ～～～～」。

「いや。ママチャリ。昨日な」。
いつもと違って神妙です。

「はい？」

「レーダーやってたんだが」。

「え。僕じゃありません。僕はなんにもしてません」。
これが口癖になっている自分も嫌いです。
が、

「そうじゃなくってな」。
至って真剣な駐在さん。

「？」

「昨日、孝昭の姉ちゃんが速度違反で捕まったんだが・・・」。

「え？でも早苗さん、免停って・・・」。

「いや。運転してたのは男だったんだが・・・」。

あ・・・あのローレル・・・。

「問題はなぁ。五十嵐もそこにいたんだ」。

五十嵐さんが。

そうか。早苗さん。また速度違反して・・・。
わざと捕まった？

「五十嵐のやつ。孝昭の姉ちゃん、好きなんだってな？」

「ええ・・・」。

わざと男といるとこ見せて。
それで身をひくつもり？


「それで五十嵐さんは・・・」。

「だいぶショックだったようだ。結局、交際けられたらしいからな」。

ウソ・・・。
早苗さん・・・。なんてバカ・・・。

けど、五十嵐さんも五十嵐さんだ。そんなのであきらめるか？

とにかく、どっちかに会わなきゃ！

「駐在さん。ありがと！五十嵐さんいたら、つかまえといて！」

「あ？五十嵐は、今日非番だ」。

「非番？」

「ああ。日曜だし。前からとってたらしいぞ」。

奇しくもこの日が早苗さんの誕生日。
それで休みをとっていたのでしょう。

そうか！今日スイートピーが届く・・・！給料2ヶ月分の！
なんてタイミング・・・。

それにしても非番となると・・・。
どうやってつかまえる？

僕は、村山くんを呼び出すと、和美ちゃんを伴い、大急ぎで文化祭会場へと向かいました。

文化祭は最終日。
この日、投票が発表されるはずでしたので、もともとみんなも会場に行くことになっていましたが、僕にとっては、予定よりもずいぶん早い到着となりました。

「村山、先に降りる！」
「ああ。車停められたらすぐ追いつくから」。

到着する前の渋滞で、僕はトレノを飛び出しました。
エントランスの階段を駆け上ると、会場へ。

　五十嵐さんは・・・ここに来ていないか？

もし、早苗さんが出展していることを知っているなら、表彰式のある今日、ここを訪れる可能性があるはずです。

僕は受け付けに走りました。

昨日と同じく、受け付けにいらっしゃった令子さんが
「あら・・・あなたは・・・・」。

「すいません！署名帳見せてください！」

「え？どうして？」

僕はそれに答えず、ページをめくりました。

「あの・・・困ります・・・」。
もう一人の受け付けの人も止めますが、完全無視しかありません。

「五十嵐さん・・・五十嵐さん・・・」。
そうです。ここを訪れていれば、署名されているはず。

そして

「あ！あった！やっぱり！五十嵐さん、来てる！」。

僕と和美ちゃんが、ほとんど同時に声をあげると

令子さんが
「あら。そこは一昨日の署名ですよ？」

「え・・・一昨日・・・」。

「ええ。五十嵐さん、一昨日、私の招待で見えられたんだけど。あなた、お知り合い？」

「え・・・・・・・」。

令子さんの？

招待？

早苗さんじゃ・・・ない？



僕は、和美ちゃんとエントランスホールの椅子に座っていました。

「まさか・・・令子さんが五十嵐さんの縁談の相手とは・・・」。

「奇麗なかただったわね」。
まだ事情を詳しく知らない和美ちゃんが言いました。

　良家のご息女か・・・。

　早苗さん、リボンフラワーでも負けて・・・。

　恋でも？

僕は、早苗さんが身を引いた理由の全てがわかり、胸が痛みました。
それで、自分で幕をひくつもり？早苗・・・姉さん・・・。


やがて表彰式も近づくと、エントランスホールは急激に賑やかになってきました。

その人ごみの中に

　早苗さんだ！

僕は和美ちゃんがいることも忘れて駆け寄りました。

「早苗さん！」

「おー。来てくれたのかぁ。悪いな」。

「いや。そんなことより・・・・」。

僕は知りうる言葉、すべてを使って、早苗さんの説得にあたりました。
好き同士があきらめるなんて、とうてい考えられなかったのです。

早苗さんは
「あのなぁ。好き同士ならなんでもくっつけるってわけじゃないからな？」

平静を装っていました。

「だって・・・」。

「あの人は・・・。超のつくエリートだし。家族だって賛成なんかしないからねぇ」。

その後にぽつりと

「弟も反対みたいだしな・・・」。

やっぱり。気にしてる。弟思いの早苗さんらしい言葉でした。

「いや。おかしいよ。早苗さん！」
僕はムキになりました。
思えば、僕が早苗さんに逆らうのは初めてでした。

「ん・・・。勘違いすんな。あたしだっていろいろ考えたさ」。

そう言うと

「だいたいよー。あの人が好きだったのは、早苗であって、スケ番お欄じゃないからな。あはははは」。

そう笑ってみせてから
「でもアリガトな。心配してくれてよ！じゃ、発表でなくちゃいけないから！」

控え室へと消えて行く早苗さんを。
僕は手をあげたままで、見送りました。


いよいよ表彰式というときになって、ようやく西条くんと孝昭くんが到着。
後ろにチャーリーとグレート井上くん、ジェミーの姿もありました。

「よ～～～。カップル～～～～♪」
孝昭くんが、僕と和美ちゃんを冷やかしますが

僕と和美ちゃんに笑顔がないのを知って、少しバツの悪い顔をしました。
その原因が早苗さんであることを、察知したのでしょう。

グレート井上くんが
「もう、表彰式始まるみたいだぞ」。

僕は
「ああ・・・」。
とだけ答え、和美ちゃんと一緒に会場に入りました。

　所詮。高校生だもんな・・・。


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