ぼくたちと駐在さんの700日戦争

「なんでいたずらって決めてかかるんです？」

「いやぁ。他に考えつかないっつーか。あはははは」。

「じゃ。大事なこと教えてやんない」。

「ん？大事なことってなんだ？」

「それがねぇ。あの～、スイートピー、もう注文しちゃいました？」

「え・・・なななな、なななんだ・・・きゅ、きゅ、きゅ～　」

オバQ音頭？
なんで早苗さんの話になるとどもるんでしょう？
まったくおもしろい人だ。

「もももも、もう注文し、し、しちゃったぞ。それがなんか？」

「あちゃ～～～。キャンセルできません？」

「で、できないと思うな・・」。

うーん。

「ま。しょうがないかぁ。花くらいだし。プレゼントにしないで自分で持っててください」。

「い、いや。ママチャリ。それは無理だぞ」。

「なんでです？花の1束2束」。

「いやぁ～～～。それが1束2束じゃなくって・・・」。

「え？5束くらいですか？」

「いやぁ～～～～。それが～～～～」。

五十嵐さん。なんか奥歯にモノの挟まった言い方。



「えーーーー！給料2ヶ月分～～～～～？」



「うん・・・」。

「スス、スイートピーを？」

「うん・・・」。

「ババババ、バカじゃないの？なんだってまたそんなに！」

「いや・・・女性へのプレゼントは、給料2ヶ月分が相場って同僚が・・・・」。

「そりゃエンゲージリングでしょ？」

「え！そうなのか？」

う～～～～ん。ここまで女慣れしてないとは・・・。
恐ろしい大人だ。

当時、スイートピーは、非常に珍しく、海外からとりよせるところさえあったほどで、現代ほど安くもありませんでした。
それほどのものですから、結局キャンセルできる様子もなく・・・・。

それにしても・・・
給料2ヶ月分のスイートピーって・・・。
トラック1台分くらいあるんじゃ・・・。

僕は加藤登紀子の『百万本のバラ』を思い出していました。

しかも孝昭くんによれば「スイートピーが好き」は、勝手な思い込み。

　う～～～ん。

まだ早苗さんの誕生日には間がありましたが、

　どうなることやら・・・。


しかし、あの大食堂のデート以来、早苗さんと五十嵐さんは、頻繁に会っていたようで、目撃情報も僕の耳に入るようになっていました。

この頃、近隣の市と合同の文化祭が開かれることになりました。
文化祭などと言っても、学校のもののように派手ではなく、書道や生け花など、地域の人の作品を展示したり、演劇や音楽を発表するもので、1週間ほどの期間を設けて続けられるローカルイベントです。
この中に早苗さんのリボンフラワー教室も参加しており、自動的に出展されることになっていました。

当然、早苗さんのリボンフラワーも展示されているわけで

　スケ番がどんな花をつくるのか？

という興味はつきなく、僕たちはみんなで会場をたずねてみることにしました。
もちろん、実の弟、孝昭くんは欠席。

「リボンフラワー・・・リボンフラワーは・・・・」。

「あ。あった！こっちだ！」
最初に見つけたのはグレート井上くん。

さっそく向かうと

「いらっしゃいませ～～～～～」。

なんと受け付けにスケ番お欄！
おそらく教室の生徒たちが交代でやっているのでしょうが、よりによって当人。

「さ、早苗さん・・・こんちは・・・・」。

「あ～～～。こないだはありがとうございました～～～」。
つとめて明るく、よそいきの言葉で迎える早苗さん。

「こちらにご署名おねがいします～～～～」。

僕は署名しながら
「無理してますね・・・。早苗さん・・・」。
小声で話しかけました。

「るせぇ！」

そうこなくちゃ。
ちょっと安心。

「ところで、五十嵐さんは来ました？」
「え・・・え・・・まだ・・・まだでございます～～～」。

はいはい。
でもうれしそうだ。
うまくいっている、という噂は本当のようです。どもり具合でわかる。


展示室には、たくさんのリボンフラワーが陳列されていて、それぞれに投票箱がついています。

「早苗さん・・・早苗さんのは・・・と」。

「あ！あった！」

「うわ～～～～～～～」。
「こ、これをスケ番お欄が？」
「信じられん・・・」。

それはまさしく可憐と言うにふさわしい、スイートピーの花束でした。

「あれぇ？でも、スイートピーだ」。
「ほんとだ・・・。孝昭の話だと嫌いって言ってたのに」。
「なんでだろ？」

孝昭くんによれば、早苗さんは、スイートピーに恥ずかしい思い出があるため、嫌いなのだそうで。
けれど、孝昭くんの鞄にも、出展作品もスイートピー。

どうなってるんでしょう？

「投票制なんだな」。
「うんうん。投票しようぜ」。

どうやら入場の際、渡された投票用紙で、順位がつくらしき趣向。
当然僕たちは、全員早苗さんに投票。

「しかしうまいな。孝昭の姉ちゃん」。
「うん。ライバルらしいのはほとんどないぞ」。
「ああ。優勝じゃない？」

と、思ったら。

展示室の中で、数人の人ごみのできている作品がありました。
見てみると

「うわ！すげ！」
「ほんとだ～～～～～！」

それは「あでやか」という言葉がピッタリな作品で、息を飲むような美しさ。
いいえ。早苗さんもうまいのですが、さなえさんを「可憐」とするならこちらは「豪華」。
圧倒的に人目をひきます。

「ん～～～。うかうかすると～～～」。
「うん。早苗さんの、負けるかも」。

「よし！明日生徒総動員しよー！」
「よっしゃ！」
「それよりよー。あの作品に死神カメレオンでもくっつけてこようか？」
「いやいや。ここはひとつガニコウモルだろ」。
「そうそう。あのバスーンぐあいがなー」。
「わははは」。

「こらこらこら」。
声をかけてきたのは、いつの間に後ろにいたのか、早苗さん当人。


＜ガニコウモル=仮面ライダーに登場する怪人。なぜ放送コードにひっかからなかったか謎＞


「ん。だってあっちのライバルでしょ？早苗さん」。

「あ？令子さんの？」
「うん。あっちの薔薇とか蘭とか。豪華ですよねー」。

早苗さんは、気になっていないようで
「あははは。勝負になんないって。ベテランだもの」。

「そうなんですか・・・」。

「うん。令子さん、毎年優勝なの。そろそろ師範できるんじゃないかしら？」

「ふーん・・・。早苗さんも豪華にいけばよかったのに」。

「え？あたし？ははは。いいのいいの。これ作りたかったんだ」。

心なしか、言葉が少し・・女っぽくなってる・・・？

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