ぼくたちと駐在さんの700日戦争

と・・・。

電柱に立てかけられたパチンコ屋かなにかの立て看板に、せいいっぱい身を隠している「つもり」の男性がひとり。

「あれ？あれって五十嵐さんじゃねぇか？」

最初に気づいたのは西条くんでした。

「ほんとだ。なにやってんだろ？あんなとこで・・・」。

「なんか見張ってるみてぇだな」。

見張っているのは間違いないのですが、

「目立つなー。白バイ隊の制服」。
「うん。目立つ。あれって隠れている意味ないね」。
「かえって目につくもんなぁ」。
「ああ。あの人、刑事には絶対なれないね。よかった。交機で」。

しかし五十嵐さん。よほどその「見張り」に一所懸命になっているらしく、僕たちが近づいていることにも、まったく気づく雰囲気がありません。

「五十嵐さん！」

声をかける僕たち。

「たーーーーーっ！た、た、た、た、た、たーーーーーっ！」

奇妙な声をあげてあわてふためく五十嵐さん。

「なにやってんです？こんなとこで」。

「ななな、なんだ。お、お前らか！なんで脅す！脅迫罪で逮捕するぞ！」

声かけただけで脅迫罪とられちゃかないません・・・。

「いや。だからなにやってるんですか？」

「あ～～～～～。つまりだ。その～～～～。電車が速度違反しないか～～～～」。

「しないと思いますよ」。

「あーーー、そうだよね。だよね。うんうん」。

「？」「？」

あやしい。

「ん～～～～～？」

すると五十嵐さん。

「なななな、なんだ。なんなんだ。ママチャリ！」

「誰か待ってるんですか？」

「ままま、待って？待ってなんかないぞ！けっして！」

なるほど。誰かを待っているらしい。
すごくわかりやすい。

「はは～～～～ん」。

と、僕が推理するまでもなく、下りの電車がやってきて、やがてホームから出て来たのは

早苗さんでした。

早苗さんは、N市の建築事務所に勤めるOLさんになりましたが、こっちも、まーなんというか

　目立つ。

なにしろ化粧がスケ番のまんま。
よくあれで採用されたものです。
孝昭くんの話だと、親戚が経営されているらしいので、見てくれはどうでもよかったのでしょう。
でもそろそろスケ番メイクから離れてほしいものです。

「五十嵐さん、早苗さんのこと、待ってたんですね？」

「だーーーー！だから！警察、脅迫すんな！」

「いえ・・・別に脅迫って・・・」。

「あ？ママチャリ。お前、またこれをネタに脅そうという魂胆だろ！わかってんだぞ！わかってんだからなーーー！」

どういう高校生だ・・・・。
へんな信頼があることはわかりました。

しかしこういう会話をしている間に
「あ。ほら。五十嵐さん。今行かないと。早苗さんのバス来ちゃいますよ？」

「あーーー。いいんだ。いいの」。

「はぁ？」

「ん。今日は見れたからよしとする！」

え・・・それだけ？
どれだけ純なんだ・・・。五十嵐さん。

「僕、呼んで来てあげますよ」。

「えーーーーー！呼ぶってお前！速度違反もしてないのにっ！」

どうやら速度違反してない女性には話しかけられないようです。

「待っててくださいね」。
「よよよよ、余計なことすんなーーー！」

しかしこれを無視しまして、早苗さんにかけよる僕と西条くん。

「早苗さん～～～～～」。

「あ！てめぇら！」

「あのね。早苗さん。OLなんだから　てめぇら、はないでしょ？」

「あ。そうか。そうだね。そう言われりゃ。んじゃーーー、みなさま？」

まだ社会人にはほど遠い気がします。

「おひさしぶりっす。お欄さん」。

あ。バカ！西条！

　ドスッ！

孝昭くんやケンちゃんのカミソリのようなパンチは容易にかわすのに、なぜか早苗さんのみぞおちパンチはくらってしまう西条くん。不思議です。

「・・・さ、早苗おねえさん・・・・」。

「そうそう。もうね。スケ番お欄は卒業したんだからね。あたしゃ」。

あたしゃ、とか言ってるうちはダメだと思いますが。


「ところで早苗さん。すぐそこに・・・・」。

と、指をさそうと振り向いた僕たちでしたが


　　いない・・・・。


早苗さん。
「あ？待ち伏せかぁ？」

空気を察した西条くん。
「あの・・・俺、この電車だから・・・おさきに～～～」。

あ。逃げた・・・・。

残された僕。
「ええ。待ち伏せって言えば待ち伏せなんですが」。

「ったく困ったもんだな。こっちはもう立派なOLだってのによ」。

と言いながら、カミソリの刃を出さないように。立派なOL。

「いえ。そういう抗争の相手とかじゃなくって・・・」。

「あ？そうなのか？じゃぁなんだろな」。

うーん。やはりスケ番卒業して1ヶ月あまり。
まだまだ抜け切っていないようです。

「そうじゃなくって、警察・・・」。

「マッポ～～～～？」

「はい。あの、五十嵐さんいるでしょ？」

「え！い、いいい、五十嵐って、あ、あの交機のか？」

「はい。早苗さんがバレンタインのチョコあげた・・・」

　ドスッ！

「てめぇ。往来で余計なことくちばしんじゃねぇよっ！」

「はう・・・は・・はい・・・すいません・・・・」。

キューピット傷だらけ。

「人に聴かれたら恥ずかしいだろうがぁっ！」

パンチくらわしてるほうがずっと目立つ、と思いましたが、当然口には出せません。

しかしそれでも突然髪などを撫でる早苗さん。
「な、なんであの人が・・・」。

さすがに女の子です。
その前に、そのごてごてのほお紅落としたほうがいいとは思ったのですが。

「あ。バレンタインのお礼でも持って来たんじゃないかと・・・」。

　ドスッ！

「は・・・う・・・・・」。

「ま、ま、まさか。そ、そそそそ、そんなこと。あるわけねぇだろ？」

「そ、そ、そうですね」。

　ドスッ！

「うううぅぅ・・・ぅぅ・・・」。

いったいなんと言えば？

しかし、今回のは・・・・効いた・・・・・。
ひねり加わってるし・・・。

「そこは否定するもんだろ？」

「は・・・・ふ・・・・・」。

「なんとか言え！くらぁ！」

いや。なんとか言いたいけど呼吸自体ができてないんですが。
声を出す根本となる「吐く息」がありません。

それにしても傍目からは、どう見てもOLにカツアゲされている高校生。
OLのカツアゲってだけでもめずらしい光景ですから、そりゃ注目もあびます。

しかしこういった注目には極めて慣れっこのOLお欄。

「てめぇ。あれだなぁ。女ぁはべらせてるわりに、乙女心ってのがわかってねぇなっ。うん」。

「・・・・・・」。

乙女心が息もつけないほどに痛いということだけは、理解した僕でした。



人気ブログランキング

　　　特別編：第2話へつづく→

関連記事

• 特別編：スイートピー・ロード 第3話
• 特別編：スイートピー・ロード 第2話
• 特別編：スイートピー・ロード 第1話