ぼくたちと駐在さんの700日戦争

←12章-第105話へ　12章-第107話へ→
人気ブログランキングへ　　ブログ村ランキングへ

---

次のSAでさっそく話し合い。

「え～～～～！東名走らせる～～～？」

孝昭くんたちもびっくりです。

西条くん。
「うん。チャーリーって、意外に恥骨あるのな」。

「気骨だろ。バカ」。

「あ？恥骨、男なかったっけ？」

そういう問題ではなく。

「ないのは恥丘か・・・・」。

いやいやいや。
なんでそっち方面に話すすむ？


「恥丘は僕らの宝島っ！」

アホ無限大だな。西条。

「あ。でも宝島かも・・・」「うんうん」「宝島だっ！」「名言名言」。

同調する者、多数・・・。


「車軸とか耐えるのか？事故とか起こしたら大変だぞ？」
ようやく話をもどしてくれたのは村山くん

「うん。普通の軽自動車が耐える速度くらいなら」。

「そりゃすごい・・・。すごいな。チャーリー」。
カーキチの村山くんが唸ります。

「こないだの試験走行では80キロくらいまで出たんだけど・・・」。

「うん」。

「でも農道だと、すぐT字路とかで止まっちゃうんだよな」。

当時はまだ農地整備が進んでおらず、そんなに長く舗装された農道はありませんでした。
80年代に入ると、飛行機が離着陸できるような馬鹿みたいな農道もできるのですが、これよりずっと後のことです。

「でもナンバーないんだからいくらなんでも走れないだろ？」
もっともなご意見は森田くん。

「ああ。法律的に無理だ」。
と、中立派グレート井上くん。

「うーーーん」。

「やっぱ無理かなぁ」。
チャーリー。少し落胆気味です。


ここでようやくジェミーもお目覚め。

「おろしてください～～～～！」

荷台で騒いでいます。
「いやぁ。わりぃわりぃ」。
「あんまりよく寝てたんで」。
「お前、血統書ないし」。

と、さもジェミーを思ってのことのように聴こえますが、実は興味本位の放置。

ようやく荷台から解き放たれたジェミーは
「あれ？ここどこです？」

「栃木県」。

「栃木～～～～～～？そんなに寝てたんですかぁ～～～～？」

「ああ」。

「へ～～～。僕って大物？」

ここいらがなぁ。
ジェミーだなぁ。

寝てただけのくせに。


さて。
実は東名高速に入る以前に、僕たちは埼玉県内で道に迷うことになるのですが、これは別の機会にでも書くことにします。


--そして東京。--


東京到着は、すでに夜中でした。

首都高速に入り、大都会の夜景が見えて来ると、僕たちの気分はいやおうなく高揚しました。

「すげぇ！東京！」
「うん！すごいな！」

田舎者丸出しで騒ぎ立てます。

すでに河野くんの運転テクニックもだいぶ上達し、僕たちは安心してその光景に浸る事ができました。

西条くんが、窓からの風をあびながら
「こうやってみてるとなぁ。なんか、俺らちっちゃいなぁ・・・」。

「うん・・・。そうかもね」。

それは美しいばかりでなく、なんとも言えない圧迫感がありました。

「なんか。卒業前にでかいことしたいよなぁ。こういう大都会相手によ」。

今まででもじゅうぶんだと思いましたが。

西条くんは、遠く立ち並ぶビル群を見ながら
「みんなが集まれるうちによぉ・・・」。

ぽつりと加えました。

これに

「ああ・・・」。
めずらしくグレート井上くんが相づちをうちました。

そうです。
みんなが感じていました。
みんなでなにかをするのには「期限」があることを。

僕たちは、自分の存在感を欲しがる年頃でもありました。

そうじゃないと、そうやって社会の渦に飲み込まれるだけのような気がして。
この大都会の光景は、それを認識させるのにじゅうぶんすぎたのです。

僕たちは、全員がその切なさに黙りこんでしまっていましたが、

やがて

「チャーリー」。

「ん？なんだ？西条」。

「やろう！」

「え？なにを？」

「東名、走らせようぜ！スティングレイ！」

「え・・・・。あ？」

一瞬とまどったチャーリーでしたが

「お前と渉がよ。5年もかけた夢の車だろ？」

「あ？うん」。

「なら、やろうぜ！」

「うん！」

これにみんなが同調しました。

「うん。やりましょーーー！」
「やってやろうぜ！」
「ああ。やろう！」

大都会の圧力が、僕たちに決意させました。

この大都会を相手に。

それはなんでもよかったのですが。

自分たちでつくった車で、天下の東名高速道路を走る。

馬鹿げたことと知りつつ。
すでに誰も反対しませんでした。

無線でダブルキャビン班に連絡。

「やるぞ」。

”え？なにを？”

「東名。走らせる。スティングレイ」。

”え・・・・・”

ダブルキャビン班は、また少し間合いをおきました。
おそらく冷静な森田くんを中心に、話し合っているのでしょう。

そして。


　”了解!!”



東京IC。

「すげーーーーーー！」
「待ってろーーーー！東名ーーーーー！」

夜のハイウェイは、僕たちの計画を知ってか知らずか、まるで滑走路のように輝いていました。
少なくとも僕たちの目には。
それが青春の輝きと言っても、過言ではないほどに。