ぼくたちと駐在さんの700日戦争

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不良たちとの真ん中で、サチコが腰をふっているという奇妙な緊張が流れたところで
ようやく

「あー、あれだよなー。ゲロ吐く日は朝飯選ばないとだめだな～～～」。

ゲロを吐き終えた西条くんがトイレからもどってきました。
ゲロ評論家として。

「朝メシ。シャケだったんだが酸味が合わねぇな。なぁ」。

なぁ、とか言われても・・・。
味わうなよ・・・。ゲロ。

「なんだこいつ？仲間かぁ？」
ヤンキーなお兄さんたちが言い出したのと同時に

「ん？なに？こいつら？」
西条くんも、3人を見て言いました。

西条くん、ちょっとまわりを見回して

サバンナ発見！

「あ！河野！あれ、さっきのサバンナじゃん！」

「ああ」。

事態を理解したようです。
と、思ったら、
「おい！こんなへんな兄ちゃんたち後でいいからよ。まず、そっちのサバンナのやつらぁ捕まえようぜ！」

「？」

どうも西条くん。彼らがサバンナの乗組員（？）とわかっていないようです。

「とりあえずとっつかまえてよ。ギッタギッタにして酸味のあるシャケ喰らわせてやる！それくらいしねぇと気ぃおさまんねぇ」。

3人をカンペキ無視して、サバンナへつかつかと向かって行きます。

これは当然3人にも聴こえているわけで、あまりに自信たっぷりな西条くんの台詞に幾分ビビりぎみ。
酸味のあるシャケもちょっと怖い。

西条くん。サバンナを覗き込むと
「あーーー！乗ってねぇ！ゲロでも吐いてんのかな？」

みんな自分と一緒と思うな・・・。
少しは発想が結びつかないのか？状況見て。

しびれをきらしたのか、目前で「ギッタギッタにしてやる」とまで言われたのに腹をたてたのか、3人のうちの1人が
「そいつぁ俺の車だがぁ？若葉マークの仲間なのかぁ？兄ちゃんよー」。

これで関を切ったように2人も
「威勢のいいガキだぜ。こいつぁ」。
「へへ。ギッタギッタだぁ？おもしれぇな」。

ことさらに迫のある声で、西条くんにつっかかりました。

「え？この3人なのか？」

僕たちに向かってすっとんきょうな声をあげる西条くん。
コクンコクンと僕たち。

「いや。サバンナって3人も乗れんの？」

「サバンナは5人乗りだよ」。

「はぁ～～～、なるほど」。

ここでようやく事態を理解。サチコとどっこいどっこい？
かくゆうサチコは、チャーリーが立ち上がってしまったため、足にしがみついて、なお腰をふっているのでした・・・。

3人のうちひとりが西条くんにもたれかかるように
「おもしれぇこと言ってたなぁ。にいちゃん。え？」

西条くん。
これをふりほどいたかと思うと

「ホォッ！」「ハッ！」

というかけ声と同時に、うち2人の膝の皿あたりを強烈に蹴りつけました！

速い！
ケンちゃんも速いけど、やっぱり西条くん、めちゃくちゃ速い！

「うぉぉぉぉっ！」

「ってーーーーーーー！」

2人が膝をかかえて地面に転がりました。

本当に一瞬のことでした。

「て、て、てめぇ・・・・」

2人は必至におきあがろうとしますが、まったく立ち上がることができません。

西条くん。
「ワリィが兄ちゃんたちじゃぁ俺にゃ勝てねぇぞ」。

これがハッタリじゃないのが、西条くんのすごいところです。

残ったひとりは、へんなボクシングのような構えはしますが、たじたじと後ろに下がるばかり。
西条くんも、このひとりを睨みはしますが、どうもかかっていく雰囲気はなく、
僕たちに向かって
「おい。まわりで談笑してくれ」。

「あ・・・ああ」。

まわりで談笑する。
ちょっと奇妙かと思われますが、これは、孝昭くんがよく使う「周囲に怪しませないための偽装作戦」です。
こうしないと目撃した人がどういう通報をするかわかりません。
武闘派はトラブル慣れしているので、こういう機転がよくききました。

しかし、周囲よりも、なかなか起き上がれない2人に

　ぴくっ

っと、敏感に反応したのが

サチコ。

すでに立ち上がっていたチャーリーをあきらめ、倒れた2人のうちの1人に一目散！

そしてまたしても

　馬乗りっ。

「うわ～～～～～～～っ！」

慣れているチャーリーはともかく、一般人にドーベルマン馬乗りは堪えます。
誰だってドーベルマンに背中から襲いかかられたらたまりません。

「なななな、な、なんとかしてくれーーーー！」

これには残ったひとりも手を出せず
「なんとかしてくれっつっても・・・」

　ガウウウウウ

四つん這いなら誰でもいいのか・・・サチコ・・・・。

　ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ・・・

例によって腰ふりまくりっ！
毎度思うのですが、同じ哺乳類の雄として、恥ずかしくなるほどのあさましさ！

襲われた当人は
「う、うわぁぁぁぁぁ、気持ちわり～～～～」

とうとうグレート井上くんに懇願しだしました。

「お、お前、飼い主だろ？な、なんとかしてくれ！」

これに答えたのは西条くん。
「あんまり騒がねぇほうがいい。耳噛み切られっぞ」。

「え～～～～～～～！」

なんとサチコ。このお兄さんの耳をカジカジし始めていました。
お気の毒。

「た、たのむ！な、なんとかしてくれよぉ・・・！」

サチコを刺激しないように、小声で泣きが入ります。

ようやくグレート井上くん。
「サチコ！セット！」

この言葉を聴くやいなや、サチコ。
さっとお兄さんの元を去ると、グレート井上くんの横にふせ！

「井上、かっけ～～～～」。

「ほんとほんと。新造人間キャシャーンみたい！」

確かに。その姿は、さながら荒野に立つ新造人間キャシャーンとフレンダー！


＜新造人間キャシャーン=1973年タツノコプロ制作のアニメ漫画。凝ったストーリーで現在でも高い人気がある。宇多田ひかるさんのご主人が最近映画化したけど、それはどうでもよい＞


グレート井上くんも、まんざらではないらしく
「ああ。サチコ、警察犬訓練、きちんとうけてるから」。

「え？そうなの？」

「ああ。大型犬だし、活発だからな。ドーベルマン」。

「なるほどー。でも、キャシャーンのフレンダーは腰ふんなかったけどな」。

「う・・・・」。

「っていうか、最初っから止めろっ！」
チャーリーの言い分はもっともです。

「だって・・・」。

「だって、なんだ？」

「おもしろくって・・・・」。

確かに。
井上くんの言い分こそもっともでした。


西条くんは
「さてと。あとひとり・・・か・・・」。

ようやく最後のひとりを睨みました。

「いや・・・お、おれは・・・あ・・・わるかったって・・・」。

→ → → → → →

「へぇ～～～～。そんなおもしろいことあったのか～～～」。

後から到着したダブルキャビン班の孝昭くん。悔しそうです。
しかし孝昭くんが来なかったからこそ、それなりの出来事で済んでいた訳で、僕たちにとっては幸いでした。

「ところでよ」。

「ん？」

「ジェミーは？」

「あれ？」