ぼくたちと駐在さんの700日戦争

「じゃ。こっちは45万だ！」

こうなると関を切ったように競い始めます。

「43！」
「こっち40だ！」
「38！」
「36！」

競っているのは、4社7人くらい？
つまり手形4枚です。

ところがここで早乙女さんが席を立ちました。
「おいおい。のせられんなよ。ひょっとすると落ちるかも知れねぇじゃねぇか。ま、いずれにせよ抵当あるんだしよ。落ちないときゃうちから・・・」。

早乙女さん、つまり虹色家族は、坂本家が倒産してくれないと困ります。
倒産させて抵当権で土地を手に入れるのが主目的。
手形買取は想定外のことですから、ここは当然反論するはずでした。

「ぁあ？早乙女ぇ。てめぇんとこはゲンチ（抵当）1番でおさえてっからいいだろうけどよ！」
「そうだそうだ。こっちは裸だぁ。それよりゃ今、原ナマで利益出たほうがいいんだ」。
「そうだ。虹色だけ儲けようったってそうはいかねぇぜぇ？早乙女ぇ！」
「追い込みもシャレになんねぇ。危ねぇ橋渡んのはこっちなんだぜぇ!?」

「兄ちゃん！競り、続けてくれぇ！」

一斉に反発！

「なんだとぉ!?あてになんねぇだとぉ!?」

こうなると、そのスジの人たちですから止まりません。
特に早乙女さんはヒートアップしていて、もはや一触即発！

「てめぇらぁ！やめねぇかぁ！」

ケンちゃんが間に入って、一旦おさまりましたが、なにしろ利害がからんでいます。
にらみ合いは続いたままでした。


が。ここへ

「孝昭ぃ！ママチャリぃ！いるかぁ！」

来ました。待ってましたの怒声。

駐在さんです。

駐在さん、前のドアを蹴破るように開けてきたものですから、たいへん！

「げ！マッポ！」「け、警察？」「てて、手入れか？」

50人。真っ青です。
もうケンカどころではありません。ヘタをすれば全員後ろに手がまわります。

駐在さん。我に返ったようにこれを見回して

「んんんんんん？」

見ると会場。かなりの人数が顔をふせています。

駐在さん、ケンちゃんを何度もしょっぴいておりますが、その全てが「暴力沙汰」と言っていました。
おそらくここにも駐在さんを知る者も多いはず。

「ん～～～～～～？なんだぁ？このメンバーは」。

一番と小さくなっているのはケンちゃん。

「知った顔もずいぶんといるなぁ。ぇええ？」

みんな顔を隠すのに必死。

「な、なんだって巡査が・・・」
会場は下を向く者、扇子で顔を覆う者多数。
さすが駐在さんだぁ。

しかも。

「おお？お前、富樫じゃねぇか」。
「あ・・・総長、おひさしぶりっす」。

総長？
そっか。暴走族時代の部下？

「あ。てめぇ板垣！」
「巡査さん、そのせつはお世話になりやした・・・」。

さすが駐在さん。次から次に名前が出て来ます。

「なにやってんだ？お前ら」。

ここでようやく僕が
「いえ。駐在さん、商取引ですよ」。

「商取引～～～～～～？」

「ねぇ。みなさん」。

するとみなさん。
まさかブルーフィルム鑑賞会とは言えませんので

「そ、そうで～～～～す。しょ、商取引で～～～～す！」

元気いっぱいにおへんじ。

「高校生がかぁ？」

僕はあわてて
「駐在さん！」

駐在さん。僕の合図がわかったらしく
「あ・・・えーっと。親孝行せい・・が・・・」。

苦しい。駐在さん。

僕は平然と継続です。
駐在さんが来れば、早乙女さんが出しゃばることは考えられません。
すでに怖いものなし。

「じゃ、さっきは36万でしたが他にいらっしゃいますか？」

「は～い」。

「はい。じゃ、そこの紫のモンモンついてるあなた！」

「えっと～～～。わし・・・いや。ボクのとこは35万でいいで～す」。

「35万が出ましたが、他にいらっしゃいますかぁ？」

「は～い」。

「はい！じゃ、そこの中指までないあなた！」

「おれ・・・いや・・・ぼ、ボクのところは34万で売ります・・・・」。

駐在さん。
「なんの競りしてんだ？こら」。

「手形です。普通の金融取引ですよ」。

「手形ぁぁぁぁぁ？」

「そうですよね？みなさん」。

「そそ、そうで～～～～～～～～す」。

みんな学級会レベルです。
なにしろここにいる大多数が中卒なわけで、悪い場合は中学中途で終えておりますので、こういう会議は学級会以外知らないのです。
きちんと手を挙げて発言するあたり、なかなかです。

これを黙って睨み続ける駐在さん。

そうそう。駐在さんは、そこで睨んでくれてればいいの。

「じゃ、値段も出そろいましたところで。提案ですが、どうでしょう？みなさん。一律35万で買取、ということでは？

すると一人が手をあげました。

「あの～～～。も、もう少し色つけてくれたら、いいと思いま～～す」。

「しょ、昇竜会の富樫くんに賛成でーす」。
「賛成で～～～す」。
「いいとおもいま～す」。
「昇竜会に賛成で～～～す」。

微笑ましく会議は進んでいきます。

「じゃ。一律37万でどうですかぁ？」

「いいで～～～～～～す」。
「こっちもいいで～～～～～す」。
「こっちもいいで～す」。

「じゃ。そういうことで。納得された業者さんは、今から紙配りますんで、こちらに名前書いてください」。

「は～～～～い」。


こうして4社が買取を申し出、148万円で400万円分を回収することができました。

サインを集めたのはケンちゃん。

僕はサインを受け取ると
「じゃ、みなさん。引き続き映写会をお楽しみください」。

「えええええええ！」

さすがにどよめく会場。
そりゃそうです。警察官のいる前でブルーフィルム映写会が続くはずがありません。

「あ！そうだ！ママチャリ！うちの映写機！」

「あ。お借りしてました。駐在さんもどうぞ。ご一緒に」。

「ぁぁああ？きさまぁ！ポルノを一緒に警察官が・・・」。

「やだなぁ。駐在さん。ちがいますよ。ほら」。

と、僕が見せたフィルムの箱には

なんと『本署交通課』の印が。

「ああ？交通課ぁ？」

そうです。これは五十嵐さんが持って来た『熊太郎』の方の箱です。
それは交通課が所持しておりましたので、箱には［本署交通課］の印がありました。

「じゃ。みなさん。ひきつづき『秋の交通安全運動』のフィルムごらんになりますかぁ？」。

「は～～～～～～い」。
「いいとおもいま～～～す」。
「巡査さんがよければ、いいとおもいま～～～す」。

当の巡査さんは
「ま・・・あ、秋の交通安全運動なら。うん。しかたないな。うん」。


こうして2本目の上映が終わると

駐在さん。
「あ、秋のピストン運動・・・すげぇな・・・」。

「駐在さん・・・交通安全運動ですってば・・・」。

「そ、そうか・・・。ママチャリ・・・お前、鼻血出てるぞ・・・」。

「駐在さんも・・・・・」。

「西条たち・・・いないな・・・・」。

「なんか・・・さきほどトイレ行きました・・・・」。

「わ、若いな・・・」。

「え、ええ・・・・」。

言葉も継げないほどのアンコールワットには、

「あの～～～～。今のもう一回・・・・」。

アンコールがついたとさ。




人気ブログランキング

　　　特別編：11章フィナーレへ→

関連記事

• 12章-第93話 青い狼と赤い羊(1)
• 12章-第92話 ゆずれないもの(9)
• 800万HIT　御礼!!!