ぼくたちと駐在さんの700日戦争

←ギャラリー 五十嵐さんへ　12章-第78話へ→
←12章-第76話へ　
人気ブログランキングへ　　ブログ村ランキングへ

---

＜おことわり＞本日1日10万円の作戦披露。笑える部分はありません

「え。西条と孝昭も連れてきたのか？」

「井上ぇぇぇ。どういう言い草だ。そりゃ」。
西条くんの不満ももっともです。

喫茶店ポプラ。

森田くんとグレート井上くんは、約束の時間のはるか前についたらしく、テーブルのアイスコーヒーはすでに空っぽに近くなっていました。

やがて僕たちに遅れること10分。坂本くんも到着。

「すいません。先輩～」。
「ん。いいよ。まず座れよ」。

僕たちはそれぞれアイスコーヒーを注文して、本論に入りました。

僕。
「それで、どうだった？」

井上くん。
「ああ。父の知ってるとこ全部あたってみた。100軒近くあたったけど該当する会社は5件くらいかな」。

「やっぱり。森田は？」

「法曹関係には需要はなかった。けど不動産系はあるみたいだな」。

「そっかぁ。法曹系、ありそうなのになぁ」。

ここで坂本くん。
「あの～～～。なにをするつもりなんですか？」
やはり当人。不安そうです。

「ああ。うん。それより親父さん、どうしてた？」

「あいかわらず金策走ってるみたいです」。

「やめろって言わなかったのか？」
「言いました。言いましたけど、500万円どうにかするって高校生の僕が言っても・・・・」。

それはもっともな話でした。

「そりゃそうだろうな・・・。でもあんまり金策で走ってほしくないんだけど」。

「あの・・・失礼な言い方なんですが・・・500万なんてなんとかなるんですか？」

坂本くんには、まったく詳細を話していませんでしたから無理もない質問です。

孝昭くんが
「ブルーフィルムでそんなに稼げるのか？」

「いや。長くやれば稼げるだろうけれど時間的に無理だ」。

「じゃ、なにするつもりなんだ？」

「うん・・・・」。

僕がみんなを前に詳細を説明し始めました。
グレート井上くんと森田くんにとっては繰り返しになります。

「僕らがお金を稼ぐには夏休みしかない。そういう意味では8月末が一度目の手形の期限だったのはラッキーだった」。

「ああ」。「うん」。「はい」。

「8月末の手形が300万円。これを落とすためには1日あたり10万円稼がなくっちゃいけないだろ？」

「ああ。そんなうまい話あるわけないよなぁ」。

「ところがね。あるんだ」。

みんなが顔をよせました。

「今、僕の家には東京の叔父さんが来てるんだ。司法書士で不動産の買い付け手続きで来てるんだけどね」。

「うん」。

叔父さんが来たのは、東京の企業の工場用地買い付けの仕事でした。

「あれ？叔父さん、今日も東京帰るの？」
「ああ。なにしろ明日までこの書類あげないと間に合わないからな」。

「ふうん。また飛行機？」
「そう。他にないだろ」。

当時、東北地方には新幹線は通っていませんでした。

「へー。たいへんだね。郵便じゃダメなの？」

「郵便じゃ速達でも2日かかるからな」。
「そっかー。そりゃたいへんだねー」。

「こないだは間に合わないんで、バイク便使ったけどな。6万円もかかった」。
「ろ、六万円？」

「東京までだから当たり前だろ。何時間かかると思ってる？」

「そうか・・・。そうだね」。


「ふんふん。それがどういう関係あるんだ？」

「うん。ファックスはダメかって聴いたんだけど。ハンコのあるものだからダメなんだってさ」。

「あー。そういうのもあるのか」。

「それでね。ちょっとおもしろいな、って思ってY市でデザインやってる叔父さんにも聴いてみたんだけどね。東京の仕事やってる人だから」。

「うん」。

「東京まで送るのはどうやっても20時間はかかるらしいんだ」。

「20時間かぁ。そんなもんかもな」。
「ん。早いくらいじゃない？」

「うん。ところが締め切りがあるんで間に合わないときは、やっぱりいくらでもかけるらしい」。

「いくらでも？」

「そう。いくらでも、だ」。

そうです。
もうおわかりでしょう。
僕が考えた「1日に10万円稼ぐ方法」は、東京までの即日便なのです。

「飛行機は1日6便出てる。しかもね。手荷物は無料なんだよ」。

「あ。な～～～～る」。

「今、東京まで一番速い運送は国鉄-赤帽便で、それでも20時間近くかかるらしい」。

「うん」「うん」「うん」。

「しかもね。料金は1万以上なんだ」。

「20時間で？」

「そう。叔父さんが使ったバイク便はなんと6万だぜ」。
「6万・・・・・」。

「でも締め切りがある仕事ってあるわけでね。もし当日東京まで書類が届くなら・・・・」。

「いくらでも払う？」

「そうだ。いくらでも払うところがある。叔父さん、僕が届けるなら1回1万円払ってやるって言ってた」。

「じゃ、なんでやらないんだよ」。
「え。飛行機代2万円だもん。合わないだろ？」

「あ。赤字？」
「うん。大赤字。叔父さんだけならね」。

そうです。叔父さんだけなら1万円の赤字ですが
「もし、同じ需要が10軒あったら？」

「10万円で・・・8万円の黒字！」

「そういういことだ。何件あっても飛行機の料金は同じ。荷物は全て手荷物だからな」。

「あ・・・あったまい～～～～～」。

「20件需要があれば18万円。30件あったら28万円、1日で儲けられる」。

「す、すげ～～～～～」。

「価格を20時間の赤帽より高くできるはずだから。1件1万2千円でもきっと需要はある」。

「な～～～～～る」。

「それで井上と森田に当たってもらってたんだよ」。

「あったのか？」

グレート井上くん。
「ああ。あった。デザイン系とかテレビ局関連とか。けっこう急いでる仕事ってあるんだね」。
森田くんも
「こっちも多かった。っていうかいくらでも見つかりそうだったよ」。

まだネットはおろか、ファックスもろくに普及していなかった当時、この需要は本当にたくさんあったのです。

「叔父さんが東京帰る日は叔父さんに頼めるから。そのかわり飛行機代半分持つとか言えば大歓びだ」。

「うんうん」。


僕たちは話し合いを続け、1日に1人ずつ最終の飛行機で東京に行くこと。
書類以外は扱わないこと（運送業法があるため）。
荷物となる書類の回収は行い、受け渡しは全て羽田の空港内で行うこと、など、ビジネスの手法を決めていきました。

「でも帰って来れないんじゃないか？行ったやつ」。

そうです。最終の飛行機ですから帰りの便はありません。

「うん。そこで森田なんだよ」。

「森田？」

「そ。お寺に泊めてもらうんだ。森田のとこ、おっきい宗派だから。全国どこにも泊まるとこあるんだよ」。

「そんなことできんの？森田」
「ああ。そういう制度もあってね。祖父が口きいてくれるってさ」。

「食事付き無料。ま、いくらかお布施くらいはいるだろうけど」。

「東京行ったやつは翌朝もどってくれればいい。書類だから回収はバイクでもできるだろ？」

「東京かぁ。考えなかったなぁ」。

「うん。なんだかんだ言って日本の経済は東京中心だからね」。

僕が続けます。
「最初はジェミーがいいだろ。あいつ東京育ちだからな。慣れてる」。

このビジネスは、実際に大当たりすることになります。
しかし、初歩的問題が残っていました。

「最初の飛行機代、だよな」。

「うん。チラシもまくことになるから初期費用と労働はかかる」。

グレート井上くん。
「あとは1日2件以下の時もあるだろうからね。上映会のほかに安定的収入も必要だよ」。

「さすが井上だなぁ。そこでだ」。

僕はテーブルに用意して来たカセットテープを1本おきました。

「なにこれ？」
「新品のカセット？」

「そう。これはソニーからこないだ出たDuadってテープなんだけどね」。

「テープ売るの？」

「まぁ。そんなとこだ。うまくすると1日100本売れる」。

「1日で～～～～？」
「100本～～～～～？」

「毎日？」

「たぶん毎日」。

「電気屋だってそんなに売れないぜ？」

「うん。普通ならねー」。

「なんかすんの？」

「いや。そのまんま」。

第三のビジネスです。


※クリよろ～
　プチ予告更新しました～（16:30～）

人気ブログランキング

　　　　12章-第78話へつづく→

mixiに「ぼくちゅうコミュ」ついに1500名突破~~！。mixiやってる方、ぜひどうぞ！
mixi招待状ご希望のかたはこちらから!

携帯でコメント欄が見えない方→こちら
携帯でコメントを入れられない方→こちら

関連記事

• 12章-第78話 ジェットストリーム(1)
• 12章-第77話 MoneyMoney(11)
• 12章-第76話 MoneyMoney(10)