ぼくたちと駐在さんの700日戦争

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さっそく行動にうつる僕たち。
「千葉、チャーリーに電話していなかったら小屋向かってくれ。久保と一緒に」。
「らじゃっ！」

「いたら駐在所に連絡くれって」。
「いなかったら？」

「探せ！」
「了解～～～！」

「それから西条、悪ぃけど学校もどって音楽部の楽器用ポリッシュ借りてこい」。
「楽器用ポリッシュ？」

管楽器を磨くポリッシュは、メッキ部分を磨く洗剤としては、この上なく優れていて、ほとんどのものを新品なみに磨くことができました。
オートバイには金属部分が多いので、これを磨くのに流用するためです。

一斉に動き出す僕たちを見て駐在さん。
「おまえらは、ほんっとこういう時だけ団結いいなぁ・・・・」。

「え。まぁ」。

「もう少し本分に生かせりゃいいのにな」。

「本分って？」

「学業だよっ！学業っ！ママチャリ、お前学校で成績1位か？」
「いや・・。1位には井上がいますからね」。
「そうか。じゃぁ2位か？」
「いや・・。2位には森田あたりがいるんで・・・」。
「じゃぁ3位か？」
「いや・・。3位には・・・」。

僕が「そこいらです」と言えたのは、このはるかに後のことでした・・・。


駐在所でチャーリーからの連絡を待つ僕たち。

「あ。そう言えば、今年の夏休みは美奈子さん、来られないんですかね？」
井上くんのために聴いてみました。

「ん。来ると思うが・・・。あ、そうか。井上、好きなんだっけなぁ。美奈子ちゃんのこと」。
「ええ・・・。うん・・・・まぁ・・・・」。

「こればっかはなぁ。どうしようもないからな」。
「そうですね・・・」。

おそらく来るという情報だけでも、グレート井上くんは喜ぶことでしょう。
でもやっぱりかなわない。

「お前はどうなんだ？ママチャリ」。

「え？ぼ、僕？」

「ほら。こないだの子。あれ、恋仲だろ～～～～～～」

妙ににやけています。なにがうれしいんでしょう？

「あ。うん。うまくいってますよ。駐在さんのおかげだ」。

すると駐在さん。
「そっかぁ。よかったなぁ。あんまり女泣かすなよな。ママチャリ」。

それは不思議な・・・。
まるで兄のような表情で。
僕はその顔をまともに見ることができませんでした。
妙に照れくさくて・・・。
照れくさくて・・・。

昼下がりをすぎ。少し涼しい風が吹き込む駐在所。
時おり鳴る風鈴の音が、夏をつれてきていました。

去年の今頃、僕たちはここで。奥さんの袖口から見えるブラにドキドキしてた・・・。

あれから・・・1年・・・・。

僕はこの時初めて。駐在さんとお別れする日のことを、ふと、考えていました。

　いつまでも。ここにいるわけじゃないんだな・・・。
　駐在さんも。
　・・・・・。

妙な感傷を業務用無線の音がやぶりました。

対応にあたる駐在さん。
「はぁ？」
おおまかな話は聴こえますが内容までは聴き取れません。
「白バイぃ？」
「了解ぃ～。現場に向かってみます」。

白バイ？


「あのなぁ。ママチャリ」。
とたんに不機嫌な駐在さん。

「なんかな。今、本署から緊急連絡あってな」。
「ええ。今の、ですよね？」

「110番に白バイ壊したの持って来いって、連絡あったんだそーだ！」

「ええええええええ？」

「オペレーターを奥さん奥さんって言ってたって、これ麻生だなっ！間違いなくっ！」

げ・・・・。
チャーリー・・・・、また110番にかけたのか・・・・よりによって・・・・。

「不信な電話だったから現場調査行ってくれってよっ！」

白バイ壊したのって・・・。
警察本署に電話したわけ？
また110番で・・・・。
しかもオペレーターを奥さんって・・・。
チャーリーってば・・・・・・。

「まぁ、幸い意味わかんかったらしいがな」。

「あ・・・そうでしたか・・・・」。

そりゃそうでしょうね。

「やっぱバカだなっ。おまえらっ！」

う・・・・。
そこを言われると痛い。


僕は電話を借りてチャーリーと連絡をとりました。

「あのぉ～～～。五十嵐さん。とりあえずチャーリーの工場まで持って来てくださいって・・・」。
110番連絡の通り・・・。

「最初、もどんなきゃいけないでしょ？本署。応急処置するって言ってます」。

部品交換を夜中やるにしても、白バイ部隊は午後5時までには帰署しなくてはなりませんでした。
夏のことですので、まだまだ明るい時間。そこでバレてしまっては元も子もないからです。

「わかった。ありがとな。ママチャリ」。

「ただ、あの～～裏からまわってもらえます？念のため」。

「念のため？」

「他にもパトカー集まってるかも知れませんので・・・チャーリーの工場・・・」。

なにしろ110番通報ですから・・・・。


こうして全員がチャーリーの工場へ集合。

幸い、と言うか、駐在さんと五十嵐さん以外の警察官は来ている雰囲気はなく、チャーリーとお兄さんがそこに待機していました。

事情を知らないチャーリーのお兄さん。
「あ～～～。ずいぶんいってますね～。750重いからな～。」。
「ええ。まぁ」。

「転んだんですか？」

「違いますっ！」

とりあえずちょっと曲がったガード部分を直し、あちこち細かい修正をかけると、まぁまぁ見れる白バイになりました。
さすがプロ！
割れた部品は透明ボンド。痛んだ部分を、西条くんが音楽部から持ってきたポリッシュで磨くと、まぁ、新車らしい白バイです。
それでも今日おろした新車、というのには、ちょっと無理がありましたが。

五十嵐さんは、お兄さんに深々とお礼をすると、本署へと戻って行きました。

あとは・・・。暗くなるのを待つばかり。


やがて駐在さんも戻られると、僕たちにはもうひとつの作戦会議を開始しました。
そうです。
本署から「ブルーフィルム」をお借りしてくることです。

「西条。入れ替え用フィルム、見せてみろ」。

「おお。これだ。保健室の持ってきた」。

「保健室？そんなのあんの？」

「ああ。化学室にもあるが、なんかこっちが内容ピッタシなんだよ」。
「へぇ～～～～～」。

本署のブルーフィルムを借りている間、中身を入れ替えておこう、という、いわばダミー。

西条くんの持って来たフィルムはというと

『受精と排卵』

おおおおおおお。
みんながどよめきます。

『成長期における身体の変化』

おおおおおおお。

なんかこれでもいいんじゃないか？と思えるほど。

そして最後が
『カモノハシの生態』

ぉお？

「なんだこれ？」
「さぁ～～～～。よくわかんない」。

かものはし？
なんで保健室に？

ま。いいか。中身だけ入れ替えだから。

「それで千葉。交通指導用フィルムに混じって置いてあるってのは間違いないんだな？」
「ああ。間違いない」。

なにしろ千葉くんの兄は本署勤務の警察官。
これ以上確実な情報源はありません。

「そっか。そうするとなんか区別つけるためにマークつけてるはずだよな」。

「うん。そりゃそうだろうな」。

千葉くんはそう言うと、簡単な本署の見取り図を書きました。
「ここいらがライブラリーなんだ。鍵はかかってないと思う」。

「うんうん」。

「そうすると白バイの駐輪場からは裏の扉から入ればいいか」。

綿密な打ち合わせ。すっかり泥棒集団そのものです。


そして夜。緊張の本番。
僕たちはつなぎに着替え、警察本署の職員駐車場に身をひそめ、五十嵐さんが署から出て来るのを待ちました。
のっぽさん部隊からはチャーリーほかメカ組3名。
実行部隊からは僕と千葉くん、そして責任を感じた河野会長。

さらに

なぜか一緒に身をひそめている駐在さん。
「なんだって俺がお前らの見張りなんか・・・」。

「え？だって駐在さん。警察官だもん。一番疑われないじゃないですか」。

「まさか本署に泥棒来るとはな～～～～。思いもよらなかった」。

不満たらたらの駐在さんでしたが

時おり本署の勤務を終えた人たちが出て来ると

「やべっ！サツだっ！」

サツって・・・。自分も警察官なのに・・・。
どうやら職務を忘れ、すっかり昔の自分をとりもどしているようです。

「ああ。あいつ2課の内山だ。やなやつでな～～～～」。
駐在さん。職員が出て来るたびにご説明。

「上司かなんかなんですか？」

へ～。駐在さんでも上司の悪口言うんだ？
と、思ったら

「いや。昔俺を捕まえた」。

捕まったのかよ・・・・。


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