ぼくたちと駐在さんの700日戦争

＜ドレミ真理ちゃん=当時のアイドル天地真理さんをモチーフにしたブリヂストン製こども自転車＞

するとジェミー。
「あ。先輩。今のはドレミアグネス*です～～～～」。

「どっちでもいいけどよっ！」

＜ドレミアグネス=同じくアグネスチャンをモチーフにしたブリヂストン製こども自転車＞

「違います。ドレミ真理ちゃんはピンクなんですぅ！」
ジェミー。こだわりがあるようです。

確かに。車の横をすいすいと補助輪付きの自転車にのった女の子たちが抜いていきます。

「ランサーって最高速度10kmくらいなのか？」

「う、うるせーーー！話しかけるなっ！」

出ました。「話しかけるな」。
これが出るといかにやばい状況か、僕はよ～く知っていました。

河野くん。硬直してハンドルを握ったまま
「あ！クランクだっ！」

いや。河野。そこは普通のT字路だってば。
大難関の右折でしたが、
河野くん。T字路を見つけた100mくらい手前からウィンカーつけっぱなし。
速度も遅いのでかれこれ1分ちかくウィンカーが出ています。
意思表示はじゅうぶんすぎるほど。

やがてランサーは、ほとんど速度を変えずに交差点突入。
安全かに思えましたが、なにしろ抜け出すまでが長い！対向車が来ましたが、これをまったく無視。
まるで巨人軍の凱旋パレードのようにして交差点を抜けて行きます。

河野ランサー。後続車に多大な迷惑をかけながらも、ようやく右側に駐在所が見えてまいりました。

「ん？五十嵐さん来てるのかな？」
「あ。ほんとだ。白バイあるな」。

ん？

徐々に徐々に近くなる駐在所。ほんとに徐々に。

すると
「いや。五十嵐さんじゃないや」。
「ほんとだ。あの白バイ、白い」。
そうです。五十嵐さんの白バイは、チャーリーのおかげでほのかにピンクバイ。
それは一見してわかりました。

誰だろう？

まぁ。交通機動隊には他にも隊員はたくさんいらっしゃるわけですが。

やがてランサーは駐在所へと入っていきます。
以前、美奈子さんはデジタル突っ込みで、駐在所の扉を破壊しましたが、まぁ、このランサーの速度なら心配いりません。
なにしろ止まらなくても車から降りられるくらいです。

トロトロと駐在所の前に入っていくランサー。

「うわぁ。これCB750FOUR*じゃん」。
＜CB750FOUR=CB750の後継機。五十嵐さんのピンクバイはCB750＞

「ほんとだ。ピッカピカだぁ」。

その白バイはキラキラと輝いていました。
なにしろ速度が遅いので、開けた窓越し、じゅうぶんに観賞できます。

が

　ゴ・・・・・

左前から鈍い音がしました。

「ん？」
「なんか当たった？」

「ええええええ？」
河野くんが青ざめますが、なにに当たったかわかりませんでした。

しかしすぐに

ピッカピカの白バイが、前方に奇麗な弧を描いて、ゆっくりと。ゆっくりと傾いていきます。

　グシャッ！

「げっ！」
「た、倒れたっ！」

「やべ～～～～～～～」。

と、駐在所の中から飛び出して来たのは

　五十嵐さん？

　なんで？

「ああああああああああああ！」

　あれぇ？
　まさか・・・・

「ほほ、本官の新車がぁぁぁぁぁぁぁ！」

大慌てで白バイをおこしにかかる五十嵐さん。

と、車の真ん前には駐在さん。
鬼瓦のような顔をして立っています。

　うそ・・・でしょ？

と、河野会長！慌てて車を飛び降り、五十嵐さんの元へ！

と、思ったら
「あ～～～～。またバンパ～～～～～～」。

「新車なのに」

と、さらに凹んだバンパーをなでています。

バンパーの問題じゃなさそうだぞ・・・。河野。

僕もあわてて車をおります。

間髪おかずに五十嵐さん。
「またお前らかぁぁぁぁぁっ！」

お怒り。ごもっとも。
ごもっともですが、今回は故意ではありません。
というか、運転してたのは河野会長ひとり。

「いえ・・・あの・・・・」。
言葉につまる僕。

駐在さん。
「河野ぉ。お前ぇ！」

しかし河野くん。
「だいじょぶです。だいじょぶです。こういう時は慌てちゃダメなんです」

「？」

「えっと。教習所で習いましたから。まず、こういう時はですね。こういう時はえっと・・・」。

ちょっと考え込むと

「あ。そうだ！警察！まず警察に連絡しなきゃ！」

いや。河野会長・・・

「ここが警察だっ！」。
駐在さん。正しい！すごく！

しかもぶつけたの白バイ。

駐在さん。不敵な笑みを浮かべながら
「よしよし。河野。今、事故処理してやるからな！」

「あ・・・。はい・・・。おねがい・・・できます？」

五十嵐さんは、というと、まだピカピカの白バイを撫でながら嘆いていました・・・。
お気の毒に・・・・。


あまり風も入って来ない駐在所に、合わせて6人。
ただでさえ暑苦しいのに野郎ばっか。

気まずい雰囲気のさなかで僕が切り出しました。
「すいませんでした。五十嵐さん。でもピンクバイじゃないんですね？」

「新しいの・・・支給されたんだよ！前のはキャブの調子悪いんで予備車になった」。

「へ、へぇ～～～～。キャ、キャブの調子がぁ～～～～」。

そうか・・・致命傷になったか・・・。

「新しく・・支給されたばかりなのに・・・隊長になんて言おう・・・・」。

「五十嵐さん。そんなオーバーな。ちょっとミラーとウィンカーと、ハンドルとガードとタンクの一部と・・・」

「言うなっ！」

「すいません・・・」。

「すぐバイク屋持ってって直しましょう！」

すると駐在さん。
「ママチャリ。白バイの部品なんてあると思ってんのか？ただでさえCB750だぞ？」

「あ・・・・」。

そうです。750は乗っている人も少なく、それも白バイとなれば話はまったく別物でした。

「白バイはなぁ。ハンドルも特殊なんだ。だから部品取り寄せも特殊なんだ」。

「まいったなぁ・・・・」。
すっかり弱り切っている五十嵐さん。

河野会長もさすがに反省して
「あの。保険入ってますんで。それで・・・・」。

と言いましたが、駐在さんが
「それがなぁ・・・。そうもいかん」。

「え？なんで？」

すると五十嵐さんが重い口調で事情を話し始めました。

「え～～～～！き、勤務コース外を走ってたぁ？」

「ああ・・・そうなんだ・・・」。

五十嵐さんの話だと、白バイ部隊は、あらかじめパトロールコースを報告してから出動するのだそうで、そこから著しくはずれる場合には本部に連絡が必要なのだそうです。

「今日は・・・Y市バイパス付近って書いてきちゃったんだよねぇ」。

「Y市ってこっから1時間近くあるじゃないですか！」

「そうなんだ・・・・」。

「追跡って距離でもないですね」。

「いや。追尾も報告必要だから・・・・」。

「それがなんだってこの町に」。

と、孝昭くん。

「あ！ひょっとして姉ちゃんとこにっ!?」

五十嵐さん。黙っています。

「やっぱり～～～～～!!!」

ようやく
「だってほら。新しい白バイ、早苗さんに見せたかったんだもん」。

「ええええええええええ！」

「何考えてんですか！勤務中に！」
「すまん・・・」。

「そういうヨコシマなこと考えるからでしょ？」
「すまん・・・」。

「だからぶつけられるんだって！」
「すま・・・んん？」

河野。お前は言っちゃダメだって。


「弱りましたねぇ。事故報告できないし」。

「ああ・・・顛末書だな・・・こりゃぁ・・・・」。

すっかりしょげてる五十嵐さんを見て僕。
「五十嵐さん。じゃ、直しましょう！白バイ」

「え？だから部品ないのがあるって。ま、ウィンカーとかは用意されてるけど。ガードとタンクはなぁ・・・」。

「白バイ、新しく支給されたのって1台だけなんですか？」

「ん。僕のを合わせて4台」。

「じゃ、そいつからバラバラにとっかえちゃいましょう！」

「えええええええ!?」

「部品一個ずつならわかりませんよ」。

「えっ！」

「それしかありませんよ。取り寄せ部品来たら、また取り替えればいいんだし」。

「お前。ほんっと末恐ろしいやっちゃなぁー」。

「いえ。僕は別に・・・。ただ、五十嵐さんを思って・・・」。

「う～～～～ん」。

悩みまくる五十嵐さん。
駐在さんはいつの間にか外に出ていました。なにしろ良からぬ相談。知らぬ存ぜぬじゃないとまずいのでしょう。

五十嵐さん、悩み抜いた末に
「でも白バイ、バラせるかなぁ・・・・」。

これに対して孝昭くん。
「チャーリーなら組み立てできるぜ」。

「え？ほんとか？」

「ああ。できるできる。間違いなく。メカ強いもん。家、修理屋だし」。

「あ。そうか、こないだもエンジン、バラしてたもんなぁ。すごいよな」。
五十嵐さん。急に表情が明るくなりました。

図に乗る孝昭くん。
「そうそう。チャーリー、キャブレターも交換しちゃうくらいだからさっ！」

「え・・・・？」

孝昭・・・。それ言っちゃダメだろーーー。



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