ぼくたちと駐在さんの700日戦争

僕の前でおじけづいた様子の坂本くん。
僕よりは少し背の高い坂本くんが、萎縮しているのは、それはそれで奇妙なものでした。

「坂本。お前、家に帰ってないってほんとか？」

「・・・・」。

「答えろよ。助けろって頼んだのはお前だろ？」

すると坂本くん。ようやく
「もう・・・やなんです。あんな家」。

吐き捨てるように言いました。

「ん。なんとなくわかるけど、そうもいかないだろ？高校生だし」。

「先輩にはわかりませんよ！毎日毎日あやしい男が玄関前にたむろしてるんです！母はそんな中で意味もわかんないお祈りするばかりだし・・・。おやじなんか・・・」。

坂本くんが大声を出したため、みんなもこの会話に気づいてしまいました。

「そ・・・か。ところで坂本」。

「はい」。

「お前。小屋に誰か連れ込んでないか？」

「・・・！」

坂本くん。絶句しました。

　やはり・・・・。

僕は入口に重ねられた食器が、あまりに奇麗に、丁寧に重ねられていることに気づいたのです。
それは男性の手によるものではありません。
どんな几帳面な男でも、食事後はおろそかになるものです。つまり、食べていない人がかたづけた。それしか考えられませんでした。

僕たちはグループ全体とすれば異性関係に寛大でした。
しかし学校は違います。もしこんなところに学校の女子生徒を連れ込んだということがわかれば、当然「不純異性交遊」のレッテルが貼られ、ただではすみません。

これは耳を澄ませていた仲間にも当然、聴こえ、そして案の定

「なな、なんだとぉ～～～～！坂本～～～！」
「お、おんな連れ込んだだとぉ～～～～？」
「て、て、てめぇーーーーー！」

当然の騒ぎです。
上級生としては、黙っているわけにはいかない事態なのです。

まず孝昭。

「な、なんてうらやましい～～～～～」。

ちがうだろ・・・。

つぎ西条。
「くそ～～～。ゲロ残しておくんだった」。

それもちがう・・・。

「あ。マッシュルームならまだ出せるかな？」

人間ポンプか？

久保。
「あ～～～。俺も残しておくんだった」。

なにを？
なにをだ？

「マッシュルームなら出せるかな？」。

出すなっ！
っつーか、想像させるなっ！
どっから出すんだ！マッシュルーム！
っていうか、確認できたのか？

「あ～～～～気分わり～～～～～」。

「いや。後輩に彼女いるからって気分悪いはねぇだろ？」
「そうだそうだ。なんてぇやつだ」。
「下品なやつ」。

「ちがうわっ！」

お前らのせいだ！お前らの「マッシュルーム」再利用の結果だよ！
こいつらと話してると気が狂う・・・。

予想外に、誰もそれを注意するでもなく、関心ごとはというと

「そいで坂本ぉ。誰？誰？」

僕たちには報告義務がありましたから、これは後輩の坂本くんにも適用されます。

「き・・・きよみさん・・・・」。

「き、きよみ～～～～～？」
「うそだろ～～～～？」
「しんじらんね～～～～！」

大騒ぎ。

が、

「で。きよみって誰？」

これだ。
とりあえず騒いでみただけのようです。

「あの・・・。先輩のクラスの・・・・・」。

「え！僕のクラス？」

「き、きよみ～～～～～？」
「うそだろ～～～～？」
「しんじらんね～～～～！」

まんまリフレインか。こいつら。
まったく能がない。ま。知ってましたけどね。

そこへチャーリー。
「あのな。それ俺もいるときだから。余計な心配すんな」。

「え？そうなのか？」
と、僕。

「それよりゲロはかけたのか？」
と、西条。

「それより・・・」
「久保。お前はしゃべるな」。

「なんで!?」

この期に及んで聴くか？

チャーリーが、普段とはまったく違う、落ち着いた口調で言いました。
「とにかく騒ぐなよ。坂本は清美とつきあってんだ。それだけのことだ」。

「へぇ～～～～」。
「すげ～～～。姐さん女房じゃん」。
「孝昭のとこは姐さん横暴」。
「てめっ！」

また小競り合い。忙しい。


僕はわかりました。
やはり坂本くんのことを一番心配しているのは、チャーリーなのだ、ということ。
そしてそこには、やはり渉くんの影が重なっていることも。

「ま。チャーリーがついているなら安心だな」。
「というか安全だな」。
「うん。すっげぇ安全だ」。
「必要以上に安全だ」。
「というか必要なときに安全だ」。
「わははは」。

「待てぇぇぇぇぇ！最後！聞き逃せねーぞっ！」

この日初めて冷静さを失ったチャーリーでした。


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