ぼくたちと駐在さんの700日戦争

←12章-第50話へ　12章-第52話へ→
人気ブログランキングへ　　ブログ村ランキングへ

---

＜おことわり＞本日3話連続アップのシリアスモード。笑えるところはありません。
←第50話からどうぞ

夜布団に入ると、動かない分だけ妄想がひどくなりました。

　眠れない・・・。
　まいった・・・。

僕は何度も首をふりながら、どうにか寝ようとしますが、目をつむるたびに、チャーリーの小屋が浮かびます。

　かんべんしてくれ・・・。

そうだ。なにかバカバカしい漫画でも読めば・・・。

　少年チャンピオン・・・？

しかし、なにを手にするのも無駄でした。

結局、窓際が明るくなり、鳥が鳴き始める頃まで、僕は意識をもてあましていました。

朝のテレビは、長引く梅雨を伝えていて、各地の被害状況なども映し出されましたが、僕にとって最大の問題は和美ちゃん。
なにも変わりません。

このため、僕は学校でも、和美ちゃんはおろか、チャーリーに会うのも避けました。
初めてのことです。

　なにやってんだ？

なにごともそうですが、意識している時と意識していない時では、万事が違います。


そしてその日の放課後。

僕が渉くんの話題を避けたため、坂本くんのことも座礁しました。
その日はアジト教室にも行くのをやめました。

重い曇り空の下、運動部のかけ声のひびく体育館横。

後ろから女子生徒の声が聴こえました。

　「今よ！行きなさいよ！」
　「え・・。押さないでってば。祥子ったら」。

人数なら、3、4人。

そのうちの一人の声に聞き覚えがあります。

「ほら！行け！ユウコ！」

　夕子ちゃん？

そうです。冷やかされていた声の主は、夕子ちゃんでした。

「先輩・・・」。

「あ・・・。夕子ちゃん」

この会話を見守るように、さっきまではやし立てていた子たちが、遠巻きに、小さく手をふりながら追い越していきます。

　ゆうこ！がんばって！

まぁ。そんな合図なのでしょう。
手をふりかえす夕子ちゃん。

「あれ？夕子ちゃん、部活は？」

僕の質問に夕子ちゃん。
「え。もう終わりました。あとはレギュラーの人だけ」。

この言葉に、レギュラーである和美ちゃんがいる体育館を、僕は横目で見てしまいました。

そして窓には和美ちゃんが・・・・。

　こっち・・・見てる・・・・・。

僕は気づきました。
気づいたのに僕は。
というか、気づいたから、僕は。

「ん。夕子ちゃん、送ってこうか」。
「はい！」

　ああ。
　なんてことを・・・。
　しかも井上の妹を・・・。
　僕は・・・。

　最低だ！

僕のまわりで、いろいろなものがガラガラと音をたてて崩れていきます。
僕は、ここでグレート井上くんが偶然やってきて、僕を殴りつけてくれないかと期待しました。
それなら冗談で終わる。
きっと。きっと。

しかし、願いは空を切りました。

僕は夕子ちゃんと、、傍目からはそれこそ兄妹以上の仲のように。
歩き始めていたのです。

やがて夕子ちゃんの口から
「先輩、今・・・・和美先輩と・・・おつきあいされてるんですよね？」

「え・・・。誰か言ってた？」
「はい・・・。兄が」。

「そ・・・か」。

そりゃぁそうだ。
なのに僕は

「でも。終わりそうだ」。

そうなんだ。僕はいつもこういう言い方をする。
白も黒もわからないうちに。


その日も、家には和美ちゃんから電話が入っていて、そしてまた僕は無視しました。

すでに渉くんのことに触れたくなかったのです。

にもかかわらず、夜はあいかわらず眠りにつけず、やはり窓際が明るくなる頃、ようやく意識をなくすことができました。


3日と待たず、1年生の間では、僕と夕子ちゃんの噂がたちました。
なにしろアイドル夕子ちゃん。彼女の動向は、男子生徒ばかりの関心ごとではなかったのです。
それは夕子ちゃんの友達たちの作戦であったのかも知れません。
おそらくグレート井上くんの耳にも入ったはずですが、不思議なことに、彼はこのことに苦言を言いに来ませんでした。

すでに僕の頭の中はぐちゃぐちゃでした。

渉くんのこと。チャーリーのこと。坂本くんのこと。虹色家族。
夕子ちゃんのこと。
そして、和美ちゃんのこと。

　なにを、どうしたらいい？

自問自答は無駄でした。すでに3日もの間、同じことを考え続けて
そしてひとつとして答えが出ていません。

その日、あろうことか僕はまた夕子ちゃんを送って行きました。
グレート井上家の手前、ドーベルマン・サチコに察知される前で別れ、家路を自転車で飛ばしていました。

後ろから大声。
「よーーーー！」

「あ？千葉」

となりにおいつき、自転車を並走させる千葉くん。
「あれぇ？今日も帰宅かぁ？チャーリーのとこ行かないのか？」

「あ・・・うん。坂道、きついからな」。

嘘だ。僕はあそこを見たくないだけだ・・・。

「ははは。山道だからなぁ。前の道、通れればなぁ」。

「前の道？」

「え？あん時言ったろ？前はもう1本道あったんだよ。崩れる危険性があるとかで封鎖されたんだ」。

そうだ。あの時、千葉はもう1本道があるって・・・。
確かにそう言ってた。

「うそ！それ、いつのことだ？」

「さぁ。中3までは通れたけどなぁ。あっちほうがずっと楽だったのに」。

そうだったのか・・・。
和美ちゃん、嘘言ってなかったんだ・・・。

「わりぃ。千葉、僕、忘れ物したから学校もどるわ」。

「え？今からか？明日じゃダメなのか？」

ああ。明日じゃだめだ。
今日でなくっちゃ。

　ごめん。僕が悪かった。和美。

もどかしく自転車をとばす僕。


ようやく学校が見えて、最後の上り坂。

あそこまで行けば、和美にあやまることができる。
あと少し。

なのに僕は。
見てならないものを見てしまいました。

それは和美ちゃんと。
その隣りを親しげに歩く男子生徒。

「まさし・・・・・」。

まさしは、男子バレーボール副キャプテンで、1年の時の同級生。
僕は自転車を止めました。

「あれぇ？お前、いまから学校かぁ？あははは。すっげー遅刻だぜ」。
なにも事情を知らないまさしがふざけます。

「いや・・・」。

僕はそれしか言葉が出ませんでした。

和美ちゃんは、僕の姿によほど驚いたのか、すでに身じろぎさえできないみたいです。

「あ！わかった！」

「なにが？」

「井上の妹ならとっくに帰ったぞ～」。

続けてまさし。

「あ。腹へったな。和美ぃ、なんか喰ってこうぜ」。

「え・・・。あたしは・・・・」。

「え～～～～。オレ、家までもたねぇよ。こないだの礼におごっからよ」。

「え・・・う、うん・・・」。


あ・・・・。



今。終わった・・・・。




　　　　12章-第52話へつづく→



人気ブログランキング

関連記事

• 12章-第52話 白詰草(2)
• 12章-第51話 白詰草(1)
• 12章-第50話 白と黒(5)