ぼくたちと駐在さんの700日戦争

「せんぱいたちって～～～。どこまでいってんですか～～～？」

目前でケーキをほおばりながらしゃべりまくる瑞穂ちゃんを見ていて、僕は

「もどれ！ミクラス！」

一応言ってみましたが

「？」

やっぱりダメか・・・・。

そりゃそうだな。
地球人には無理な相談です。
もどったらそれはそれでビックリだし。






「Aとかいっちゃってますよね～～～～」

Aとは言うまでもなくキスのこと。
僕は、あろうことか、先日和美ちゃんとキスした瞬間を思い出し、ここで答えにつまってしまいました。

「あ～～～～答えにつまるとこみると～～～～」

それにしてもこいつの質問はいっつもこれだな。

「い、いいから口のまわりについたクリームなんとかしろよっ！」

「あ！先輩。食べてもいいんですよ～～～、ン～～～～～～」。

唇を突き出して来ます。

もどれ～～～！もどるんだ～～～～！ミクラス～～～～！


「それにしても和美遅いな。遅練か？」

「ほんとですね～～～。もう終わっていいころだけどな～～」。

「ねぇ。確認したいんだけど。ちゃんと伝えた？」

「え！伝えましたよ～～～」。

「なんて？」

「ポプラにいますって」。

「誰が？」

「あたしたち」。

「あたしたち？」

「はい」。

「それだけ？」

「それだけ」。

「その”あたしたち”って具体的に言った？」

「そんなコマイこと覚えてませんよ～～～～」。

ば、ばっかやろ～～～～～～～。

あわててカウンターに走ると僕。
「よ、洋次！モンキー、貸してくれ！」
「あ？うん。いいけど」。

後方から瑞穂。
「あれ～～～。先輩～。ケーキどうするんですか～～～」。
「お前、残り喰っとけ！」
「いいんですか～～～～？」
「ああ」。
「いただきま～～～～す」。

何個目だ？あいつ。


当時、原付はヘルメットが義務化されていませんでした。
50ccであったモンキーは、まさに自転車のようにして乗り回すことができたのです。

くそ～～～～。ミクラスが～～～～～～。
ウルトラセブンもなかなかカプセルから出さないわけだ。

学校はすでにもぬけの殻でした。
急遽コースを変更して、和美ちゃんの下宿している叔母さんの家へ。

とは言え、僕は和美ちゃんの伯母さんの家を正確に知っている訳ではありませんでした。
ただ、以前、お欄さんに車で送られるとき、彼女が従兄弟の和史兄ちゃんと歩いていた道だけが記憶にありました。
いやな記憶でした。
それは僕の勝手な嫉妬で、和美ちゃんを責めた苦い思い出です。

　たしかこの通り・・・。

そして・・・

　いた！

僕は反対車線側にいた和美ちゃんの方に、そのまま原付で突進していきました。
対向車が驚いて、すさまじいクラクションを鳴らし、これに和美ちゃんが驚きました。

「か、和美・・・」。

「あら。どうしたの？」

「う、うん・・。ちょっといいか？」

僕はモンキーをひいて、すぐ側にあった小さな神社に入りました。

「ちょっと聴きたいことがあって」。

「うん。なぁに？」

「渉くんってさ。覚えてる？」

「え？中学の？」

「そう」。

「うん・・・。覚えてるけど・・・・」。

和美ちゃんは、少し顔を曇らせました。
僕はこの時、和美ちゃんが渉くんのなにかを知っていることを直感しました。

「彼、3年のとき、突然引っ越したろ？」

「うん・・・」。

「和美、行き先知らないかと思って」。

「・・・・どうして？」

「いや。渉くん、その、君のことが好きだったらしいから」。

「そう・・・・」。

和美ちゃんは、この言葉にあまり驚きませんでした。
やっぱり。なにか知ってる。

「なんで今頃？」

「チャーリーがね。渉くんちは一家心中したって。そう信じこんでるんだ」。

「一家心中？」

「うん。でもね。井上がそれはおかしいって。それで行方を探してる」。


和美ちゃん、しばらく黙り込むと

「あのね」。

ようやく重い口を開き
「怒らないで聴いてくれる？」

そう前置きしました。

「え？ああ」。

たいていこの約束は守れないわけですが、当時、僕は和美ちゃんとは無関係。
さすがに怒ることはないはず。

「渉くん引っ越す前にね。会いたいって」。

「そっか」。

やっぱり・・・。

僕はこの言葉にはさほどに反応しませんでした。
なにしろ僕はその頃、和美ちゃんを好きじゃないばかりか、迷惑とさえ思っていた頃だからです。

が

「それでね。いいよって言ったのね。最後って言うもんだから」。

「ああ」。

「それで・・・・」。

僕が冷静だったのはここまででした。



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