ぼくたちと駐在さんの700日戦争

＜おことわり＞本日リクエストにお応えしてラブロマンスに挑戦！笑えまへん。

坂本くんの家は、家業で水道工事をやっていて、ジェミーといい勝負の「羽振りのいい」高校生でした。
彼がのっぽさん部隊に入ったのは、ジェミーの友人ということが一番でしたが、なにより高校生なのに「溶接」ができたのです。溶接機は当時、非常に高価で、子供のこづかいでどうこうなるものではありませんでした。
いわば、のっぽさん部隊でも「大道具係」です。

チャーリーは、渉くんがいなくなったこともあり、坂本くんをことのほか可愛がっていました。
今回もスティングレイのボディは、坂本くんが作ることになっていました。

坂本くんは事の子細を語ろうとしましたが、グレート井上くんがいない、ということで、翌日のアジト教室に持ち越すことになりました。
こういうことでは、グレート井上くんの頭脳は、絶対的なのです。

その代わりに持ち上がった話題が

　キャンプ

そうそう。ブートキャンプじゃありませんよ？キャンプ。

「ここキャンプにいいよな」。
「ああ。でも水ないな」。

「あ。すぐそこに沢があるよ」。
と、チャーリー。

「じゃ、できるじゃん！」
「やろやろ！」

「でも、ここオバケ出そうにないな」。

そうです。
僕たちのキャンプの目的は、今までは必ず「心霊研究」。
いわゆる怪奇現象の名所でばかりキャンプしていました。

「ん。たまにいいだろ。そうだ！女子、誘おうぜ！オバケ出ないし」。
「ああ。そうだそうだ。女子誘ってくれよ。和美ぃ」。

「え？女子を？う～～～ん。みんななんて言うかな・・・」。

「そこにほら。トイレもあるしさ」。

「さっき見たけど使えそうになかったけど・・・」。

「あ。掃除しとく！俺ら得意なんだ。ボランティアで駅のもやってる」。

「えー！そうなの？偉いのね。西条くんたち」。

偉いんじゃなくって、駐在さんに強制的にやらされたんですけどね。しかも3人乗りの罰。

「うん。それいいよ。女子さそってくれ！」

「そうねぇ・・・・」

「今回は、特別、女子のテントに村山と井上つけるからさ！」

「あ・・・。殺到かも・・・・」。

「なんだったらこいつも！」

西条くん。僕をさしますが

「これはダメ」。

これ？

いっせいに口笛をならす野郎ども。


「なぁ、いいだろ？和美ぃ。テントは準備すっからさ」
「村山井上付きだし！」
「そそ。トイレもついてるし！」
「マムシもいるし！」

「マムシは・・・いなくていいよ・・・・」。

しかしちゃくちゃくと「スティングレイ・キャンプ」の企画はできあがり、女子の返答で期日を決めることになりました。


メンバー全員が、エンジンテストにつき合う、ということになったので、僕と和美ちゃんは一足先に山を下りる事にしました。
なんといっても和美だけは女性ですので、トイレも心配です。
いや。マムシに噛まれるか以前に。

「じゃぁなー」。

「ああ。気ぃつけてな～～～」。
「そのへんで密林につれこむなよ～～～」。
「マムシ出るぞ～～～～」
「噛まれたら知らせろよ～～～」。
「オレ右太もも～～～～～～」。
「俺乳首～～～～～～」

絶対知らせるもんか！
だいたいどうやって乳首噛まれるんだ？


帰りは下り坂なので、和美ちゃんも自転車です。

山を下りると言っても、距離は200mほど。
下り切った所で、自転車を止めた和美ちゃん。

「せせらぎが聴こえるわね。川、あるのかな」

「うん。チャーリーの話だと山には沢があるって言ってたから。その支流かな」。

「このあたりって奇麗なのね。町にこんなとこあるなんて知らなかった」。

「ああ。僕は中学の時はけっこう来てたけど」。

僕と和美ちゃんは、どちらが言うともなしに、せせらぎの方へ向かって歩いていました。
僕たちのデートには、たいてい僕の仲間がいたので、2人きりは本当にひさしぶりです。
人気のない方向に向かうのは、正直なところ、胸がドキドキしていました。
それは和美ちゃんも同じだったかも知れません。

「ねぇ」。
僕の隣り。いつも先に声をかけるのは和美ちゃんです。

「ん？」

「さっきの坂本くんの話ね」

「ああ」。

「あたし。もう、君に危ないことしてほしくないな・・・」。

「ん・・・」。

やがて小さな小川の土手。
となりあって腰掛ける2人。

僕の右腕には和美ちゃんの半袖から出た腕がふれています。
そのぬくもりのせつなさ。

「あたしね。この前の暴走族の時も気が気じゃなかったんだから」。

「ああ・・・。うん」。

「宗教団体なんて・・。普通ケンカしないから。高校生」。

「はは・・。そうだね」。

僕は喉が渇いていくのを感じていました。
それでも生唾を飲みたくなるのを必死にこらえ、それをごまかすためにポケットからキャンディーを取り出していました。
サクマのレモンミルク。大人気だった「サクマのイチゴミルク」の姉妹品で、僕はイチゴミルクより好きでした。

「でも・・・。またやっちゃうんだろうね・・・。君たちだから」。

「え？いや。それは・・・。西条次第だな」。
レモンミルクの包みを開けながら答える僕。

「ウソ。西条くんの返事、知ってるくせに」。

「え・・・・」。

「西条くんがノーって言わないの知ってて言って・・・」。

「うるさい口だな」。

僕は包みから出していたレモンミルクを、和美ちゃんの唇にあてました。

ちょっと驚いた表情をした和美ちゃん。
でも、彼女は唇をちょっとだけあけて。その間から少しだけ見えた舌が、それを受け入れていきました。
僕の人差し指が直接彼女の唇にふれます。

「・・・うん」。。

和美ちゃんがなににうなづいたのか。
僕にはわかりませんでした。
でも、唇に触れた指を意識したのか、耳のあたりまで桜色に染まっています。
いや。それは表現上のことで、実際はほんのりと赤く。上気したような。

「あ・・・」。

「どうしたの？」

「それ最後の1個だった」。

「あ。そうだったの？ゴメン・・・」。

「いや。いいよ。いいけど・・・・」。

「いいけど？」

「それ・・・返してくれる？」

「え？だってもう、お口の中に・・・・・・」。


　　だからいいんだ・・・。


「・・・・ん・・・・・・」。



　　　　12章-第36話へつづく→

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