ぼくたちと駐在さんの700日戦争

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「井上。なんだってそんなことを・・・」。

「うん。ひとつにはね。一般論なんだけど・・・」。
僕たちを前にグレート井上くん。

「僕たちが渉くんの転校を知ったのは中3になってからだ。この手紙もそうだろ？」

「うん」。

「一家心中ってさ。小学生ならともかく、父親よりも体力で勝っている高校生くらいを道連れって、普通できないよね」。

「あ・・・確かに・・・」。

「それにお金を取る側にしても、中卒であれ高卒であれ、渉くんはすぐに金を産む”金の卵”だ。それをそこまで追いつめるかな？」

「・・・・・・」。

「それにね。転校生の情報って後からも入って来るもんだ。特に悪いことはね」。

「まぁ・・・。そうかな」。

「例えは悪いけど”悪事千里を走る”ってね。英語でも"ILL NEWS TRAVELS FAST"ってあるくらいだ。転校した斉藤。覚えてるだろ？」

「ああ。斉藤ね。1年のときの。西条の弱いバージョンな」。
「孝昭の強いバージョンだろ？」
「なんで俺がてめーより下になってんだよ！」
「はぁ？あたりまえだろ？」
「やんのかぁ！くらぁ！」
「おお！はっきりしてやるっ！」

　「やめいっ！」

「そ。あの斉藤が転校先で、先生を殴ったことさえ、あとから僕たちの耳に入って来た」。
「ああ・・・確かに。それはそうだけど・・・」。

「渉くんのことは、あれから一切聴いたことがない。心中とまでなれば、少なくとも僕には入ってきてもよさそうなものだ。仮にも3年間、同級生だったからな。渉くんは」。

そうです。グレート井上家は町の有力者。近隣でおきることのたいていの「悪いニュース」は押さえていました。


「そしてこの手紙だ」。

ようやく本論にふれるようにグレート井上くんが大きく深呼吸しました。

「この手紙には”あの小屋にいた”って書いてある。つまり文章はここで書いたんじゃない」。

「ああ。言われてみれば」。

「でも、渉くんはチャーリーに居場所を伝えてる」。

「はぁ？どこにも書いてないぞ」。
「うん。書いてなかった」。
「うん。ない」。

「そうだ。書けない事情があったんだろう。チャーリーのお父さんが保証人ならね。なにから借金取りに足つくかわかんないから」。

「そうだな。子供、口軽いしな」。
「ああ。中学くらいだとさらなり」。
「うん。チャーリーならさらなり」。
信用ありません。

「うん。明記はできない。そこでだ。森田。貯金箱、何番で開いた？」

「ん。だから751から順に押していって8番め。758だ」。

「うん。それ、750と間違えて押したんじゃないと思うんだ。確かにすごく慌ただしい状況ではあったんだろうけどね。夜逃げなんだから。それ、最後に押した番号がセットされるって言ってたよな？」

「ああ」。

「758 = なごや、ってことじゃないか？」

「あ・・・・・・・・」。

グレート井上くんの推理に、立ち上がるチャーリー。

「渉くんは手紙を入れてから、どうしてもチャーリーには場所を伝えたくなった。でも君のお父さんは保証人」。

「う、うん」。

「最後にお婆さんにこづかいをもらったって言うことは、渉くんの実家は近辺だ。そこに逃げ込むことはない」。

「うん・・・」。

「伯父さんが二人いたよね？戦友の」。

「東京のおじちゃんと・・・・名古屋の・・・・・」。

「ああ。お父さんたち、家族よりもっと濃いつきあいって言ったろ？頼って行ったんじゃないか？」

「そ・・・・そうか・・・・・・」。

「それで。その番号に託したんじゃないかな。チャーリーならわかるはずだろ？」。

僕たちはグレート井上くんの名推理に、またも感嘆させられていました。

「チャーリー。よく確認したほうがいい。特に、その名古屋の伯父さんのとこ」。

「あ。あ。あ」。
チャーリーもなにか思い当たるフシがあるのか、言葉をつまらせました。

やがて

「井上！」

チャーリーが叫びました。

「俺。お前と友達になってよかった！今初めて思ったよ！」


「・・はじめてかよ・・・・・小中高で・・・・」。

意外に薄かった友情に、ショックな表情を隠せないグレート井上くんなのでした。

それでも、グレート井上くんの推理が、チャーリーの心に灯をともしたことは確かなようです。

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翌日、僕たちは銀行に向かっていました。
そうです。スプリンクラー事件釈放の交換条件「親の定期」を積みに行くところです。

そこでチャーリー。すさまじく唐突なことを言い出しました。

「えーーー！金が足りないって～～～～～～～？」

「うん。だって殺人750、突然だったもん」。

「い、いくら足りないんだ？」

「えっとー。昨日みんなに返したろ～～？で、1万9000円残ってて、30,000円内金入れて来たから・・で。15万円だから」。

「うん」。

「あと9万9千円？」

「まんまじゃん！」

「違うよ。1000円はあったんだ」。

「変わんないって！嘘だろう～～～。今週末までだろ？残金」。

「そう。あと9日しかない。どうしよう？」

いや。1週間は10日じゃないぞ。チャーリー。

「またケンメリみたいに稼げないかな？」

「1週間で10万円んんん？」

「9万9000円・・・」。
「同じだって！」

「なんで金ないのに・・・。って、まぁ、事情はわかるけどなぁ」。

しかし僕たちは12時間以上の金の貸し借りはタブー。
もちろんチャーリーも仲間から借りるつもりなどはありません。

「う～～～～～ん」。

突然の難問に妙案もないまま、銀行へとに入る僕たち。

それを迎える支店長さん。
「いらっしゃいませ～～～～。皆様、お待ちしておりました～～～」。

皆様ぁ？こないだとエライ違いだなぁ・・支店長。
さすが商売人。

無理もありません。雁首揃えて定期預金。しかも全員二口め。
まんまと上客になっている僕たちでした。

「ったくよ～～～。なんだって定期・・・。ま、いいや。さっさと済ませてくれよ」。
立場が上と知るや、この前のことは勝手に水に流し、さっそく態度のデカイ西条くん。

が、
「いらっしゃいませ～。お兄さんも定期かなぁ？」

対応に出て来たのは、ゆき姉の代わりに入った女子行員さん！

「じゃ、この用紙にお名前。書いちゃってくれるかなぁ？」

これがまた奇麗なかただったものですから

「か、書いちゃいます～～。いくらでも書いちゃいます～～～。夜だってかいちゃいます～～～」。

こんなもんだ。西条。
「かく」が違う。

「あ！そのかわりにおねえさん！」

「なあに？」

「マムシに噛まれたらよろしくぅ～～～」。

「まむし？」

「歯、たてないでね」。

「は？？？」

いきなり知らないお姉さんにフoOOオ要請。