ぼくたちと駐在さんの700日戦争

順調だと思われた僕たちのツーリングですが、さすがにこの人数。
いろいろとおきます。

あわててそれを伝えに来たのはチャーリーでした。

「やべ！坂本、捕まった」
「捕まったって？」

「白バイ！」

「え～～～～～。またかよ～～～～～～」。
「いや。こないだは村山だろ？」

「どうでもいいけど、次から次だな」。
「助けなきゃ」。
「ああ」。

「五十嵐さんかなぁ」。

するとチャーリー。

「いや。違う。白バイだって言ってるだろ？」

そうです。五十嵐さんの白バイは、日本唯一のピンクバイ、いわゆる「桃バイ」でした。
これも僕たちのせいなわけですが。

僕たちは、トレノ組だけで作戦を話し合っていました。

「五十嵐さんじゃないとなるとなー」。
「まぁ、五十嵐さん、顔見知りでも喜んで捕まえるけどな」。
「うん。知り合いの甲斐ないよな」。
「人間じゃないよな」。
「うん。血が通ってない」。

好き放題。

しかし、打ち合わせはものの1分です。
なにしろ僕たちは、こういうシチュエーションに慣れまくっておりました。

あわてず。

さわがず。

「みんな言う通りにしてくれ」。
「ああ」。
「わかってるって！」

幸い捕まり立てらしく、坂本くんはまだバイクにまたいだままでした。
そこに白バイ警官さんがようやくバイクを降り、今、まさに坂本くんを捕まえようとしているところ。

「うん。今ならいける！」

僕は確証しました。

坂本くんは、僕たちの中でも最も大排気量にあたる360ccのバイクに乗っていました。
いわば一番速いわけで、単純に図にのったのでしょう。
なにしろのっぽさん部隊。こういうのに慣れていません。
つい高揚して、速度を上げてしまったのでしょう。

白バイにしても、グダグダとやっかいな「族」系を捕まえるよりは、素直にサインするツアラーを狙うのは成績を上げたい時の常道らしく、とにかくちょっと大きなバイクは彼らの格好の餌食でした。

僕は残りのバイクの仲間も集め、白バイよりちょっと後ろの広場に集結。

「いくぞ！」
「おお！」

坂本くんはすでに免許証提示を求められていました。
ここから状況確認があるわけなのですが、それまでの間は本当にわずかな時間しかありません。

「急げ！」

僕と千葉くんは、坂本くん救助へ。
千葉くんは、なんだかんだ言いながらも警察官の弟ですので、なにかと使える時が多いのです。
内部事情にもよく通じていました。

残った連中が白バイ担当です。

「さかもと～～～～～。どうした～～～～～」。

「んん？」

振り返ったのは、五十嵐さんよりはちょっと年齢が上かと思われる白バイ隊員さんでした。

県警の白バイ部隊は、いずれも五十嵐さんと同じ「交通機動隊」に属し、かなりの訓練をつんでいるため、同じ訓練仲間で、面識は必ずあります。
しかし、逆に言えば、警察に知り合いのいる人間は、けして少なくはありませんから、たいていの場合、それは悪あがきでしかありません。「そ～～～。お知り合い～～～～」くらいで流されるのが関の山です。

しかし、今回の作戦では、僕と千葉くんはほんの数分、白バイ警官を止めればいいことでした。
この程度のことで、いちいち名前を出されては、五十嵐さんもたまりませんので、僕たちもそこは避けたいところです。
千葉くんの兄は、まだ影響力を及ぼすには若すぎました。
階級も低く、むしろその名前を使うのは、出世の妨げになるくらいです。

このため、僕たちの目の前、坂本くんと警察官のやりとりは着々と進み

「うん。君、速度出しすぎだからね。何キロ出してたかわかる？」

僕はここで坂本くんに「ゼロサイン」。

これを確認した坂本くん

「えっと～～～。わかりません」。
（この答えはとっても重要）。

「いや。オーバーしてるから捕まえてるんだからね？何キロ出てたと思う？」

ここで残りの部隊が

いっせいに白バイを取り囲み

「すげ～～～～。本物の白バイってすっげーーー」。
「初めて見るぜ～～～～」。
「うん。白いってのがすごいな」。

まぁ・・・白バイだからね・・・。
西条ってば。もう少しましな感心のしかたないのか？

が、すぐ後ろでおきた騒ぎですので、白バイ警官もこれに気づきました。

「こらこら！お前達！なにやってんだ！」

「いえ～～～。社会見学です～～～」。
「僕たち白バイ見たことなくって～～～」。
「白バイって白いんですね～～～～」。

だから。白バイだから。
語源ってものを考えろ。西条。

「うわ～～～。でかい～～～」
「うわ～～～。かっけ～～～～～」
「うわ～～～。真っ白～～～～～」。

ひとりだけ、新しいザブみたいに感心している西条くん。

「いいから、今職務中だから！あっち行ったあっち行った！」

追い払われる西条くんたち。
むろん、坂本くんの仲間とは、さらさら思っていないわけですが。

なおも坂本くんとの公務を遂行しようとする白バイ隊員。

「いいかね。君、こっち来て。君の違反速度はねぇ・・・」。

と、ここまで言いかけた時

　キシュルルルルルン

イグニッションが回りました。
おそらくチャーリー。

「え！」

「すげ～～～。エンジンかかる～～～」。

「こ、こら！」

「やべ！逃げろ！」
「すいませんでした～～～。おまわりさ～～～ん」。
「もうしませ～～～～～ん」。

なにしろ警察官に詫びるのは、ほんっとうに慣れています。
おそらく全国一？
もし「全日本高校生警察謝罪コンクール」があれば、優勝候補間違いなし！
それほどの自信がありました。

とは言え、白バイのエンジンをかけたくらいは、悪戯の範疇ですから。
謝罪でじゅうぶんです。

僕は坂本くんにOKサイン。

「で。おまわりさん、僕、何キロオーバーでした？」

「えっとな。あ～～～～～～～～～～～～～～～！」

「ゼロキロですね。よかった～～～～」。

そうです。白バイの速度違反計測方式は、追尾方式。
狙った違反車両と同じ速度で走り、これをメーターで記録するのですが

このメーター。エンジンをかけ直す度にリセットされる仕掛けになっています。
さっきチャーリーがイグニッションを回したのは、これが狙いでした。

したがって坂本くんの出していた速度は0km（もしくは方式によって一旦180km/hにセットされる。今はわかりません）。

「ぜ、0キロ・・・・・・」。

「はい！ずっと停まってました！」

「く・・・・くそ～～～～～～～」。

白バイ隊員さん。後のまつり。


やがて白バイ隊員さん。気を取り直して

「とにかく速度出しすぎるんじゃないぞ！」

「は～～～～い」。

そう厳重注意を残し、さっそうとそこを立ち去ったのでした。

　クォォォォォォォォォォォォォォォ


「かっこいいなぁ。白バイ」。
「うん。かっこいい」。
「うん。なにしろ60mだからな」。
「今回は2枚重ねにしてみました」。
「あははは。がんじょ～～～～～～」。

言うまでもなく、トイレットペーパーを風にたなびかせて・・・。

（※よい子は決して真似しないでください）



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