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第8話 ハーメルンのホラ吹き(1)

「なんだ。電気屋さん、不良品持って来たのか?」
期待と歓びが大きかっただけに、井上父さんはすっかり不機嫌になってしまいました。
家族も同様です。
「いや・・・そんなはずは・・・」
しかし、いくらやってもテレビは映りません。あたりまえです。
上では、孝昭くんが切断されたアンテナケーブルにベロベロバーしてるんですから。ベロベロバーも映りませんけどね。
井上父さんは、怖いばかりではなく、ちょっと常識を逸脱したところのある人でした。世間的には偉い人なんですが。
偉い人に多いですよね。こういう無謀な人。
グレート井上くんの話を信じれば、今回テレビを買い替えた理由のひとつに
「巨人があんまり負けるので」
というのがあるらしいのですが、それが本当だとすると、たいへんな親父です。
今回は万全を期して、不測の事態に備えていた僕ですが、不測の事態は思わぬところで不測に起きました。
グレート井上くんが、なんの合図も送っていないのに、外でベルが勝手に鳴っているのです!
な、なんで?
僕とグレート井上くんはあせりました。これではテレビが映ってしまいます。
僕が外を見てみると・・・
なんと!
道路でガキどもが自転車遊びをしています。小学校1、2年生といったところでしょうか。
ベルはこいつらが鳴らしまくっているのでした。
「げ!」
「西条!」
僕は、庭班の西条くんに、めくばせしました。
なんとかしろ!西条!
西条くんは、やはり目で「了解!」と合図を返すと、ガキどものほうにかけよりました。
「あー。おまえらー、あつまれーー!」
ガキはガキにまかせるに限ります。
わらわらと、3、4人の子供たちが西条くんの前へ。
西条くんが言いました。
「お前ら、このあたりにUFOが来た跡があるの知ってるか?」
「えー!知らな~い」
「ウソばっかり~」
「俺がいままでお前らにウソついたことがあるか?」
と、西条くん。
「えー、だってお兄ちゃん、初めて会ったもん。あるわけないじゃん~」
幼な子の言う正論に
「バカヤロー!」本気で怒る西条くん。
「そういう問題じゃないんだ。いままでお前たちをだましたことあるか?ということだよ!」
「ない・・・・」
「ウン・・・ない・・・」
知能程度が同じということは、便利なことです。
「だろう?あっち側にあるんだよ。UFOの降りた跡が」
「へ~」
「よし!じゃぁ、俺といっしょに探検に行ってみよう!びっくりするぞ。お前ら」
「ホントに~?」
「ああ、本当だ。よし!お前、そこの鼻の赤いの!お前、副隊長だ!」
「ハイ!」
「え?僕は僕は?」
「お前は、キャプテン!いいな?」
「ハイ!」
「で、そこのちっこいお前。お前が大佐な」
「ハイ!」
あっと言うまに手なづけました。
「よし!出動だ!副隊長、キャプテン、大佐の順で続け!」
すごいなぁ。西条。それって才能だぞ。すでに。
でも気のせいか、お前が一番楽しそうだけどな。
しかし、このあたりにUFOが飛来した跡なんてあったでしょうか?聴いたことありません。
変わって居間では、井上父さんが極限に達していました。
「映らんテレビなぞいらん!持って帰れ!」
「いえ・・・だんなさん・・そんなはずでは・・・」
憔悴しきった電気屋オヤジ。
当時は現代の巨大家電店とは違い、すぐに替わりのテレビの在庫がある、というわけではありません。
つまり、持って帰ったら、替わりをすぐに持って来るというわけにはいかないのです。
「ちょっとアンテナ確認してきます・・・」
そこですかさずグレート井上くん、
「古いテレビは映るんだから、アンテナじゃないでしょ?」
「あ・・ああ。そうなんだけどね・・・」
「そうだ!古いテレビは、さっき映ってたじゃないか!!」
電気屋にすれば時間稼ぎのつもりだったのが、井上父さん。すっかりご機嫌ななめです。
「もういい!」
と、ここからがシナリオ。「僕」登場です。
「父さん。こいつ、無線とかやってて電気に詳しいんだけどさ。不良品じゃないって言うんだよ」
「え?あ~~、タカさんとこの。君、テレビなんかわかるのかい?」
タカさん、は、『俺たちはカメ』で再三説明した僕の母です。
僕は、母が有名であったおかげで、この年代のかたには、奇妙な信頼がありました。
持つべきものは優秀な親です。
「えー。少しは」
続けて僕。
「これはね。新しいテレビにありがちなんです。故障じゃないと思いますよ。まして不良品じゃありません」
「電気屋さん、ちょっとこいつにさわらせてみてよ」
グレート井上くんの棒読み台詞。
「いや・・・素人にはわからんよ。最新型だから」
とは言うものの返品は困りますから
「いえ。30秒もあればいいですよ」
という僕の申し出をしぶしぶ受けました。
ええ、実際は10秒もあればいいんですけどね。
僕は一旦テレビの裏側にまわり、今度は前の調整パネルを開けました。
ここで井上くんに目配せ。井上くんは頭で手を組み → ベルが鳴り → アンテナつながり
「映った!」
「映った!母さん、映ったよ!」
うーん。テレビが映ることをこんなに喜んでもらえるなんて。
電気屋はもっと驚きです。
「え?君、どうやって・・・」
「いや、これはですねー。固定チャンネルでなくなってから・・・・」
ここから延々と、横文字を羅列した意味のわからない説明をしましたが、なにしろ意味がわからないので当人も覚えておりません。
が
「へぇーーーーー」
と、まわりじゅうをうならせたのは間違いありませんでした。
真実を知るグレート井上くんだけが「よく言うよ。こいつ、信頼ならないなー」という顔してましたが。
その後、僕は手早くUHFのチャンネルを設定し、電気屋をうならせました。
「さすがタカさんの息子さんだねぇ」
と、井上父さん。
よろこびもひとしおで、
「これで巨人が勝つのを見れる!」
本当だったんだ・・・・・。
3章-第9話へつづく その頃の西条?
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第8話 ハーメルンのホラ吹き(1)

「なんだ。電気屋さん、不良品持って来たのか?」
期待と歓びが大きかっただけに、井上父さんはすっかり不機嫌になってしまいました。
家族も同様です。
「いや・・・そんなはずは・・・」
しかし、いくらやってもテレビは映りません。あたりまえです。
上では、孝昭くんが切断されたアンテナケーブルにベロベロバーしてるんですから。ベロベロバーも映りませんけどね。
井上父さんは、怖いばかりではなく、ちょっと常識を逸脱したところのある人でした。世間的には偉い人なんですが。
偉い人に多いですよね。こういう無謀な人。
グレート井上くんの話を信じれば、今回テレビを買い替えた理由のひとつに
「巨人があんまり負けるので」
というのがあるらしいのですが、それが本当だとすると、たいへんな親父です。
今回は万全を期して、不測の事態に備えていた僕ですが、不測の事態は思わぬところで不測に起きました。
グレート井上くんが、なんの合図も送っていないのに、外でベルが勝手に鳴っているのです!
な、なんで?
僕とグレート井上くんはあせりました。これではテレビが映ってしまいます。
僕が外を見てみると・・・
なんと!
道路でガキどもが自転車遊びをしています。小学校1、2年生といったところでしょうか。
ベルはこいつらが鳴らしまくっているのでした。
「げ!」
「西条!」
僕は、庭班の西条くんに、めくばせしました。
なんとかしろ!西条!
西条くんは、やはり目で「了解!」と合図を返すと、ガキどものほうにかけよりました。
「あー。おまえらー、あつまれーー!」
ガキはガキにまかせるに限ります。
わらわらと、3、4人の子供たちが西条くんの前へ。
西条くんが言いました。
「お前ら、このあたりにUFOが来た跡があるの知ってるか?」
「えー!知らな~い」
「ウソばっかり~」
「俺がいままでお前らにウソついたことがあるか?」
と、西条くん。
「えー、だってお兄ちゃん、初めて会ったもん。あるわけないじゃん~」
幼な子の言う正論に
「バカヤロー!」本気で怒る西条くん。
「そういう問題じゃないんだ。いままでお前たちをだましたことあるか?ということだよ!」
「ない・・・・」
「ウン・・・ない・・・」
知能程度が同じということは、便利なことです。
「だろう?あっち側にあるんだよ。UFOの降りた跡が」
「へ~」
「よし!じゃぁ、俺といっしょに探検に行ってみよう!びっくりするぞ。お前ら」
「ホントに~?」
「ああ、本当だ。よし!お前、そこの鼻の赤いの!お前、副隊長だ!」
「ハイ!」
「え?僕は僕は?」
「お前は、キャプテン!いいな?」
「ハイ!」
「で、そこのちっこいお前。お前が大佐な」
「ハイ!」
あっと言うまに手なづけました。
「よし!出動だ!副隊長、キャプテン、大佐の順で続け!」
すごいなぁ。西条。それって才能だぞ。すでに。
でも気のせいか、お前が一番楽しそうだけどな。
しかし、このあたりにUFOが飛来した跡なんてあったでしょうか?聴いたことありません。
変わって居間では、井上父さんが極限に達していました。
「映らんテレビなぞいらん!持って帰れ!」
「いえ・・・だんなさん・・そんなはずでは・・・」
憔悴しきった電気屋オヤジ。
当時は現代の巨大家電店とは違い、すぐに替わりのテレビの在庫がある、というわけではありません。
つまり、持って帰ったら、替わりをすぐに持って来るというわけにはいかないのです。
「ちょっとアンテナ確認してきます・・・」
そこですかさずグレート井上くん、
「古いテレビは映るんだから、アンテナじゃないでしょ?」
「あ・・ああ。そうなんだけどね・・・」
「そうだ!古いテレビは、さっき映ってたじゃないか!!」
電気屋にすれば時間稼ぎのつもりだったのが、井上父さん。すっかりご機嫌ななめです。
「もういい!」
と、ここからがシナリオ。「僕」登場です。
「父さん。こいつ、無線とかやってて電気に詳しいんだけどさ。不良品じゃないって言うんだよ」
「え?あ~~、タカさんとこの。君、テレビなんかわかるのかい?」
タカさん、は、『俺たちはカメ』で再三説明した僕の母です。
僕は、母が有名であったおかげで、この年代のかたには、奇妙な信頼がありました。
持つべきものは優秀な親です。
「えー。少しは」
続けて僕。
「これはね。新しいテレビにありがちなんです。故障じゃないと思いますよ。まして不良品じゃありません」
「電気屋さん、ちょっとこいつにさわらせてみてよ」
グレート井上くんの棒読み台詞。
「いや・・・素人にはわからんよ。最新型だから」
とは言うものの返品は困りますから
「いえ。30秒もあればいいですよ」
という僕の申し出をしぶしぶ受けました。
ええ、実際は10秒もあればいいんですけどね。
僕は一旦テレビの裏側にまわり、今度は前の調整パネルを開けました。
ここで井上くんに目配せ。井上くんは頭で手を組み → ベルが鳴り → アンテナつながり
「映った!」
「映った!母さん、映ったよ!」
うーん。テレビが映ることをこんなに喜んでもらえるなんて。
電気屋はもっと驚きです。
「え?君、どうやって・・・」
「いや、これはですねー。固定チャンネルでなくなってから・・・・」
ここから延々と、横文字を羅列した意味のわからない説明をしましたが、なにしろ意味がわからないので当人も覚えておりません。
が
「へぇーーーーー」
と、まわりじゅうをうならせたのは間違いありませんでした。
真実を知るグレート井上くんだけが「よく言うよ。こいつ、信頼ならないなー」という顔してましたが。
その後、僕は手早くUHFのチャンネルを設定し、電気屋をうならせました。
「さすがタカさんの息子さんだねぇ」
と、井上父さん。
よろこびもひとしおで、
「これで巨人が勝つのを見れる!」
本当だったんだ・・・・・。
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こんなんで巨人が勝つわけないじゃないですか!!
あはははは~
これで巨人が勝つんなら、
ママチャリさん電気屋さんに就職できちゃいますよねぇ~。
で、巨人FANのひとばっかりテレビ買うの~
巨人勝つためにテレビ買い換えるって……。
すごいですね。それで勝ったらもっとすごいじゃないですか!
だけど負けるたびに買い換えてたらすごい量になりそうですね(笑)
西条君、分かります!
あたしもかなり年下の子と普通に遊べました。
でも同じレベルなのか…って後で軽くショックでしたけど(泣)(笑)
じゃあオレ、阪神が勝つテレビ欲しい。
西条君と子供の関係って、このシリーズの結構重要なポイントだったんですね。