ぼくたちと駐在さんの700日戦争

悪いことに、駐在さんは私服でした。
まぁ、5時過ぎてましたから。原則として、公務以外で制服は着れないのです。

そこにきて、悪いことに、ケンちゃんは、みんなからの「お近づきのしるし」で泥酔状態でした。
まぁ、男女30人近くいるわけですから。1人1杯でも27杯。

さらに悪いことには、それぞれケンちゃんから返杯を受けるので、学生たちもホロ酔いでした。

もっと悪いことには、2人席の一番入奥にいたカップルが、これがまたすっかり出来上がっておりまして。

平面では表しにくいのですが、

　　↓こんな感じ
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横から見ると、こう・・・
（別にたくさんいるわけではない。これで2人）
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■┃　椅子　┃

さらにさらに悪いことに、コイツらに刺激された臨時カップルなどもおりまして、

あちこち、キスはしてるわ、酒は飲んでるわ、煙草でモウモウだわ・・・・

駐在さんが、

「ぁあああああ？」

と声を出すのも、職業がら当然なのでした。

問題は、その中に僕もいるということと、

そして、ケンちゃんという無敵の後ろ盾がいる（と勘違いしてる）中央の生徒たちが、すっかり気が大きくなってまして、

「なんだぁあ？テメェ」

なんと突っ立ってる駐在さんにカラみ始めまして・・・・

「ちょ、ちょっと！待て！」

という僕の制止も聞こえず、

「あーーー、お前がマッポかぁーーーー」

これを聞いて、さらに気の大きくなってるヤツが、

「おむゎわりぃ。そんなとこつっ立ってんじゃれ〜よ〜〜」

「さささ！かけつけ一杯だぜぇえ〜」


　ドボボボボボ‥

なんと！

頭からビールをかけたのです！

「んばっ・・・」「か・・・！」

文字通り泡をくったのが、僕とケンちゃんです！

お蝶夫人も、この時にはすっかりできあがっていまして、

「おいちゃん！アイツ、追い払ってぇな〜」

「え・・・・い・・・・・・」

「おいちゃん！どないしたん！」

「お・・・・おお・・・・・・」

ケンちゃんとて、姪っ子や、ましてその手下の手前、ここで詫びることはできません。

　バカがぁあ！

駐在さん！これは激怒で大暴れ！

「ケン坊・・・・・」

かと思ったら・・・・

「ケン坊・・・・お前、車だろ。帰り乗って帰るんじゃねぇぞ」


そう言い残して、

勝ち誇ったようなスケ番と不良の嘲笑の中、

店を出て行ったのでした・・・・・。


「ちゅ、駐在さん！ちょっと・・・・」


そうです。

駐在さんは、ケンちゃんに寄り添う花ちゃんを見て、ケンちゃんの置かれた立場を理解したのでした。

「巡査・・・・・・・・」

それは、僕の知らない、ケンちゃんと駐在さんの仲の深さを物語っていました。

ある意味、僕が嫉妬するほどに深い。

考えてみれば、ケンちゃんの父親は、駐在さんの師範でもあるわけで。

出来上がっていたお蝶夫人・・・いや、花ちゃんは、

「ええから。なに追っかけとんの？」

「うるさいっ！バカ女！」

僕は、この時初めて、女性に暴力らしい暴力をふるいました。

理由なんか分かりません。

ただ、一生悔やむことになるんだろうな、という感覚だけはありました。

酔っていた花ちゃんは、それほど、もののみごとにふっとんで、

気づいた瞬間に、僕は手下どもに囲まれていましたから。

「テメェ！」「元はテメェが原因だろが！」

が・・・・・・・・

「手ぇはなせ！」

そう言ったのは、なんとケンちゃんでした。


「巡査、追っかけるぞ。ガチャピン！」

「は・・・・・・はい！」


扉を開けたとたん、北風が僕とケンちゃんを押し戻すかのようでした。

　でも・・・・謝らなくっちゃ・・・・・！

　なんとしても駐在さんに追いついて・・・・！


なんのことはなく。駐在さんは、店の前の駐車場におられました。

「駐在さん・・・・！」「巡査・・・・！」

駐在さんは・・・・

「あ・・・・」


　スズキふぇら〜り

　保健所認定

　食中毒ケーキ屋


ケンちゃんのフロンテクーペに、ラクガキしている最中でした・・・・。


「巡査ぁあああああ！」


さすがだなぁ・・・・。


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