ぼくたちと駐在さんの700日戦争

春休み最後の日。

僕たちは村山くんの車に乗せられていました。
村山くんに免許があるとわかったとたんのこの酷使。

「村山ぁ。もっとスピード出ねぇのかよっ！」

助手席で騒いでいるのは西条くん。

「バカ言え。前に車がいるんだからこれ以上無理だよ」。

「だって前、サンマルだぜ？カローラさんまる！なんでトレノが抜けないわけ？」

「無茶言うな」。

「じゃぁよー。もうパイルダーオンしろよ！パイルダーオン！」

いや。マジンガーZになるくらいだったら、はじめっからそうしてると思いますが。

「あーーーー。じれってーーー！なんだって前のカローラぁ、遅いんだ？」

「いや。白いカローラが遅いのは常識だ」。

白いカローラは安全運転。これは当時、ほんとに常識でした。

「どけよーサンマルー。こっちゃトレノだぜ！トレノ！最上位機種だぞ、こらー！」

「落ち着けよ。西条」。

後部座席には、僕と森田くん。

「んあ？これが落ち着けっかよ！」

西条くんがなにをこんなに落ち着かないかと言いますと、原因はこの車の目的地にありました。

それがどこかと言いますと、なんとのぶ君の施設！
僕たちは、村山くんによって、車という実に格安で便利な移動手段を得たものですから、今まで交通費がネックとなって会えなかったのぶくんのところに行けるようになったのです。

会いに来られるのぶくんもうれしいでしょうが、西条くんはそれどころではないようです。
小学生にも劣る（勝る？）はしゃぎよう。

「あーーーー！じれってーーー！村山ぁ！ミサイルのスイッチはねぇのか？ミサイルはよー」。

「あるか。そんなもん」。

「これか？これ。ミサイルはよー」。

あたりかまわず押すものですから、ウィンカーが出たり、ウォッシャー液が飛び出したり、とにかく賑やか。

「こらこら。むやみにいじるな！西条！」

まるで幼稚園児をつれて歩くような大騒ぎ。


「もりたぁ！」

「な、なんだ？西条」。

「お前、ニトロ持って来てねぇのか？」
「持って来てないよ。そんな危ないもん、普通、高校生が持ち歩かないぞ」。

持ち歩かない以前に、そもそも「つくらない」というところが抜けてます。森田くん。
ちょっと高校生離れした会話です。

「森田！のっぽさん部隊で、来週までトレノにミサイルつけとけ！」

「いや・・・。ペネロープ号（サンダーバード）じゃないんだからさ・・・」。




「サンダーバードにできて、なんでお前らできないんだ？」

「いや・・・。人形劇といっしょにされても・・・・」。

むちゃくちゃです。西条くん。


こうして大騒ぎのまま、ようやくのぶくんの施設に到着。
正直、疲れはてました。

しかし、車を降りて施設正門前。
あらかじめ連絡していたこともあり、所長さんも一緒に門まで出迎えに来てくださいました。

「のぶ～～～～～～～～～～」

「お兄ちゃんたち～～～～」。

感動の再会。

「のぶ。ちゃんとメシ食わせてもらってっか？なんかでかくなんねーけど」。

　　ウォッホン。

所長さんが軽く咳払いしています。そりゃそうだ。

のぶくん
「無茶言わないでね。こないだ会ったの1月でしょ？」
小学生のほうがずっと正論。

「あー。1月だっけ？なんかなー。1年くらい会ってない気がするぜ」。

この日は、施設の許可ももらって、のぶくんを連れ出していいことになっていました。

所長さん。
「えっと。じゃ、外出の手続きしていただけるかしら？」

「あ・・・。は、はい」。

僕たちは、この許可を得るために、村山くんが高校生であることはひたすら伏せて、彼を責任者に仕立て上げたのです。
しかも保証人は駐在さん！
いくら仲がいいとは言え、高校生の運転する車に大切な子供は預けられません。

「4時までにはもどってくださいね」。

「はい。わかりました」。

のぶくんを後部座席に乗せると、西条くん。今度は自分も後部座席に。
助手席は僕です。

「さぁ！行くぞ！のぶ！」

「うん！」

「パイルダーーーーー、オーーーーン！」

西条くん。変わらずおおはしゃぎですが、これにのぶくん。

「それってマジンガーZ？」

「あ？うん。知ってんのか？」

「うん。でも・・・」

「ん？」

「むじゃきだね！西条兄ちゃん」。

「・・・・・・」。

小学生、しかも低学年に「むじゃき」とまで言われる西条くん。

でも、とりあえず僕たちの車はパイルダーオンして走り始めました。




　　　　11章-第2話へつづく→

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