ぼくたちと駐在さんの700日戦争

「わははは。ざまぁみやがれ！」

僕たちの逆襲は速攻でした。

”この顔にピンと来たならここ以外の交番へ”

その日のうちに指名手配書をつくり、夜明け前には交番の窓に貼付け。

「あー。全国でもめずらしいな。現役警察官で指名手配されたヤツ」。
「わははは。駐在の顔見て～～～～」。

とにかく、思い立ったら即行動が僕たちのいいところ。

「本署にも貼りにいくか？」

「いや。やめとこ。そんなことしたら能無し扱いされちゃうだろ？駐在さん」。

「あ。そうだな。ここだけでいっかぁ」。

まぁ、いずれにしても、自分の指名手配ポスターを自分の交番に貼られた、という前代未聞なマヌケ警官には違いありませんが・・・。

トップページにもある駐在さんの顔は、こうして生まれました。めでたしめでたし。


結局夜通しのドライブとなった僕たちでしたが、さすがに睡眠不足はきつく

孝昭くん。
「どうだ？俺んち泊まってくか？」

「んー。そうだな。どうせもうすぐ朝だし」。
「うん。村山、全員送ったらたいへんだもんな」。

村山くんだけが
「いや。僕は兄貴に車返さなくちゃいけないから」。

「あ。そうか。どうしよ？へこんだドア？」

「あいつ、おもいっきり蹴りいれやがって。今度あったらただじゃすまねぇ」。

孝昭くん。すでにただで済ましていませんが。

結局、トレノのドアのウチ張りをはがし、内側から蹴り返す、という横暴な修理法で、なんとそれなりに直したのです。
「まぁ、微調整はチャーリーにでもやらせろ」。

「うん。サンキュ。じゃぁな」。

村山くんのトレノは去っていきました。

久保くんと僕は、孝昭くんの家に泊まることにしました。

→ → → → → → → → → → → → → → → →

「ふううう。しんどい1日だったなぁ」。

すったもんだで、すでに時間は6時になろうとしていましたが、ようやく眠れることに、僕たちは安堵しました。

と、ウトウトしかけたとき


「孝昭！おきろーーーーーーーーー！」

「え？」

「ありゃ。お前らも泊まりにきてたのか？」

早苗お姉さん。

「あ・・・。おじゃましてます・・・。どうしたんです？こんな早朝から・・・・」。

「ああ。お前らもいるならちょうどいい！ラジオ体操するから来い！」

「え！ら、ラジオ体操？？？？」

「か、かんべんしてくれよ。姉ちゃん・・・なんでいきなりラジオ体操なんだよ・・・」。

「あん？いや。あたしも、4月からはOLだからね。きちんとした生活しないと」。

「え、じゃぁ、姉ちゃんだけきちんとしてくれよ・・・。俺ら眠いから・・・おやすみ・・・」。

が、早苗お姉さん

「ぼけぇ！ラジオ体操、ひとりでなんかできるかっ！」

と、布団の孝昭くんに激しく蹴り！

「ぐっ！」

「え・・・。な、ひとりでできなきゃ、しなきゃいいだろ？」

が、さらに早苗お姉さん、激しく激しく蹴り！

「ぐっ！ね、姉ちゃん、ごめん！ラジオ体操・・・する。したいから・・かんにんして」。

というわけで3人揃って寝不足のまま、孝昭くんちの庭へ。


「いやー。人数いてよかった！ひとりだと恥ずかしくってなー」。

ほんとに。ひとりで恥ずかしいならラジオ体操なんかしなきゃいいのに・・・。

「あ？OLの朝ってのはこうして始まんだよっ！」

気構えだけはわかりました・・・。
OL生活を少し勘違いしてるような気もしますが。


お姉さんの前に寝不足な顔をさらして、整列する僕たちでしたが

「さ！はじめるぞ！久保もいいか？」

「・・・は～い・・・」。

「なんだぁ！その返事はぁ！なめてんのか？てめぇ！」

すばやい蹴りっ！
孝昭君に継ぐ乱暴ものの久保くんも、ひとたまりもありません。

「す、すいませんでした・・・お姉さん・・・・」。


「よーし！番号！」

「いや。姉ちゃん、3人だから。番号いらねぇだろ・・」

「うっ」

なにが起きたかは、いちいち書かなくってもおわかりでしょう。


「番号！」

「1・・・」。「2・・・」。「3・・・」。

「よーし！ラジオ体操第1い～～～～～」

なんと早苗姉さん。しっかりカセットも用意。
”腕を前から上げて背伸びの運動～～～～♪”

しかもフルボリューム。まーうるせーうるせー。
ご近所も迷惑な話です。
となりの犬などはビックリして吠えまくっています。

もともと夜通し遊び歩いていたスケ番が、なれないことするからこうなるわけですが・・・。


こうして早朝から激しい運動にさらされた僕たち。
ようやくラジオ体操が終わると

「よし！さわやかに朝のジョギング行くぞ！」

「いや。姉ちゃん・・・。さわやかじゃないって・・・。俺たちまだろくに寝てね・・・」

「ぐっ！」
みぞおちパンチ。スピン付き！
孝昭くん、今朝から何発目でしょう？

「よし！さわやかに朝のジョギング行くぞ！」

「・・・は～～～～い・・・・」。

「番号！」

「え！同じ3人に決まってるでしょ？」

しまった。余計なこと言った・・・・。

「うっ！！！！」

こ、呼吸が・・・・。この状態でランニングできるか？

「番号！」

「1・・・」「2・・・」「3・・・」。あったりまえだっつーの。

が

いっちに、いっちに、

とうとう不眠のまま新OLの新日課。ジョギングまでつきあうはめに。

「そっか。スケ番お欄もOLかぁ・・・・」。

などと考えながら、ぶつぶつと走っておりますと、向かいから新聞配達のお兄さんが自転車でやってきました。
どこの町にもあるのどかな情景。

「おや。早苗ちゃん。どうした風のふきまわしだい？」

町の人にとっても非常に珍しい光景ではあるようです。

「困るなぁ。早苗ちゃんがそんなことすると。雨ふると配達たいへんなんだよ。あははは・・・」。

ガチャーーーーン

「・・・・・」「・・・・」「・・・・」

あわれ新聞配達さんは、自転車ごと路側帯の下へ・・・。
復帰できるでしょうか？


ご本人は健康になるかも知れませんが、町にとってはえらく打撃の大きい「早苗さんの新OLライフ」なのでした。
こんなことならスケ番でいてくれたほうが、まだましだったかも知れません・・・。

　　　　10章-第27話へつづく→

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