ぼくたちと駐在さんの700日戦争

孝昭くん。
「澪ちゃん、たっまんねーなー」。

戦略会議なのに話題はここから。まぁ、いつものことです。

西条くんも
「うん。ありゃすげー上玉だ。でもなー。かなりの乱暴もんだぞ」。

「え！女、乱暴でいいじゃん！」

「そ、そうか？」

孝昭くん。物心ついたときには姉の暴力を受けておりましたので、少し感覚がにぶっています。
なにしろ生理痛が痛いと言ってはみぞおち蹴り、フランダースのネロがいじめられたと言えばビンタ。
本人の落ち度にかかわらないこの仕打ち。
しかたないのかも知れません。

「いや。むしろ女は、それくらいじぇねぇとなー。な、お前も思うだろ？」

いや・・・思うだろ、とか言われても。
僕にはそういう姉、いないから・・・。

が、孝昭くんのこの理想女性論。エスカレート。

「女のビンタとか、たまんねぇよなぁ。なぁ？」

「えっ！あ？そ、そ、そ、そうかな？」

「うん。こう、女が凛としてパシーーーーって。たまんないものあるよな」。

だから、な、とか言われても。
やばい。孝昭。さんざんな被暴力の人生で、少し異世界に入りつつある。

しかしこの「異質な世界」から話題を変えたのも孝昭くん。

「ところでさぁ。村山ぁ。ちょっとポテチとコーラ買って来てくれよ」。

「え・・。孝昭。なんだっていつも僕なんだ？」

「だってお前がいくとさ。あそこの店、店番が娘のとき、すっげーサービスしてくれるじゃん」。

「そ・・・、そうかな・・・」。

「うん。普通コカコーラ1本にペプシ1本つかねぇから」。

うーん。大丈夫なのか？その店。

「え・・・。あれってなんかのキャンペーンかと思ってた・・・」。

「いやいや。村山ぁ。他社の飲料サービスしないって。普通」。

「え・・・。だっていつもついてくるから・・・」。

「これだからなぁ。この色男がぁ！」

憤慨した孝昭くんと久保くん、河野会長が3人掛かりで村山くんに襲いかかります。
彼らの攻撃対象は、主に村山くんのバッチリ決まったヘアスタイル。まぁ、せめてもの色男への報復策なのでしょう。
かなり空しいものはありますが。

この頃、僕たちの飲み物はコーラの500ml瓶と相場が決まっていました。
買い物は、たいてい1年坊が担当するのが普通ですが、孝昭くんの家の側の店には、僕たちと同じ学校の娘さんがいました。
このため、おまけ期待で、スーパー色男の村山くんをおつかいに出すことが多かったのです。

村山くんは、グレート井上くんや、僕と同じ中学で、寡黙であまり自分のことを話しません。
が、その割合に度胸が座っていて、上級生などにもまったく臆する事の無い勇気をかねそなえており、言ってみれば僕やチャーリーのまったく逆の性格でした。

そしてこの日も

「村山ぁ。なんだってお前スプライト買ってくんだよ！」

「え？いつも長持ちしていいかなって思って・・・」。

「バカ野郎！まずいから長持ちすんだろ？ったくなー。つかえねーヤツ」。

人に買い物させといて、これです。
村山くんは、素直で純朴なところがありましたので、こんな理屈の通らない言い草でも

「んー。ごめんな。孝昭」。
素直にあやまったりするのでした。

「スプライト、お前ひとりで飲めよ」

「ええええ。いや。僕はファンタオレンジが・・・」。

「やかましい！てめーにファンタは10年早い！」
「うん。そうそう。村山、スプライト」。
「スプライト村山」。

スプライトを買って来た、というだけでこの攻撃。
とにかく村山くんが口べたなのをいい事に、みんな好き放題。


が・・・。
この日、この状況が一変します。それはまさに青天の霹靂でした。


それはちょうど暴走族対策を話し合っていたときのこと。

「族相手だとなぁ。こっち原チャリ多いから機動力にかけるよな」。

「っていうか、そもそもバイクであいつらにかなわねぇって」。

「せめて250ないとしんどいよなぁ」。

「車あるとな。いいんだけど」。

「えーーー。無免許、かんべんだぜ」。
「そうそう。村山、停学くらってるし」。

「孝昭の姉ちゃんは？」

「お前、姉ちゃん、今年っからOLだぞ。OL。そんなことに使えっかって」。
そうでなくとも、頼むのは、かなり勇気がいりますが。

と、ここで村山くん。想定外なことを言い出しました。

「あ。車の免許ならあるよ」。

「はぁ？誰が」

「僕が」。

「なわけねぇだろ。まだ3月だぞ。誰も18になってねぇんだからよ」。

「それがなってる」。

「誰が？」

「僕が」。

「はぁぁぁぁぁぁぁああああああ？？？？」

「だ、だって。実質、俺ら高校2年、だぞ？」

「ああ。高校2年だけどな。18になってるんだ」。

「ああああああ？？？」

まさに晴天の霹靂。
だって村山くんとは中学1年から一緒。
それが1歳上だって言うわけですから驚きです。


「これ。免許証」。

村山くんが出したのは、それはまちがいなく普通乗用車の免許証でした。
確かに生年月日が1年前です。

「ななな、なんで？」

「じゃじゃじゃじゃじゃ、じゃー、実質1級上じゃん！」

「あー。うん。でも2年生だから」。

「えええええ！じゃ、村山・・・って先輩なわけ？」

「いや。先輩って・・・・」。

全員びっくりです。

特に孝昭くん。村山くんを好き放題にパシリに使った上に能無しよばわり。


「えっと・・・・。村山・・・さん、ファンタ、飲みます？」
「あれ？10年早いんじゃなかったっけ？」

「あ。いえ。あれ、9年の間違いでした・・・」。

孝昭くん。とりあえず計算は正しい。




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