ぼくたちと駐在さんの700日戦争

僕たちの後ろを、少し距離を開けて澪ちゃんレオくん姉弟。

グレート井上くん。こっそりと
「西条。お前の言ってたお姉ちゃんってあの子か」。

「え？あ、あーーーー。うん。そう、みたいだな」。

「確かに可愛いけど・・・。」
これは僕も認めるところです。

「だろ？いや。顔は知らなかったんだけどな。初めは」。

「そこがなぁ。信じられないよなぁ。人巻き込んでおいて」。

「確かに。そうだよな・・・。でも、そこが俺のいまひとつにくめないとこだよなぁ」。
「自分で言うな。馬鹿」。

「いや。だからな、姉ちゃんがいることは関係ねぇんだって。俺は純粋になー、こうレオのことをなー」

「ダウト！」「ダウト！」。
僕と井上くん。

「しかもなんか、たじたじにやられてなかったか？」

「うーん。めんぼくない。穴があったら入れてみたい」。

「穴があったら入りたい、だろ。まったくなー」。

「それがまー。予定外に孝昭の姉ちゃんみたいなやつだったんだよ」。

「あははは。へんな下心でこういうこと言い出すからだよ」。

「え！し、し、下心なんかねぇぞ！し、失敬だなーーー」。

「ダウト」。「ダウト」。

「でもお前ら2人揃えば安心だ。あれだけのはねっかえりだからな。どうしようかと思ってたけど・・・たのむ！はねっかえしてくれ！」

「いや。テニスじゃないんだからさ」。
うん。無茶言うな。

「うーん。お欄が去って、またお欄だなぁ」。

「え？そこまですごいの？そうなるとちょっと・・・」。

「いや、そこをなんとか。なんとかしてくれたら半分お前にやるからさ」。

「なにを半分？」

「え！んーと。匂い？」
「はぁ？」。

「いや。これがけっこういい匂いが・・・」。

と、ここで
「あの～～～～。本人いる前で話すことじゃないと思うんですが～」。
いつの間にか、すぐ後ろを歩いていた澪ちゃんの鋭い指摘。

「あ・・・・あれ？い、いつの間に・・・」

「あたしの匂いがなんですって？」

「えっと・・・」。

井上くんがとりなすように澪ちゃんたちの隣りで話しかけました。

「あ。僕は西条の友人で井上って言うんだけど・・・」。

「はいはいはいはい。井上さんですね！覚えました！はい！」
澪ちゃん。覚えはやっ！

「正直なところ、僕も今回の件には反対なんだけどさ・・・」。

「そ、そうですよね！馬鹿げてますよねー。対決だなんて」。

「馬鹿げてはいないだろうけど・・・。でも無茶だね」。

「あーーー。そうですよねーーー。井上さんとあたしってどうしてこんなに気が合うんでしょ！」
いや。どうしてこんなにって。まだひとつめだろ？

「無茶だけど・・・。でもやんなくちゃいけない」。

「は？」

「うん。こいつが言い出したからね」。

「え？西条さんって、井上さんの家来かなんかなんですか？」

おおおお。よかったな。井上。夏場からの初の逆転。


「僕たちはもともと暴力沙汰、得意じゃないんだけどさ」。

「じゃ、なんでですか？井上さんにしたら、私たちなんか他人じゃないですか」。

「え？うん。そうだね」。

「まして学校も、町まで違うのになんで・・・」。

「うーん。それはねぇ。君たちにはまったく関係ないんだ。悪いけど」。

「え？？」

「西条が言い出したからやる。それだけなんだよ。僕たちはね」。

「それって・・・。友情とかそういう？」

「え！いや。そう言われると答えにつまるけど・・・。昔っからそうやってきたんだ。僕たちは」。

「ふうん・・・・」。

澪ちゃん。納得したような、そうでもないような。

「男ってヘンですよね！」



ようやくスーパーへと移動した僕たち。

スーパーは混んでいて、小さな駐車場はごったがえしていました。

「ありゃ。今日混んでるなー。テラステーブル、空いてるかな」。
「うん。売り出しみたいだね」。

駐車場に入り切れない車が、イライラと順番待ちをしていました。
イライラしても物理的に入れませんから、どうしようもありません。
それを駐車場の整理係の人が、頭を下げながらさばいています。

そこからテラスの様子を見ていた僕は、思わず声をあげました。

「あ・・・・。あの人・・・・・・」。

「ん？知り合いか？」

「島根さん・・・・だ・・・・・」。

間違いありません。
駐車場を整理している初老の男性。
それが、先日駐在さんとポプラを訪れた島根さん、その人だったのです。

退官したばかりって言ってたけど・・・。もう働いてるのか？

僕はばつの悪さから、島根さんに気づかれないよう、そっとみんなをつれて、その場を離れました。
まだ高校生であった僕は、世の中の仕組みなどろくに知りませんでしたから、つい先日に聴いたばかりの英雄が、そんなふうにして働いていることがショックだったのです。

僕たちは結局、市役所前の噴水のまわりに座っていました。

「へー。駐在、そんなことで警察官になったのかぁ」。

この思わぬ出来事で、僕は西条くんたちに駐在さんの過去を話すことになりました。
それは当然澪ちゃんたちにも聴こえているわけですが。

「うん・・・まぁ。そうなんだ」。

と、ここで澪ちゃんが、少し声を荒げました。
「暴走族あがりで警察官なれるんですね」。

「そうだね・・・。まぁ、その出会いがあったからだけど」。

答える僕に

「でもその人もみんなに迷惑かけてきたんでしょ？」

「いや、それはそうなんだけど」。

「そんな人が警察官やってるんですか？」

これに西条くん
「いや、お前は俺たちの駐在知らねぇから」。

西条くんの”俺たちの駐在”という言葉は、僕と井上くんを驚かせ、また少し照れくさくもありました。

「あたしは許せません。そんなの絶対に！」

「いや。駐在をいっしょにすんなっ！」

西条くんも声を荒げました。

澪ちゃんも、暴走族やっぱりうらんでる。こんなにムキになるほど。
レオくんは、ふたりのやりとりにさすがにとまどっているようでした。

「あのね・・・あたしのお父さんはね・・・」。

噴水の水音に消されそうなほどに小さな声で、澪ちゃんがゆっくりと話し出しました。



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