ぼくたちと駐在さんの700日戦争

誰？と、聴くまでもなく、お客はカウンターにたったひとり。

「和美ぃ」。
「えへへ・・・。来ちゃった」。

僕はエプロンを結びながら

「あれ？どうしてわかった？ここにいるの」。
「うん。ジェミーくんが電話くれたの。わざわざ」。

へー。ジェミーがねぇ。

「だいぶ待った？」
「ううん。今来たとこ」。

と、彼女は言いましたが、マスターが僕の耳元で
「昼からずっと待ってたんだからね。この色男っ」。

そっか。和美らしいや。

「うん。でもよく来てくれたねー。なんかおごる？」
「ううん。それより・・・・」。

和美ちゃん。なにか言うために来たようですが、言葉をにごらせました。

「なに？」

「あのね。暴走族とやりあう、ってほんと？」
「え！それもジェミーが？」

「うん・・・。あとタクシー会社襲うとか・・・」。

いや。それはジェミーだけだろう。

「あたしね。君にあんまり危ない事、してほしくないの」。
「あ？うん」。

「西条くんたちは、ほら。なんて言うか、ケンカも強いからいいけど。君はちがうでしょ？」

言いにくいことをズバズバと。

「だからね。できればやめてほしいなーって・・・・」。

ここで話を聞いていたマスターが

「あ。そう言えば、こないだここで暴走族とやりあったんだってねー？」
「いえ。やりあったわけじゃないんですが」。

「最近、ここいらにも出没してるからねぇ。そいつら？」。

「ええ。ちょっと事情があるんです。夜桜連合とかってやつらで・・」。

するとマスター。

「夜桜・・・。蛇巣眠とやりあってるやつらだなぁ」。

蛇巣眠！

「え？マスター、蛇巣眠知ってるんですか？」

「え？そらー知ってるよ。伝説のグループだからねー。だいたい創設者が・・・・」。
と、ここまで言って、マスター。急に黙りましたが

「創設者。えらく美人な女性ですよね」。

「なんだー。知ってたのか。そりゃ美人だよ。加奈子さんだもの」。

「ちゅ、駐在さんの奥さん！？」

「ありゃ。知らなかったのか・・・・・」。

なんて誘導尋問の簡単な人でしょう。

「お、奥さんがレディースだったって噂、本当だったんですね」。

「んー。ちと違う」。

「え？」

「じゃ、駐在さんが族にいたって噂は？」

「あー。スターダストね。それもちと違う」。

「えええ？」

「そっかそっかー。君らにはわかんないよねー」。

「って言うか、なんでマスター、知ってるんです？」

「ん。スターダストにいたから。僕も」。

「ええええええええええええ！」

「いや。それ以前に、今みたいにいっぱいないから。バイク乗りのグループが」。

「へぇ・・・・。」

「駐在さんね。昔は”黒ヘル”って呼ばれて恐れられてたけど・・・」。

黒ヘル・・・。
そう言えば、駐在所にあったフルフェイス。黒かったっけ・・。

「だいたいにおいて、僕らの頃はね。暴走族って定義がなかったからね」。

「それよりもっと以前は”カミナリ族”って言われてたんだよね」。

耳にしたことはありました。

「もうあの頃はねー。バイク乗ってるってだけで不良扱いだから。ましてバイク乗り集まるなんてね。悪の巣窟みたいに言われて」。

「そんな時代もあったんですね」。

「今はほら。普通にツアラーっているけどね。世間はそんなもの区別しなかったんだよ。猫も杓子も不良」。

「スターダストは、初め、純粋にバイク乗りが好きなやつが集まったツアラーグループだったんだけどね」。

「そうだったんですか」。

「うん。でも世間からは不良の集まりって言われたわけだ。バイク乗ってるってだけでね」。

「ふうん・・・・。とんだ偏見ですね」。

「うーん。エレキギターやってるだけでも不良とか言われた時代だから。もっとすごいのは、鞄の取手にテープ巻いてるだけで不良とかね」。


エレキギターで不良・・・。じゃ、僕もとんだ不良だ。その時代なら。


「そんな時代だもの。バイクなんて不良も不良。当時のバイク、みんな2気筒か単気筒の2サイクルだからやかましかったしねぇ」。


「で。その2代目リーダーだったのが黒ヘル。そこの駐在さん」。

「え。リーダーだったんですか？」

「ま。リーダーなんて言ってもほら。ツーリンググループだったから。元は」。

「ふうん・・・」。

僕は、和美ちゃんの隣の椅子にこしかけて、マスターの昔話に耳をかたむけました。

「でもバイク乗りの集団だから。そのうちたくさん人間集まるうちにねぇ。あっちこっち分隊ができて・・・」

「気がついた時には収集できないほどでかくなってたんだよ。スターダストね。最大で500人くらいいたかなぁ」。

「ご、500人・・・」

「こうなるとさぁ。そのうち、あっちこっちの分隊が、人数にまかせて問題起こすようになってねぇ」。


おまたせしました。スターダスト伝説。
いよいよ次話から、時間をさかのぼってお届けいたします。



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