ぼくたちと駐在さんの700日戦争

が。ここで

RiRiRiRiRiRi

3回目の電話が鳴りました。

井上か？

「も、もしもし」。

「あ。あたしですー。先輩」。

げ！また？

「た、竹内さん？じゃ、さよなら」。

「あ。待ってください。先輩、あたし謝りたくって」。

お。改心したか？

「さっき、あの、変態よばわりしてすみませんでした・・・・」。

「え？い、いや。いいよ」。

「いろんなお友達に相談したんですけど、趣味はそれぞれだからって・・・・」。

相談した？
「え！赤ちゃんプレイのことか？」

「いえ。あのメインは、西条さんのことですけど・・・」。
そりゃそうだろう。僕の赤ちゃんプレイ・・・いや。そもそもやってもいないプレイで・・・。え！そうだんんん？

「え！でも、誰かに話したわけ？」

「あ。えと、先輩。大丈夫です。誰にもしゃべりませんから」。

しゃべってんじゃん！いろんなおともだちにっ！

「いえ。あのー。しゃべったのはひとりだったんですけど、みんな、その、赤ちゃんプレイに興味もって寄ってきちゃって・・・・」

寄って来た・・・・。頭がクラクラします。

「これ以上は話しません」。

ったりまえだ！どんだけ話したんだ？あのアマァ！
僕の赤ちゃん・・・いや。そもそもやってもいないプレイを。

「それって学校の？」

「ええ。もちろんです！同級生ですね！」

なに張り切って答えてんだ。こいつ・・・・。
もう謹慎解けなくてもいいや・・・。僕。



しかし、このアマにかまっている時間はありません。

僕は早々に電話を切ると、納屋から自転車を引きずり出しました。

母がこれに気づき
「お前、この雪道、自転車なんかで、どこ行くつもりだい？」

「え？駐在所」。

「ええええええ？またすでにしでかしたわけ？」

「いや、違うよ。信じろよ。息子を！」

「いやぁ。子供を信じるってことでは母ちゃんの右に出る人いないと思うね。いろんな意味で」。

いろんな意味で・・・ね。

「とにかく行って来るから」。

「学校から電話来たらなんて言っとく？」

「え。テキトーに寝込んだとか言っといてよ」。

「駐在所でかい？」

いや。それじゃバレバレだろう。母ちゃん。

「あ、それからねぇ」。

「なんだよ！急いでるんだからさ！」

「お前。駐在さんの奥さん、いくら妊婦だからって・・・」

「ん？」

「赤ちゃんプレイとかせがむんじゃないよ」。

げげ！つつぬけだったか？っていうかそこだけ？
馬鹿か・・・・母・・・・
もう、つくづく女性不信に陥りそうな僕。


駐在所は通学路にあります。
僕はひたすらに自転車を走らせていました。

雪道はすべりますが、大通りに出れば融雪道路。水さえ気にしなければ乾燥路と同じです。

ふと腕時計を見ると午後6時。

もし井上たちが行ったとするなら、この時間・・・。

僕は途中で駅に立ち寄ってみることにしました。

そして駅には、くだりの列車がついた後でした。

　ラッキー。

駅前に自転車を止めると、そこで信じがたい光景が繰り広げられていました。

なにやら大勢の子供たちが集まって、やんやの声援を送っています。

な、なんだ？

その真ん中では

ウサちゃんと、ピヨちゃんが死闘を繰り広げているのでした・・・・。

　あいつら・・・・。

するとどこで見ていたのか、僕の肩に手をおいてきたのは
「い、井上？」

「お前、謹慎中、こんな人ごみ来ちゃだめだろ？」

いや。人ごみつくってんのは、そこのウサちゃんとピヨちゃんだと思うけどね。

「井上。誰だ、あの中身」
「ああ。西条とジェミー。電車時間待ってるのが暇だからって始めたら、いっぱい客ついちゃって」。

そりゃそうでしょうとも。
ヒーローショーだって見れません。ウサギVSひよこ。

「そ、それで。お前。右京のとこ行ったって？」

「ん？ああ。孝昭に聴いたのか？」

グレート井上くんは少しもあわてふためく様子もありませんでした。

そして

「ごめんな」。

なんで・・・。謝るんだ？井上・・・・・。

「い、いや・・・・」。

僕はグレート井上くんの、予想もしなかった対応に、言葉が出て来ませんでした。

「でも、井上。お前、門限大丈夫なのか？」
「僕は。着ぐるみ返しに行かなくちゃいけないんだよ。心配するな。夕子がなんとかしてくれてる」。

「そうか・・・・。それなら・・・・。いいんだ」。

僕はグレート井上くんの口から出た「夕子ちゃん」の名前に思わず戸惑ってしまいました。

「それより、お前こそ謹慎中だろ？どこいくつもりだ？」。

そうだ。こうしちゃいられない。

「話は後だ。西条たちによろしくな！」

走り去る僕を、ウサちゃんとピヨちゃんが手を振って送っていました。



そして駐在所。

駐在所には奥さんしかいませんでした。

「あら？ママチャリくん。どうしたの？謹慎中って聴いたけど」。

「え・・・いえ・・・。あの・・・・・」。

僕は、奥さんのあまりにいつも通りの挨拶に、自分がここになにしに来たのか、自分でもよくわからなくなりました。

「あの・・・。駐在さんは・・・・」。

「え？ちょっと電気屋さんに行ったわ。なんかお客さんとのトラブルがあったみたいで」。

「奥さん・・・あの・・・」。

しかし、僕はここで駐在さんの執務する椅子の上に

「いえ・・・。いいんです」。

見覚えのない、黒いフルフェイスのヘルメットを発見して。

「あの・・・・」。

後はなんにも言えなくて・・・・。

「なぁに？」

バレたらクビだろ？駐在さん・・・。


「いえ。ありがとうございますって・・・・・」。

「なにを？」

「いえ・・・・・・・」。

「へんなママチャリくん」。




人気ブログランキングにはプチ予告ついてます（変わっていない場合は、また後ほどご覧ください）


　　　　9章-第59話へつづく→



mixiに「ぼくちゅうコミュ」ただいま740名参加で大賑わい！。mixiやってる方、ぜひどうぞ！

関連記事

• 9章-第59話 君のいた風景(4)
• 9章-第58話 君のいた風景(3)
• 9章-第57話 君のいた風景(2)