ぼくたちと駐在さんの700日戦争

居間にもどると母がラーメンをつくって待っていました。
「お昼にしましょ。お前、その手だからフォークにしといたから」。

「あ・・・。うん・・・」。

「どうしたの？うかない顔だね。悪い霊にでもとりつかれた？」

「はあ？」

「守護霊、弱いんだねぇ。お前」。

「母ちゃん。僕の少年マガジン、読んだろ？」

「え！な、なんだってそんな・・・」。

「わかるよ。『うしろの百太郎』読んだな？」

「そ、そんなことはともかく、なにを弱ってるんだい？」
とたんにごまかす母。

僕は、気休め程度に、母に和美ちゃんの顛末を話しました。
善くも悪くも、僕にとって、こういうことを話しやすい母親でした。

と、母。
「和美ちゃん、って。みどりちゃんのことだね？中学でいっしょだった子」

はぁ？みどり？

あ。わかった！
「母ちゃん、スライドしたまま覚えてるのか！？」

「え！そりゃそうよ」。

どういう記憶力だよ！

「だって同じ名前で間違えなきゃ、ダメージ少ないじゃない？」

ダメージで考えてたのか。
ろくな姑になんねーぞ。母ちゃん！

「で？その、みどりちゃんがどうしたって？」

「か・ず・み！」

→ → → → → → → → → → → → → → → → → →


「ふうん。3年生で転校はたいへんだねー。みどりちゃん」。

「うん」。
和美だけどね。

「その伯母さんは、みどりちゃん1年預かってもいいって言ってるわけだ？」

「ああ」。
和美だけどさ。

「その子、バレーボールやってるって言ったわよねぇ。みどりちゃん」。

「か・ず・み！ああ。エースアタッカーだよ。うまいんだ」。

「ふーん・・・・」。

母はちょっと考え込むと

「チャリーーーーン！」

ラーメンの割り箸をくるりと回し

「だんな。それは高くつきますぜ」。

母ちゃん。昨日、また『必殺仕業人』見たな・・・。
どうでもいいけど、あちこちにラーメンの汁とんでますけど。箸ふりまわすから。
テレビ画面にネギくっついてるし。

「え。母ちゃん、どうにかできるの？」
にわかに信じがたい話です。

「まぁ・・・。できないこともないわねぇ」。

「え！母ちゃん、和美の両親とも知り合いなのか？」

「え？いや。知らないこともないけど。母ちゃん中学でPTA代表やってたからね。でも、実の娘が泣いて頼んでダメなものを、他人がどうこう言っても無理よ」。
もっともな理屈です。

「じゃ、無理じゃん」。

「お前も覚えておくといいけど、蛇の道は重いのよ」。

「はぁ？」

「蛇の道はヘビーよ」。

はいはい。
英語なんざテキトーに覚えやがって。


「でもね。その子だって九州行ったら人生変わるでしょ？」

「え？ああ。当たり前だろうね」。

「ひょっとするとそっちに行くと、そのほうが幸せになれる可能性もある」。

「あ？うん。そうだね。可能性は少し低くなるだろうけど」。

「だからね。お前、その歳でその子の一生背負う覚悟あるの？」

「え・・・・」。

僕は言葉につまりました。

「一時期の互いの感情だけで、生涯変えることなんてできないでしょう」。

「う・・・でも・・・。本来はこっちにいるはずだったんだし」。

「それはそうね」。

「高校の転入は、同レベルには入れないのが普通だし」。

「ふんふん」。

「和美も・・・5年も僕のことを好きでいてくれたんだ」。

「お前はどうなの？」

「僕は・・・・・・・」。

僕はちょっと考え込んで

「僕はそれに応えたい。というか・・・」

「僕もずっと好きだったんだ。きっと」。

「じゃ、その子の一生を背負える？」

「それはわからないけど・・・。でもきっと後悔しない。僕も和美も」。

母は、それを聞いて大きくうなづくと

「よく言えたわね。お前。なかなかいい男になってきたよ」。

「え」。

「うん。わかった。母ちゃん、やるだけやってみるからね」。

母は、それっきり、その方法の詳細にはふれず、なにやら帳面をひきずり出して眺めていました。


「みどりちゃんだったわよね？」

「かーーーーずーーーーみっ！」

だいじょぶか？スライド母。





人気ブログランキングにはプチ予告ついてます（変わっていない場合は、また後ほどご覧ください）


　　　　9章-第52話へつづく→


mixiに「ぼくちゅうコミュ」ただいま730名参加で大賑わい！。mixiやってる方、ぜひどうぞ！

関連記事

• 9章：第52話 ぼくがつくった愛のうた(12)
• 9章-第51話 ぼくがつくった愛のうた(11)
• 9章-第50話 ぼくがつくった愛のうた(10)