「和美んちが引っ越し?引っ越しって、どこへ?」
「九州・・・らしい。うちの母ちゃんが言ってた」。
九州・・・。当時それは東北からはもはや海外にも等しい交通事情でした。
「ほら・・・うちの母ちゃん、和美んちの母ちゃんと親しいだろ?」
情報通の久保くんの情報が間違っていたことはほとんどありません。
それは確証とも言うべきものでした。
「おい」。
西条くんが言いました。
「和美、追っかけろよ」
「え?」
「ほら。”エロ本煩悩に帰らす”って言うじゃん」。
?
「それ・・・”覆水盆に帰らず*”って言いたいのか?」
(*お盆にこぼれた水と同じように失った物はもどってこないの意)
「とにかく、無くしたエロ本はもどってこねぇ!」
だからエロ本と女いっしょにするな!
しかし、僕はこの言葉に背中を押されました。
「悪いな、みんな。僕、とにかく追いかける!」
「ああ。そうしろ」。
「久保、さんきゅうな!」
久保くんは、ばつが悪そうに手を上げました。
玄関を出ると、路地を右側へ。
こっちが近道だ。
小さな坂道を下れば、大通りに。
と、思ったところで、僕を、実に意外なものが待ち受けていました。
いいえ。相手にとっても。
路地に停まっていた見覚えのある車。
右京・・・・・。
そしてセリカのドアが開きました。
「よー。久しぶりだなぁ」。
なんだってこんな時に・・・。
とにかく、つきあっている暇はありません。
「悪いけど先輩にかまってる暇ないんで・・・」。
急ぎ早にそこを通り抜けようとした僕でしたが
「いや。お前に暇がなくても、こっちにも用事があるんだ」。
右京は、僕のコートの襟を押さえました。
「まさかお前が最初に出て来るとはなー。ラッキー」。
待ち伏せ?してたのか?
右京のとなりに、もう一人、助手席から男が降りて来ていました。
しまった・・・野尻たち以外にも仲間・・・いたんだ・・・。
「なんの用だ?右京さん」。
右京は、フン、と鼻で笑いました。
「どうもヘンだと思ったら、お前の差し金か?まぁ、お前らにも多少は脳みそがあるってこった」。
野尻たちのことを言っているのでしょう。
仲間割れ作戦は、とりあえずは成功をおさめていた、ということです。
今、ここにいる計算外の仲間を除いては。
僕は黙っていました。
「どうだ?送り主のない手紙は堪えたろ?」
CAUTIONのことか・・・。やっぱりこいつだったか。
「不安なもんだろ?ああいうの。まさか男に出すことになるとは俺も思わなかったけどな」。
男に?
そう言えば、駐在さん「残りの11通は全て女性」って言ってた・・・。
なんで女に・・・。
しかし、この疑問に右京が勝手に答え出しました。自慢したいほどに良い手なのでしょう。
「もともとナンパの手段なのになぁ。男につかっても効き目あるもんだな。あはははは」。
ナンパ?
僕は癖で探りを入れました。
「あんたほどにモテる人がなんで、そんなことを・・・」。
「あ?あのなぁ。どんなにモテてもなー。きっかけがなきゃ女はひっかからないんだぜ?」
きっかけ?
「ああいう手紙をもらえば、女は不安になる。そこで声をかけんだよ。どうしました、ってな?」
・・・それで相談に乗るふりをして・・・か・・・
「自作自演か・・・」。
「そうそう。そりゃ大変ですね、学校には届けましたかってな?親身になってな」
「・・・・・・・・」。
「今日は心配でしょうから、送ってきますよって。まぁ、俺が言えば断る女なんかいなかったな。あとは落ちるまで送りとどけるだけだ。送り狼なのにな。あはははははは」。
右京は、必要以上に高い声で笑いました。
そうやってきっかけを作っていたのか・・・。
不審者情報も、おそらく右京が流したもの・・・とすれば・・・
「和美も・・・・お前か・・・」。
「ん?和美?あー。お前といた女、な。そこまでは読んでたんだろ?なぁ、神童の息子さんよー」。
そこまで調べ上げてる。
これはある種「家の場所もわかっている」という脅しでもあります。
「ああ。わかってたよ。右京さん」。
僕は、右京を睨み返しました。
しかし、右京の隣にいる坊主頭の男が、さらにきつい目つきで僕を睨んでいます。
「あんた、まだ和美をつけねらってんのか?」
右京はこれには答えず、すっとんきょうな表情をしました。
「和美といた男もあんたのさしがねか?」
僕は最も尋ねたかったことを尋ねました。
「あん?」
右京はまた同じような表情をしましたが、すぐに
「ああ。そうさ。お前、ボロボロにしてやるよ。あの女もなー」。
右京がその台詞を吐いた直後、
僕は拳を握っていました。
「うわあああああああああああああー!」
次の瞬間、僕は右京に殴り掛かっていました。
それは、まったく僕「らしからぬ行動」でした。
ガスッ
僕のパンチは、右京の顔面をかすめました。
が、すぐに
ドスッ!
僕は、右京のはげしい蹴り上げをくらい、その場にうずくまりました。
それからどれだけ2人に殴られ続けていたでしょう。
その全てがボディに入っていたために、僕は胃の中のものをほとんど吐き出しました。
呼吸もおぼつかないのに、胃の内容物を吐く苦しさは、すさまじく、
だめだ・・・やっぱ西条みたいにはいかないや・・・
やがて、自分の嘔吐物の上に、僕は沈みました。
「あのなぁ。俺、ボクシング始めたんだよ。まぁ、それでなくともお前なんざ相手じゃないけどな」。
そんなこと・・・わかりきってる・・・。
しかしそれは言葉になりませんでした。呼吸自体ができていないのです。
「カハ・・・・・」
僕の口から出るのは、ただただ音声のまじらない、苦痛だけでした。
右京たちは、僕の手のひらをブーツで踏みつけました。
やがて、雪の冷たさと激痛の中、手が感覚を失って行きます。
やばい・・・ピアノ・・・・。
最後に考えたことは、不思議にミュージカルのピアノのことでした。
本日2話連続アップ 9章-第48話へつづく→
「九州・・・らしい。うちの母ちゃんが言ってた」。
九州・・・。当時それは東北からはもはや海外にも等しい交通事情でした。
「ほら・・・うちの母ちゃん、和美んちの母ちゃんと親しいだろ?」
情報通の久保くんの情報が間違っていたことはほとんどありません。
それは確証とも言うべきものでした。
「おい」。
西条くんが言いました。
「和美、追っかけろよ」
「え?」
「ほら。”エロ本煩悩に帰らす”って言うじゃん」。
?
「それ・・・”覆水盆に帰らず*”って言いたいのか?」
(*お盆にこぼれた水と同じように失った物はもどってこないの意)
「とにかく、無くしたエロ本はもどってこねぇ!」
だからエロ本と女いっしょにするな!
しかし、僕はこの言葉に背中を押されました。
「悪いな、みんな。僕、とにかく追いかける!」
「ああ。そうしろ」。
「久保、さんきゅうな!」
久保くんは、ばつが悪そうに手を上げました。
玄関を出ると、路地を右側へ。
こっちが近道だ。
小さな坂道を下れば、大通りに。
と、思ったところで、僕を、実に意外なものが待ち受けていました。
いいえ。相手にとっても。
路地に停まっていた見覚えのある車。
右京・・・・・。
そしてセリカのドアが開きました。
「よー。久しぶりだなぁ」。
なんだってこんな時に・・・。
とにかく、つきあっている暇はありません。
「悪いけど先輩にかまってる暇ないんで・・・」。
急ぎ早にそこを通り抜けようとした僕でしたが
「いや。お前に暇がなくても、こっちにも用事があるんだ」。
右京は、僕のコートの襟を押さえました。
「まさかお前が最初に出て来るとはなー。ラッキー」。
待ち伏せ?してたのか?
右京のとなりに、もう一人、助手席から男が降りて来ていました。
しまった・・・野尻たち以外にも仲間・・・いたんだ・・・。
「なんの用だ?右京さん」。
右京は、フン、と鼻で笑いました。
「どうもヘンだと思ったら、お前の差し金か?まぁ、お前らにも多少は脳みそがあるってこった」。
野尻たちのことを言っているのでしょう。
仲間割れ作戦は、とりあえずは成功をおさめていた、ということです。
今、ここにいる計算外の仲間を除いては。
僕は黙っていました。
「どうだ?送り主のない手紙は堪えたろ?」
CAUTIONのことか・・・。やっぱりこいつだったか。
「不安なもんだろ?ああいうの。まさか男に出すことになるとは俺も思わなかったけどな」。
男に?
そう言えば、駐在さん「残りの11通は全て女性」って言ってた・・・。
なんで女に・・・。
しかし、この疑問に右京が勝手に答え出しました。自慢したいほどに良い手なのでしょう。
「もともとナンパの手段なのになぁ。男につかっても効き目あるもんだな。あはははは」。
ナンパ?
僕は癖で探りを入れました。
「あんたほどにモテる人がなんで、そんなことを・・・」。
「あ?あのなぁ。どんなにモテてもなー。きっかけがなきゃ女はひっかからないんだぜ?」
きっかけ?
「ああいう手紙をもらえば、女は不安になる。そこで声をかけんだよ。どうしました、ってな?」
・・・それで相談に乗るふりをして・・・か・・・
「自作自演か・・・」。
「そうそう。そりゃ大変ですね、学校には届けましたかってな?親身になってな」
「・・・・・・・・」。
「今日は心配でしょうから、送ってきますよって。まぁ、俺が言えば断る女なんかいなかったな。あとは落ちるまで送りとどけるだけだ。送り狼なのにな。あはははははは」。
右京は、必要以上に高い声で笑いました。
そうやってきっかけを作っていたのか・・・。
不審者情報も、おそらく右京が流したもの・・・とすれば・・・
「和美も・・・・お前か・・・」。
「ん?和美?あー。お前といた女、な。そこまでは読んでたんだろ?なぁ、神童の息子さんよー」。
そこまで調べ上げてる。
これはある種「家の場所もわかっている」という脅しでもあります。
「ああ。わかってたよ。右京さん」。
僕は、右京を睨み返しました。
しかし、右京の隣にいる坊主頭の男が、さらにきつい目つきで僕を睨んでいます。
「あんた、まだ和美をつけねらってんのか?」
右京はこれには答えず、すっとんきょうな表情をしました。
「和美といた男もあんたのさしがねか?」
僕は最も尋ねたかったことを尋ねました。
「あん?」
右京はまた同じような表情をしましたが、すぐに
「ああ。そうさ。お前、ボロボロにしてやるよ。あの女もなー」。
右京がその台詞を吐いた直後、
僕は拳を握っていました。
「うわあああああああああああああー!」
次の瞬間、僕は右京に殴り掛かっていました。
それは、まったく僕「らしからぬ行動」でした。
ガスッ
僕のパンチは、右京の顔面をかすめました。
が、すぐに
ドスッ!
僕は、右京のはげしい蹴り上げをくらい、その場にうずくまりました。
それからどれだけ2人に殴られ続けていたでしょう。
その全てがボディに入っていたために、僕は胃の中のものをほとんど吐き出しました。
呼吸もおぼつかないのに、胃の内容物を吐く苦しさは、すさまじく、
だめだ・・・やっぱ西条みたいにはいかないや・・・
やがて、自分の嘔吐物の上に、僕は沈みました。
「あのなぁ。俺、ボクシング始めたんだよ。まぁ、それでなくともお前なんざ相手じゃないけどな」。
そんなこと・・・わかりきってる・・・。
しかしそれは言葉になりませんでした。呼吸自体ができていないのです。
「カハ・・・・・」
僕の口から出るのは、ただただ音声のまじらない、苦痛だけでした。
右京たちは、僕の手のひらをブーツで踏みつけました。
やがて、雪の冷たさと激痛の中、手が感覚を失って行きます。
やばい・・・ピアノ・・・・。
最後に考えたことは、不思議にミュージカルのピアノのことでした。
本日2話連続アップ 9章-第48話へつづく→
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- 9章:第48話 ぼくがつくった愛のうた(8)
- 9章-第47話 ぼくがつくった愛のうた(7)
- 9章-第46話 ぼくがつくった愛のうた(6)
え~とまた一番乗りですかね?
右京登場!!
ママチャリピンチ!!
二話目どうなるんだろう・・・
…
冷や汗かいちゃう(>_<)
明日のこと考えず、2時まで起きちゃいます。
和美ちゃん九州行っちゃうんだ・・・しかも追いかけてる時に限って右京も出てくるし・・・悪いことは続くものですね・・・
なんて腐った男だ…
負けるな、ママチャリ!
はじめまして。
まいにちよんでます!
夜は、いつも持病が悪くなるんですが
心の息抜きになって、すごく救われてます。
2話目、ドキドキします。
ええええーっ?
これじゃあ、ママチャリくん危機一髪じゃないですかぁ!
ボクシングやってる人は喧嘩しちゃ、ダメなんですよ、右京、なんて卑怯なヤツ・・・!
続き、気になりますが、もうお休みなさいします・・・。
久保くん、いい男だなぁ。。。
っと、しみじみしてたら、右京登場!
しかもまた助っ人つれてるし、どこまで卑怯なんだろう。
自分の手口自分でしゃべるって、馬鹿なのか、自己顕示欲が強いのか?
気になる続きは、起きてからのお楽しみにしておきます。
どうしてこんなひどい目に。
和美さんにもあえなくなってしまう!
いったいどうなるんでしょう。
ママチャリさんの心と体の痛みを想像しても耐えられない思いです。
でも、もともと右京は何をねらってここにいたのでしょうか。
ママチャリぃ…。痛さが伝わります。
なんか、右京との会話が変ですね。
冷静さが全く無いから、弱みぽろぽろ見せてる感じ。
右京、どこまで腐りきった奴らなんだ!
許せん。全くもって許せない。
あ、もうすぐ1,900,000ですね。
右京め;;なんて卑怯な・・・・
隣の坊主頭は誰なんだろぉ
ママチャリかっこいいですねぇ(;-;*)
なんかピアノの事を考えてるあたりが・・・・
でも、早く和美ちゃんを追いかけたいですね;;
続きが気になるので2時までがんばりまぁす。
立て!ママチャリ!!コンジョー見せてくれ!
頼む!頼むから…!
なんで最初で和美さんへの自分の気持ちに気付かなかったのか…もどかしくなります(>_<)
あぁ、なんて間が悪い。
右京、おまえは自分一人じゃなんも出来んのか。
東北から九州が海外旅行って感覚なんとなく分かります。私も関東から北海道てのをやりましたから。(近年は本当に海外っていう笑えないオチもついてきました)
大きくなってからだと、余計つらいものがありますね。
くそー
右京テェメはいつかボコボコにしてやるぞ。
ママチャリくん・・・!
こういう展開は・・・心臓に悪いです;;
心配・・・><
>dosuenさん とりあえず一番載り認定!
すごいなー。連日。
コメントは48話でお返しします。
>はんきゅさん 初登校~
ようこそ~。
>はじめまして。
まいにちよんでます!
ありがたや。
>夜は、いつも持病が悪くなるんですが
>心の息抜きになって、すごく救われてます。
大丈夫ですか?
もう少しアップ早めにしますか?と言っても、なかなかできないんですけどねー。
くそーっ、何度読んでもむかつくなーっ!!
そんなに怖いヤツだとは、思ってなかったんですがぁ・・・。
やる事がいちいち、根性曲がりの右京!!!
ママチャリさん、負けるな、こんなとこで時間かけてたら、和美ちゃんがぁ・・・???
卑怯物の右京にかかわってないで、急いで和美ちゃん追いかけないとぉ・・・。
負けるなママチャリ
こんなザビエル右京げなママチャリやったらわんぱんで沈めれるやろ?
読むだけで息が苦しくなりそうです。
ママチャリさんが今も健在で
ピアノも弾けることを知っているから
どこかで安心しながら読むことが出来ますが
もし当時に直接の知り合いだったら
ママチャリさんが死んでしまうかも知れない恐怖や
ピアノが弾けなくなってしまうかも知れない恐ろしさで
身悶えするほど不安になると思います。