ぼくたちと駐在さんの700日戦争

にこやかな工場長さん。
「あー。話は井上さんから聞いておりましたから～、どうぞどうぞ。みなさん」。

なにしろ金の卵、15個。極めて丁重な扱いです。

「こちらがアルミを押し出す金型でー」

一通り工場をまわる僕たち。30分ほど工場内を見学すると、会議室へと通されました。
目的の座談会です。

僕たちは20坪（40帖）ほどの会議室のテーブルについていました。

「今、君たちの先輩が来ますから。まぁ、くったくなく話してください」。

「はい。ありがとうございます。參考になります」。

「それにしても先輩との座談会とはいいアイディアですねぇ。来年から当社でも取り入れようかなぁ」。

えー。僕たちにとってはもっといいアイディアです。工場長。

扉が開き、ぞろぞろと3人が入って来ました。
野尻たちです。

野尻たちは、ごく普通の会社員の挨拶をして入って来ましたが、ずらりと並んだ僕たちを見て、さすがに驚きが隠せないようでした。

「こ、後輩たちって・・・お・・・おまえ・・ら・・・」。

「あー。野尻くん。君の高校の後輩たちだ。今日は工場見学にみえられてね。で、伝えてあったように、社会人先輩である君たちと座談会をしたいんだそうだ」。

野尻たち3人は、怪訝そうな顔をしてようやく椅子に座りました。
すでに焦りが表情に出ています。

工場長が司会で話が始まりました。
僕たちの前には、会社案内のパンフレット。

「あー、我が社はー。資本金5千万円でー、現在の代表によって設立されましてー　」

もちろん、僕たちはこんな話はどうでもよく、ほとんどの話を、僕と井上くんとで流しました。
やがて質疑応答。
会社への質問、先輩への質問、と、まるで普通の会社訪問のようにこなし、野尻たちにも安堵がうかんだところで

「ところで工場長、社内規則とかのこと、うかがってもよろしいですかぁ？」

「はい。かまいませんよ」。

「えっと。無断欠勤は懲罰とかあるんですか？」
「無断欠勤は懲罰こそありませんが、あまりやらかすとクビになることもありますのでご注意を」。

一同、なごんだように笑います。
野尻たちにも笑みがこぼれています。

「では、刑事事件とかを起こすと、どうなりますかね？」

「け、刑事事件ですか？」

工場長さんも、突飛な質問に驚いたようです。

「ええ。懲罰の対象となりますか？」。

「それはもちろん、程度によりますが。刑事事件ともなれば懲罰対象になりますね」。

「暴力沙汰はどうでしょう？」

ここでようやく野尻たちの表情から血の気がなくなりました。

「暴力沙汰だと処分対象ですね」。

「えっと、処分と申しますと、どういう？」

「懲戒解雇となります」。

「クビってことですか？」

「そうですね」。

「うーん。社会人って厳しいんですねぇ」。

「はい。学校みたいに停学とかですませるわけにはいきません」。

うーん。工場長さん。こっちの望んだ以上の答えかたをしてくれます。
この質疑応答に、野尻たちは真っ青です。

「えっと。君はなにか？はじめっからなんか刑事事件起こすつもりで我が社に入るのですか？」
「いえいえ。めっそうもない」。
「そりゃごかんべん願いたいなー」。
「はい～」。

一同大笑い。
野尻達を除いてですが。
彼らだけは、この話を頬をひくつかせなが聞いていました。


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「ありがとうございました。工場長。とってもいい職場みたいで、僕たち感激です」。

「そうですかー。このように良い先輩たちもおりますから、卒業されましたら、ぜひ我が社に入社してください」。

「はい！ありがとうございました」


こうして僕たちは第1次作戦を終え、工場から出て来ました。


「振り向くな！西条。できるだけゆっくり歩け！」
「ああ・・・。でも、あいつらホントに追っかけてくるかな？」

「必ず来る。やっと就職できたのにクビかかってるわけだからな。みんなも振り向くなよ。庭を見学してるふりをしろ！」

僕たちは、工場の庭をとにかくチンタラ歩きました。

そして彼らは、僕たちの策略にみごとにひっかかってくれました。

背後から呼び止める声。
「おい！お前らー！待てよ！」

野尻たちだ！
大慌てで僕たちの方に走って来ます。

「来た！西条。バリトン、ぬかるなよ」。
「ああ」。

第2作戦開始！





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