ぼくたちと駐在さんの700日戦争

右京なら、確かに話が結びつきます。

「でも、なんでこのテープ送ったんだろ？」
「つきあってる相手に虫がつくのは、誰だっていやだろ？」

「ああ。確かに」
「そこを狙ったんだろ。片思い特集なら、さも気があるように見える」

グレート井上くんが続けます。

「確かに右京なら、女相手のほうが男相手より得意だからな。不安の与えかたも知ってる」
「そこで僕らの中からカップルを探したんだ。でも右京だったら・・・恵美ちゃんはもう使えないだろ？」

「そらそうだ」

「これで森田をはずしたことはうなづける。あと残りは西条と竹内さん・・・は、もうダメだけど・・」

「もうダメってなんだ！こるぁ！そ、そんなことねぇぞ！」

「でも、蔵書コレクション、見られたんだろ？竹内様に」
ここで孝昭くんが追い打ち。見るからにうれしそうなのは気のせいでしょうか？

「な・・・なんだって知ってる！？」

「え。もう全員知ってるぞ？」

「えええええ・・・」
とたんに落ち込む西条くん。

グレート井上くん。
「西条がたとえつきあってたって、右京じゃ手は出せないだろ。一番危険性高いからな」

「いやー。孝昭だろ。危険なのは」

「うん。人間的にはそうだけど、孝昭、彼女の可能性ないから。あはは」

あー。・・言ってはならないことを・・・。

「な、なんだとぉ！！！井上ぇ！てめーそんなこと言って、妹のクマがタダですむと思うなよ！」

ぬいぐるみにおどし？しかも

「あたし、ここにいますけど」

持ち主の目の前。孝昭くん、ぬかりました。

「孝昭さん！あたしのクマって・・・」
「あ・・・い、いや。なんでもないよ夕子ちゃん」

「デートリッヒのこと？」

あのクマ。名前ついてたのか・・・。夕子ちゃん・・・。
しかもドイツ人・・・じゃない、ドイツ熊？

「んーーーーー！怪しい！デートリッヒになにしたの？」

そらもう怪しいなんてもんじゃありません。
もう、あーんなことやこーんなことまでされてます。デートリッヒ。

「ま、まぁ。夕子。お前、あっちいってろよ。話しにくいからさ」

「イヤッ！孝昭さんたち、またなに話し出すかわかんないもん！」

するどいなー。兄に似て。


「続けろよ。井上。西条に手ぇ出せないのは俺らもわかる」
バリトンくんがせかしました。
少なくとも1年間、バリトンくんは右京と委員会の先輩後輩の間柄だったのです。
このため、河川敷の戦いでも、バリトンくんは参加していませんでした。

「うん・・そうだな。あと僕たちの中に彼女がいるやつはいないけど・・」

そうです。僕は和美ちゃんと噂だけはたっていました。そして先日、送って帰るところを目撃したのでしょう。

「それで照準を僕に定めた・・・」

「ああ。そこで右京は、まず和美ちゃんに『片思い』の曲を集めたテープを送った」

そうすればつきあっている相手、つまり僕は心中穏やかではなくなります。
そこに今度は、変質的な無記名の手紙を僕に送りつける。ますます不安は高まります。
これを続けられれば・・・まぁ、かなりまいることは間違いありません。
もしもつきあっていれば、の話だったのですが。

「自分は姿を現さず、徹底的に精神的苦痛を与えるつもりだったんだろ？右京は」

「あいつらしいや」

「もともと女心つかむのはうまいやつだからな」
「うん。考えそうなことだ」

「その目論見がはずれて・・・。あきらめるかと思ったら、今度は照準を僕たち全体に合わせてきた」

「ああ」

「ということは。右京の性格から考えて、なにか後ろ盾見つけたんだろうな」

「うーん」

「なにしろ、前回、あいつら片付けたのは、美奈子さんたちだから。僕ら単独ってわけじゃない」

確かにその通りです。美奈処連合がいなければ、はたしてどうなっていたか。
いえ。それ以前に美奈子さんがいなければ、解決できていたかどうかもあやしいところです。

「そうなると・・・用心したほうがいいな」
「ああ」

「次の手うってくるとすれば？」

「仲間を裂くところからだろ」

「ありえる」

と、なると

「とりあえず、和美ちゃんの身辺、用心しないと・・・」

「うーん・・・」

僕たちは、恵美ちゃんの事件の記憶が新しかったために、沈みこみました。
それほどに、憂鬱で「いやな事件」だったのです。

「まぁ。本人には用心してもらうとして・・・。ガード固めよう。和美ちゃん送る人数、増やそうか」

「そうだな。西条、つけるか？」

「あ？そりゃ電車時間と和美の露出度だな」
露出度が関係あるのか？この真冬に？

「いやいや。俺がつくよ。俺が。和美、胸でかいし」
どういう基準で選んでるわけだ？ボディガードを。
ていうか、こういうヤツにまかせて安心できるのか？

まだ右京のほうがましにさえ思えます。

「お前なぁ。胸で女判断するなっつってるだろ？」

西条くん。いつもここまではいいんですが

「女は尻だっつってんのに！」

これです・・・。

「あのなぁ。お前ら、下半身と口、直結か？」

「え・・・・」
「いや・・・・」
2人とも口を濁しますが

「口と下半身直結ってこたぁないぞ。なぁ」

「ああ。口までもどってきたら大変だ」
なにが？

「うん。さすがに味わいたくない。自分のでも」
だから自分のなにを？
「うはーーー。考えただけで気持ちわりーなー」

「いや・・・直結って・・・そういう体の構造じゃなくって・・・」

「わはははは」
反省の色なし。

「だいたい夕子ちゃんいるとこで・・・お前らは・・・」

「あ・・・・」

ところが夕子ちゃん。

「なぁに？口にもどってくるって？」

「えっとーーーーーー」
ほらみろ。

孝昭くんと西条くん。あせりまくりまして

「じ、じゃ、平城京の遷都問題についてでも話し合いますか？西条さん」
お前らが今さらそんな問題、話し合ってどうなる？

「そうですねー。じゃ、フレミングの相対性理論でも。孝昭さん」
相対性理論、フレミングじゃないし。

せいいっぱい高校生らしい会話をしようとする2人ですが、

「あれ？フレミングって犬だっけ？」
これだし。

「フレミングは左手の法則、でしょ！？」
中3の夕子ちゃんに言われています。

「あ、そーかー。こうだ」

左手の中指をつきたてる西条くん。
いや。西条。お前の手「ファックユー」だ、それ。
にもかかわらず

「この中指が磁界の向きだっけ？」

じゃぁ電流はどこだ？
だいたい、それ以前に左右同じになってしまいます。
フレミングも草葉の陰で泣いてることでしょう。


業を煮やしたグレート井上くん。
「とにかく、和美ちゃんには孝昭と久保、追加でつけよう」

「いいけど。でも・・・。それいつまで続ける？井上」
「うん・・・。まぁ、とりあえずはコーラス練習終わるまで・・・」
「もう1ヶ月以上あるぞ？」

と、なれば方向性はおのずと決まります。

「攻撃は最大の防御、だな」
「ああ・・・。動くしかないか」

そして僕たちは作戦会議に入りました。

と、
「ねぇ・・・・」
唐突に夕子ちゃん。

「デートリッヒになにしたの？」

デートリッヒはねぇ。夕子ちゃん・・・・



　　　　9章-第25話へつづく→

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