ぼくたちと駐在さんの700日戦争

ナノショート『ご良家』

ドイツから、有名なオペラ歌手が富山に演奏会に来る、というので、県音楽祭参加校の中から、それぞれ1名ずつが招待されることになりました。

富山県というところは、僕たちの地域から行くのには、大変不便なところで、石川県にある小松空港でまいったん飛行機で行ってから、延々とバスやら電車やらを乗り継がなくてはなりません。

我が校からは、

「井上！行って来いよ、我々ジャージ部を代表して！」
「コーラス部だろ？」

というわけで、ジャージ部部長であるグレート井上くんが行くことになりました。

「コーラス部！」

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

当日、J空港には、各校の代表4名ほどが集められたのですが、
その中で、Y高校の畠山くん、というヤツが、鼻持ちのならないイヤなヤツでした。

聴けば、畠山くん。
かつての名家、『能登・畠山家』の流れをくんでいるのだそうで、

「え！君ら、知らないの？畠山景広とか！」

「さーーー・・・」「知らない・・・・」

「あ。そうか！君ら西高だもんねぇ！わかるわけないか！アハハハ」

ほんっとヤなやつ。

「畠山景広は、Y藩士だよ。能登あたりでは有名だ」
と、さすがグレート井上くん。

「へー・・・」「Y藩士ねぇ・・・・」

みんなは納得せざるをえませんでしたが、

「よかった。わかる君が一緒でよかったよ！井上くんって言ったっけ？」

くそ～～～～・・・・・

井上くんちだって、たいへんな名家ですが、それは商人としての話で、地域も限られているのです。
僕たちは、なにも口答えしないグレート井上くんが、口惜しいやら、もどかしいやら。

「あ。井上、そろそろ搭乗時間だぞ？」

すると畠山くん、
「あ、ほんとだ。じゃ、そろそろ行こうか。井上クン」

井上くんを後ろに従えて搭乗手続きに行きました。

が。搭乗手続きでは、受付の女性が、井上くんを見かけると、

「あ！いらっしゃいませ！上杉様」

「う・・・上杉様って・・・・・・・・」
驚く畠山くん。

「今日は鎧じゃないんですね！ウフフ」

「ええ・・・・今日は・・・・」

そうなのです。J空港では、グレート井上くんは、かつて超常連で超有名人！(『走れ！チャーリー号』）
なにしろ、空港の有史以来、初めて鎧兜で搭乗した人物ですから。
空港の職員で知らない者はいません。

「あ、小松空港～？あ、わかった！川中島ですね？上杉様」
「えっと・・・まぁ・・・・・」

「がんばってくださいね！川中島！」
「応援してますわ！上杉様！」

「ども・・・」

「武田がたに負けないでね！上杉様」

「がんばります・・・」

金属探知機を無事通ると、

「上杉様、ご搭乗～～～～～～～！」
「へへーーーーーーーー！」

畠山くん、
「き・・・・君っていったい・・・・？」

グレート井上くん圧勝。


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