ぼくたちと駐在さんの700日戦争

「せんぱ～～～～～い！」

奈落の底からジェミー。

「丈夫だなー、ジェミー」
「さすが地軸だけあるな！」

しかし、

「トゥモロー！　生きてます～～～～～～～～～！」

「あ？トゥモローってなんだ？」
と、みんな。
「ああ、ジェミーが名前つけたんだよ」
「秘所地の出来事に？」
「そうそう」

意味は「明後日」

「もう名前つけたのかよ・・・・・」
「西条といい、ジェミーといい・・・・」

久保くんがあきれるのも、もっともですが。

「もっといい名前あんだろが」

え？ あきれたのってそこ!?

それを言うなら、豚に『タカギ』だっていい勝負です。

「あれはテメェがつけたんだろがぁ！」

そうでしたっけ？

とにかく。「ジェミーは頑丈」。
ここは間違っていませんでした。
しかも熊が確認できるくらいに、下まで下りれた（落ちた？）ようです。

「わかるのかーーーーー？ジェミーーーー」

「すぐそこで動いてます～～～～～～！」

「そうかーーーー」
「そりゃ、よかったーーーー」
「よかったよかったーーーー」

「よくありません～～～～！さっさと引き上げてください～～～～！」

そりゃそうだ。
動いてるとなれば、シャレになりません。

けれども、

「引き上げろったって・・・・」

ここでロープを引っ張れば、今度はガムテープだけのとこで切れる可能性大。
さっきは、ゴムの伸びる力よりも強かっただけのことですから。

「駐在のロープ、待つしかないかー」
「なんか、くやしいなぁ」

しばらく善後策を練るのですが、もうロープになるものがありません。

ところが。

「か、和美～!?」「ほんとだ！和美！」
「なんだってここへーーー？」

「バカ！なんだってそんな短いスカートでくる！」
と、僕。

カレシらしく怒ったところで、

「ハァ、ハァ・・・・、和美センパイ、どこですか～～～～～？」

「あ。ほんとだ！登って来た！」
「ってか、はやっっ！」
「登れんじゃん」

男なんぞ、こんなもんです。
学生服は泥だらけですが、伸びきったゴムロープと「予備の足」を駆使して、しっかり登って来たジェミー。

「え？和美センパイ・・・は？短いスカート・・・・は？」

「ウソに決まってんだろ。バカが」
「わははははは」

「え～～～～～～～！汚いです～～～～～～～！」

地の底から這い上がったジェミー。心の底からくやしそう。

「また落ちてやる～～～～！」

でも、「負け惜しみかた」を完全に間違ってます。

「和美がこんなとこ来るわけないだろ？」

だいたいにおいて、和美ちゃんは、僕のカノジョなのであって。

「あ、そういうことは関係ありません！」
言い切るジェミー。

それは、僕たちが加奈子さんに憧れるのと同じなのかも知れません。
加奈子さんは結婚されていますが、それで僕たちのモチベーションが下がるか、というと、そうでもなく。
むしろ「良妻」である加奈子さんに、なおのこと惹かれていくのです。そのぶん、夫である駐在さんには、憎しみが増すことになるのですが。

ジェミーは、加奈子さんの「美しさ」は認めるものの、まったくといって興味を示しません。
いえ、美奈子さんにも。アイドル夕子ちゃんにも、興味を持ったことがないのですが、和美ちゃんに対しては、ちがいます。
やはり「ブラを共有した」ことが影響しているのでしょう。
僕のほうも、とりたてて目くじらを立てることもなかったのですが、

「いつか、和美センパイも、人生の過ちに気づきますから！アハハハ～」

人生の過ち・・・・・。

さっきまで崖下にいたくせに、すでにこの態度。

「ま～～～～～、『恋は放牧』って言いますからね～！」

『恋は盲目』だろが・・・。
どこ農場の話だ？恋は放牧。

「・・・・で、ジェミー。熊はどうだったんだ？」

かんじんな質問です。
その確認のために下りたわけですから。

「あ。みなさんが上から見てたのは、秘所地じゃありません。あれ、実は横腹あたりです～」

「そんなこたぁ、わかってんだよ！」

「直毛でしたよ？」

「・・・・・・・」「・・・・・・・」「・・・・・・・」

あー、あいかわらず使えねー。

「誰も熊にちぢれ毛、期待してねぇよっ！」

「じゃ、なんのちぢれ毛、期待してたんですかぁ～」

「な、なんのって・・・。なぁ？」
「え？う、うん」
「ちぢれ毛って言えばなぁ？」
「えへへ・・・」

こらこら。そこで負けてどうする！

「だいたい熊がちぢれ毛かどうかなんぞ、わかんねーだろが！」
「そうだそうだ！そんなに近くまで行ったのかよ！」

「ちぢれ毛」って言い始めたら「ちぢれ毛」。
毎度、流されるままの漂流会議。

「わかるんですぅ～！熊は直毛なんですぅ～！」

ジェミー意地をはります。
この際、直毛でも、ちぢれていても、どっちでもいいようなもんですが、

「テキトーなことを～」
「相手にすんな、相手に」

「証拠があるんですぅ～～～」

「へぇ～」
「出してみろよ」

「だって、そこにいます」

「ぁあ？」「え？」「はあ？」

ジェミーにうながされ、振り向くと、


「子熊っ!?」「モロッコ!?」

グゥ～

なんで、モロッコ？？？



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